第19話 「湯気の向こうで、言葉がほどける。」
脱衣所に入ると、
外の冷たさが嘘みたいに、空気がやわらかくなる。
「はぁ……あったかい匂いする。」
友奈が小さく伸びをした。
「もうこの時点で勝ちじゃない?」
小春が笑う。
浴衣を脱いで、髪をまとめて。
誰も急がない。
山寺で汗をかいて、
前髪が崩れて、
今さら取り繕う必要もなかった。
「……すっぴんになると、
ほんとに修学旅行感あるね。」
美結が鏡を見ながら言う。
「今さらだよ。」
友奈が即答する。
「むしろ今のほうが安心する。」
紗月が静かに言った。
陽芽は髪をまとめながら、
少しだけ緊張している。
(……大丈夫。みんないる)
そう思うだけで、
肩の力が抜けた。
扉を開けると、
ふわっと白い湯気が広がる。
「……わ。」
誰かの声が、自然と小さくなる。
湯船は広く、
照明は落ち着いていて、
水面が静かに揺れている。
一人ずつ、ゆっくり湯に浸かる。
「あ……。」
友奈が声を漏らす。
「生き返る……。」
「これは……やばい。」
小春も目を閉じる。
「山寺の疲れ、
一気に来てる感じする。」
美結が肩まで沈む。
湯の熱が、
足から、背中から、
じわじわと広がっていく。
何も考えなくていい。
ただ、ここにいればいい。
そんな感覚。
瑞希は、湯船の端で静かに浸かっていた。
少し離れたところに、陽芽がいる。
視線が合って、
どちらともなく、少しだけ笑う。
「……さっき、ありがとう。」
陽芽が小さく言った。
「……気にしなくていい。」
瑞希はそう返して、
視線を湯面に落とした。
でも、
その距離は、さっきよりも近かった。
紗月は、湯気の向こうで言った。
「山寺、大変だったけど……
こうして入ると、全部報われる気がする。」
「わかる。」
彩羽が頷く。
「疲れが、ちゃんと意味になる感じ。」
叶は、少し離れた場所から、
みんなの様子を見ていた。
無理していない。
誰も取り残されていない。
そのことが、
なにより嬉しかった。
「……ねえ。」
友奈が言う。
「こうやってみんなで来れて、よかったよね。」
誰もすぐには答えなかった。
でも、
否定する人はいなかった。
湯気の中で、
言葉は少なくても、
気持ちはちゃんと伝わっている。
湯から上がる頃には、
体も、心も、すっかり温まっていた。
脱衣所で髪を拭きながら、
美結が言う。
「このあとさ……
絶対ブッフェ、最高じゃない?」
「確定演出。」
小春が即答する。
「その前に、ちょっと休憩。」
叶が言った。
「ラウンジ、寄ってみる?」
その提案に、
空気が少しだけ弾む。
温泉でほどけた心は、
次の時間を、ちゃんと楽しむ準備ができていた。
次は
ラウンジの灯りと、
少しだけ大人な時間。




