第18話 「浴衣と、少し近づく距離。」
部屋の隅に、色とりどりの浴衣がきれいに並べられていた。
「わ、種類多い。」
美結が目を輝かせる。
「どれにする?」
友奈はすでに一枚手に取っている。
「これ、かわいくない?」
「友奈っぽい。」
小春が即答する。
「即決すぎない?」
友奈は笑いながらも、その浴衣を胸に抱えた。
紗月は少し離れたところで、静かに柄を見比べている。
淡い色、控えめな模様。
「それ、紗月に合いそう。」
陽芽が言う。
「……ほんと?」
紗月は少し照れたように笑って、その一枚を選んだ。
彩羽は、端のほうにある落ち着いた色合いの浴衣を手に取る。
柄は少ないけれど、どこか品がある。
「彩羽っぽいね。」
瑞希が言う。
「そうかな。」
彩羽は小さく頷いた。
美結は、最後まで迷っていた。
華やかな柄と、少し大人っぽい柄。
「どっちだと思う?」
叶に聞く。
「……どっちも似合うけど。」
叶は少し考えてから言う。
「今の気分で選べば?」
その言葉に、美結は笑った。
「じゃあ、こっち。」
少し落ち着いた色の浴衣。
瑞希は、無言で一枚を選んでいた。
シンプルで、色も控えめ。
「意外と無難だね。」
友奈が言う。
「……楽なのがいい。」
瑞希はそれだけ答えた。
更衣スペースに分かれる前、
陽芽が自分の浴衣を見下ろして、小さく言う。
「……ちゃんと着れるかな。」
「大丈夫。」
紗月がすぐに言った。
「一緒にやろ。」
その言葉に、陽芽の表情が少し緩んだ。
着替え終わって、
一人、また一人と部屋に戻ってくる。
「……おお。」
小春が声を上げる。
「雰囲気変わるね。」
「なんか、旅って感じする。」
友奈がくるっと回る。
美結は鏡を見て、前髪を整えながら言った。
「山寺のダメージ、ここでリセット。」
「完全には戻ってないけどね。」
小春が笑う。
「言わないで。」
美結も笑って返す。
瑞希は、陽芽の浴衣姿を見て、少し目を細めた。
「……似合ってる。」
小さな声。
「え。」
陽芽は一瞬きょとんとしてから、
「……ありがとう。」と微笑んだ。
叶は、全員が揃ったのを見て言った。
「じゃあ、行こっか。」
行き先は、温泉。
部屋を出るとき、
誰かが言った。
「なんかさ。」
友奈だった。
「浴衣着ると、ちょっと大人になった気分。」
「気分だけね。」
小春が突っ込む。
「でも、悪くない。」
彩羽が静かに言う。
廊下を歩く音が、
さっきよりも軽い。
浴衣の袖が揺れて、
歩幅が自然と合う。
山寺で縮まった距離が、
浴衣によって、また少しだけ近づいた。
このあと待っているのは、
あたたかい湯と、
誰にも邪魔されない時間。
次は
温泉でほどける心と、
思いがけない会話。




