第11話 「チェックインまで、あと3時間。」
山のほうへ向かう道は、温泉街よりもずっと静かだった。
窓の外には背の高い杉の木が続き、その枝先に、白いものがちらほらと残っている。
「あれ、雪じゃない?」
美結が声を上げる。
「ほんとだ。」
叶がフロントガラス越しに確認する。
「まだ薄いけど、残ってるね。」
「初雪じゃん。」
友奈が嬉しそうに言った。
「なんか得した気分。」
瑞希は窓の外を見つめたまま、小さく息を吐く。
「……寒そう。」
駐車場に車を停めると、空気が一段、冷たくなった。
「さむっ……!」
友奈が肩をすくめる。
「でも、空気きれい。」
紗月がそう言って、ゆっくり深呼吸する。
陽芽は足元を見て、少し不安そうに言った。
「……道、滑らないかな。」
「大丈夫でしょ。」
小春が軽く言う。
「たぶん。」
たぶん、という言葉に、誰も深く考えなかった。
入口に近づくと、石段が視界に入る。
上へ、上へ。
まっすぐ続く階段。
「……え。」
美結が立ち止まる。
「これ……全部、階段?」
彩羽が静かに頷く。
「うん。たしか、千段くらい。」
「千段!?」
友奈の声がひっくり返る。
「聞いてない聞いてない!」
瑞希が苦笑する。
「今さら引き返す?」
「……無理でしょ。」
叶が言った。
「来ちゃったし。」
陽芽はブーツのつま先を見つめる。
可愛さ重視で選んだ、少しヒールのある靴。
大丈夫かな、と思ったけれど、言えなかった。
「とりあえず、行けるとこまで行ってみよ。」
叶の言葉に、みんな自然と頷いた。
最初の数段は、まだ余裕だった。
「え、意外といけるくない?」
友奈が笑う。
「景色いいし!」
美結はすでに写真を撮っている。
でも、十段、二十段、三十段。
少しずつ、息が変わってくる。
「あ、ちょっと……滑る。」
陽芽が小さく声を出した。
石段の端に、うっすらと雪。
その上から、杉の木から落ちた水が滲んでいる。
「ほんとだ……。」
紗月が慎重に足を置く。
瑞希は一歩下がって、後ろを歩く陽芽の様子を見る。
「……ブーツ、選択ミスだったかも。」
美結が小声で言う。
「それな。」
友奈が即座に同意する。
「可愛いけど、完全にミス。」
小春は笑いながらも、少し息が荒い。
「これ……運動だね。」
「山登りだね。」
瑞希がぼそっと言う。
その言葉に、なぜか全員が笑った。
笑うと、少しだけ楽になる。
気づけば、額にうっすら汗。
それとも、霧雨か、杉の木から滴る水か。
前髪に、冷たい感触が触れる。




