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第13話 決勝の舞台

「――これより、決勝戦を開始いたします!!」


 闘技場のアナウンサーが高らかに告げた瞬間、ワァァァァァァァァ!! と、耳をつんざくような歓声が湧き上がる。

 石造りの巨大な円形闘技場。幾千もの観客がびっしりと埋め尽くす観客席が、熱気と轟音で震えていた。


「まずは赤コーナー! 紹介いたしましょう! 名は――ルイス・ギブソン!!」


 スポットライトが赤コーナーに当たり、金髪の青年が大きく手を振る。

 観客席からは、黄色い歓声と怒号が入り交じったどよめきが起きた。


「かつてデストリュク王国本部・第六番隊副隊長を務めた猛者! 現在は冒険者として各地で活躍中! 華麗な剣さばきで決勝まで駒を進めてきた、今大会優勝候補の一角です! 続いて――白コーナー! 名は、時任悠真!!」


 会場が一瞬、静まり――次いで大爆音のような歓声が押し寄せた。


「無名の新星! 準決勝では苦戦を強いられながらも勝ち上がった、今大会のダークホース!」


 俺は白コーナーからゆっくりと歩み出る。足下の石床が熱気にうねり、鼓動が耳の奥でどくどくと響いていた。

 視線の先、対面に立つルイスが余裕の笑みを浮かべている。


「おう……誰かと思ったら、バイオレットと一緒にいた奴じゃねぇか」

「ああ」


 俺は目を逸らし、適当に返した。……やっぱり、苦手なタイプだ。


「まさか……お前もバイオレットを狙ってるのか? ははっ! やめとけやめとけ。俺のほうが強いし――顔も、俺の方がいい!」

「……わははははははははっ!」

「な、なにがおかしいっ!?」


 愛想笑いで流したつもりが、どうやら分量を間違えたらしい。

 ルイスが激昂して睨んできた。


「同意したつもりだぞ。どっちが強いかは戦ってみないとわからんが、顔はお前の圧勝だ。容姿対決ならな」

「貴様……俺を馬鹿にしているのか!」


 褒めたはずが何故か怒られた。……ほんと情緒不安定な奴だな。


「――試合開始!」


 ゴォン、と開始の鐘が鳴り響いた瞬間、再び地鳴りのような歓声が巻き起こる。


「さっきの愚弄……後悔させてやる!」


 激昂したルイスが、咆哮と共に猛然と突っ込んできた。

 炎をまとうような剣筋――鋭く、速い。

 俺は剣先を見極めつつ身を翻し、数合をかわすも、完全には避けきれず、最後は剣で受け止めた。

 ガギィン! と木刀同士がぶつかり、火花が散ったかのように音が響く。


「どうした! 挑発してきたわりに大人しいじゃないか!」

「……挑発したつもりはないんだが」

「黙れ! まだ愚弄を続けるつもりか!」


 ルイスは後方へ跳び、距離を取ると――剣に手を当て、低く呟いた。


「……正直、この技は使いたくなかったが――お前の顔を見るとムカムカする。早めに決着をつけさせてもらう!」


 途端、ルイスの剣に赤い炎がぼうっと燃え上がる。


「――フェニッシュバスターッ!」


 烈火が咆哮を上げ、剣先から放たれた。

 炎の塊が空気を焦がし、轟音と共に一直線に俺へ迫る――!


「っ、嘘だろ、飛び道具は禁止じゃ……!?」


 面食らっている暇はない。俺は即座に呪文を唱えた。


「――ミュール!」


 バイオレットとの修行の傍ら、こっそりアテナに教わった防御魔法。

 緑色の結界が俺の前に展開し、炎の塊は爆音と共に霧散した。


「なっ……お前、防御魔法を……!?」

「審判ッ! 今の、飛び道具は反則だろ!」


 俺が異議を申し立てると、審判は「確かに……」と頷きかけるが、ルイスは即座に言い返した。


「こいつも魔法を使ったじゃないか!」

「……両者注意だ! 次に違反があれば減点とする!」


 ――え? 同罪なの。納得いかないんですけど。


「……手加減はここまでだ」


 今のが手加減? めっちゃ息上がってるんですけど、この人。

 ルイスは呼吸を整え、剣を高々と掲げる。

 上段の構え――バイオレットに教わった。攻撃特化型の構え。自信と腕力がなければ扱えない、いわば剣士の誇り。


 俺は剣を両手で構え、正面から受ける姿勢を取った。

 ……やるしかない。

 じり……じり……と互いに間合いを詰める。

 観客席の声が遠のき、視界がルイスだけに絞られていく。


「はぁっ!!」


 ルイスが吠え、剣を振り下ろす。

 ガギィン!! と衝撃が走る――重い、腕が痺れる……っ!

 何合も何合も、力任せの剣撃が雨のように降り注ぐ。受け止めるたびに腕が軋み、ついにバランスを崩した。


「もらったぁぁ!!」


 顔面めがけて剣が迫る――俺は紙一重でかわし、後方に跳んだ。


「……ふん、命拾いしたな」


 ルイスが獰猛な笑みを浮かべる。だが、その目に宿る焦りを俺は見逃さなかった。


「……なぁ、一つ聞いていいか?」

「……ここで時間稼ぎか? いいだろう。言ってみろ」

「お前、三年前バイオレットと同じ副隊長だったんだよな」

「ああ。それがどうした」

「いや……本当に、そうだったのか疑問に思ってな」

「……?」


 訝しげに眉を顰めるルイスに、俺は剣を脇に構え直した。


「構えを変えて動揺させる作戦か」

「想像に任せる」


 もはや十分だ。ルイスの剣筋はすべて見切った――もう、終わらせる。

 ルイスが再び上段に構え、咆哮と共に振り下ろす。

 俺は踏み込み、剣を横に払ってその軌道を逸らすと――同時に、胴めがけて鋭く一閃を叩き込んだ!


「ぐあっ!」


 木刀が脇腹にクリーンヒット。ルイスの体がぐらりと揺れる。

 俺は間髪入れず、嵐のような剣撃を浴びせた。

 打ち返すルイス。しかし、その剣は焦りに滲んでぶれる。

 俺は一切の隙を許さず、全ての攻撃を捌き、最後に――


「はぁっ!!」


 渾身の一撃でルイスの木刀を叩き飛ばした。


「なっ!」


 武器を失ったルイスが慌てて手を伸ばす。

 だが、その手が触れるよりも早く、俺の木刀が首元に突きつけられた。


「……勝負あったな」

「……っ、貴様……何者だ……」

「何者でもないさ。ただの雑魚キャラだよ。二週間前に狼に殺されかけた俺を、バイオレットが毎日稽古してくれたおかげで、ここまで来られたがな」

「……嘘だろ。バイオレットより……お前の方が強いだろ」

「馬鹿言うな。もし、本当にそうなら、バイオレットがこの三年で化け物みたいに強くなったってことだ」


 ルイスは呆然としている。俺は肩をすくめ、木刀を首に軽く押し当てた。


「降参してくれ」


 しばしの沈黙。やがて、ルイスは歯を食いしばり「……わかった」と呟いた。

 ……終わったか。案外、あっけなかったな。

 そう思った瞬間――視界の端、ルイスの拳が閃いた。


 メリケンサック……!?

 死角からの不意打ち――だが。


「……遅い」


 俺は一歩、横にずれてかわした。


「なっ!?」

「悪いな。俺は人を信用しないタチでな。最初から、お前が素直に降参するとは思ってなかったよ」


 ルイスが目を見開いた次の瞬間――。


「……残念だ。あまり人を痛めつけるのは好きじゃないんだが」


 俺は容赦なく、渾身の袈裟斬りを叩き込んだ。

 ドゴッ!! という鈍い音。ルイスの体が宙に浮き、地面に叩きつけられる。

 目を白黒させ、そのまま――失神。

 審判がすぐさま駆け寄り、ルイスの状態を確認すると、


「ルイス選手、戦闘不能! ……勝者――時任悠真ッ!」


 その宣言が響いた刹那。


 ワァァァァァァァァァァァァッ!!!

 嵐のような歓声が、闘技場を揺るがすほどに轟き渡った。

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