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聖女と魔女  作者: 立青之
18/21

18話 水着を選んでくれますか?


聖女の巡礼を終えた乙輪おとわと晴子が科学準備室の前に立つ。

晴子がドアを軽くノックすると、すぐに明子がドアを開けて出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ」

「おはようございます」

晴子はにこやかに挨拶しながらさっさと部屋に入って行く。


廊下に残された乙輪は首を傾げる。

「いつものつまらない掛け合いは止めたの?」

「つまらないって言った!やっぱりつまらなかったんですね!」

晴子が振り向いて突っ込む。

「つまらなかった」

乙輪は正直に答える。

「だからです。つまらなそうにされているから止めたんです」

明子は辛そうな顔をする。

「でも、明子ちゃんが出番を増やすためにやっていたんじゃないの?」

「なんでそういうつまらないことを覚えているんですか?」

「民草の声を聞くのも、聖女の務めよ」

「普段は聖女であることを否定するのに、唐突に聖女ぶるんですね」

「この子どうしたの?」

 乙輪は部屋の奥に陣取る輝夜に訊ねる。


「ボクは知らないよ」

肩をすくめる。

「よく知る人間は君の隣にいるだろ」

「私たち、思春期なんです」

話を振られた晴子はあっけらかんと答える。

「今の子って、そんなん自分で言うん?」

三年生の出水いずみがのんびりした大阪弁で驚愕の声をあげる。

「先輩と二歳しか違いませんよ」

明子は不本意そうに言う。

「いやぁ、でも怖いわ~」

「そういう言い方止めてください。ハルも変なこと言わないで」

「おっはよー。なんの話?」

舞彩まいが賑やかに入ってくる。

「アキが自分のアイデンティティに悩んでいるんです」

「えー明子ちゃんかわいいじゃん。双子だし」

「そこで双子が出てくるなんて、アイデンティティがないって言っているようなもんじゃないですか」

明子は憤慨しながら、部屋にいる一人ひとりを指さしていく。

「魔女様に聖女様、ハッカーにギャル、ハルは神様に会ったことがある。私だけなんにもないんです」

「うーん、じゃあギャルになっとく?」

「ギャルはいいです。そもそも舞彩先輩だってなんちゃってギャルじゃないですか」

「うわ、唐突にディスられた」

舞彩は胸を押さえて見せるが気にした様子はなく、乙輪の隣に座ると「私にもコーヒー頂戴。ミルクとシュガーはたっぷりでね」と輝夜に注文した。


部屋の奥の年中閉ざされている厚手のカーテンの前に輝夜が座り、その手前にある実験台には、出水、乙輪、舞彩が並んで座っている。一年生の双子は立ったままだ。


「ええと、明子ちゃんの属性を考えてあげたらええの?」

出水はノートパソコンを閉じながら訊ねた。

「そう、今回は明子の自分探し回なのです!」

晴子が元気よく答える。

「自分探し回とか恥ずかしいから止めてー」

得意気な姉とは正反対に、明子は頭を抱えて座り込んでしまった。

「自分探し回……ってなに?」

乙輪が怪訝そうに訊ねる。

「漫画やアニメでの定番ですね。キャラクターが自分の存在意義に疑問を感じて自分探しをするお約束の回です。過去を振り返ったり意味ありげなおじさんが出て来たり殴り合ったり泣き合ったりして結局自分は自分で良いんだとか納得して帰ってきます。帰ってくるタイミングは仲間がピンチになっている時です。パワーアップしていたり、していないけど舌先三寸で誤魔化したりします。それが、自分探し回です!」

 恥ずかしがっている妹の前で、力強く説明した。

「はいはい。『星なり』でもそんな回があった」

「しかし、物語というのは概ねそういうものだろ?」

輝夜は冷静に指摘する。

「もちろんそうです」

晴子はなぜか得意気に頷いて話を続ける。

「でも、最近のアニメは基本ワンクール十二話。その大半を使って悠長に自分探しをしていたら視聴者が離れちゃいます。毎話毎話、テーマを何にするのかはっきりと決めるんです。そして視聴者も、定番のテーマ話を楽しみにしているんです。定番のテーマをこなしつつ、オリジナリティーを出していくのが重要なんです!」

「自分探し以外にはどんなテーマがあるの?」


「もっとも重要なのは水着回です!」

しゃがみこんでいた明子が、突然勢いよく立ち上がって拳を振り上げた。

「いや、それは……」

「ここは私に任せて」

口を挟もうとした晴子を、明子は鋭い眼光で下がらせた。

「いや、水着回は説明してもらわなくてもなんとなく分かるけど……」

面倒くさそうに説明を回避しようとした乙輪にも、明子は鋭い眼光を向ける。

「いいえ、分かっていません!水着姿でキャッキャウフフしたり、ちょっぴりエッチなシチュエーションにドキドキしたり、そんな単純なイベント回だと思っていますよね!そうではないんです!」

「そうなの?」

「そうです。水着回とはまず、水着になる前のシチュエーションが大事なんです。例えば、聖女様が誰かを海に行こうと誘うとして、どうやって誘いますか?もしくは、逆にどうやって誘われたいですか?」

「そうねー」

乙輪は面倒くさそうな顔を変えないながらも考える。そしてあることに気が付いた。


「……私、海行ったことないかも」

「海に行ったことがない?」

意外な返答に明子は言葉を繰り返す。

「子供の頃は神様をやらされていたから海に連れて行ってもらえなかったし、伯母さんと暮らし始めてからも行ったことないんじゃないかなー。お台場や赤レンガ倉庫から見たことはあるけど、あれは海に行ったって言える?」

「それじゃ、水着回にならないからノーカンです。プールは行ったことありますか?」

「プールはあるわ」

「そこです!」

明子はピカーンと目を輝かせる。

「聖女様みたいに、海で泳いだことのない人がいます。なぜ行ったことがなかったのか?初めての海でどんな感情を抱くのか?そんなところからキャラクターのドラマが作られるんです。海なのかプールなのか、学校のプールなのかリゾートプールなのか、家の庭でのビニールプールなのか?それだけでドラマがまるっきり変わるんです。どんな水着を着ているのかだけが重要じゃないんです」

「水着は重要でしょ?」

「もちろん重要です。聖女様はどんな水着を着るんですか?」

「なんで私にばかり訊くのよ?」

「魔女様には恐れ多くて訊けません。それに、聖女様は需要がありそうですから」

「需要って……、舞彩の方があるでしょ」

メンバーの中で最もグラマラスボディを持つガングロギャルに話を振る。

「最近買ったのはアメリカン・ビキニだよ」

あっけらかんと教えてくれる。

「安直!しかしそれが良い!」

「またディスられてる」

舞彩はケラケラと笑う。

「ちょっと待って!アメリカン・ビキニってどんな水着のこと?一般的な言葉なの?」

「星条旗をモチーフにしたデザインのビキニです!肌色多めです!」

明子は鼻息荒く説明する。

「登場人物ごとに、イメージ通りの水着にするのか?それとも、あえて外したデザインにするのか?外すのであればもちろんその理由が裏側にあるわけです。それが劇中で語られるかどうかは分かりませんが、語られないからこそ、そこに思いを馳せるのが醍醐味なんです。買い物シーンを想像するんです。水着を買いに行くのも重要なイベントなんです。そして必ず一人はいる、学校の指定水着を着てくるのを誰にするのかも重要なポイントです。そこにはさらに、高校生なのに中学時代の水着を持ってくるーーそんなありえない世界も発生します」

「重要ポイントだらけね」

「そうです。なにしろ水着はグッズ展開しやすいという利点がありますから。クリアファイル、タペストリー、アクスタ、フィギュア、いっぱい作られます。そこで得られたお金は次回作に繋がるかもしれないのです。だから、水着回はめちゃくちゃ大事なんです。キャッキャウフフして、ちょっとエロいエピソードがあるだけじゃダメなんです。分かっていただけたでしょうか」

明子は鼻を広げて演説を締めくくった。

パチパチパチ

 輝夜が拍手をする。それにつられて皆も手を叩き、狭い室内が称賛の音で満たされた。


「アニメって色々とあるんだ~。他にはどんな回があるの?」

舞彩の質問に明子はY字にした手を顎に当てながら嬉しそうに答える。

「そうですね。文化祭でのメイド喫茶、執事喫茶も定番です」

「メイドや執事姿のグッズを売るんだ」

「そうです。そしてバンド演奏ではバニースーツを着ます」

「バンドでバーニースーツ?」

「それが様式美なんです」

 言い切ったところで予鈴が鳴った。ガタガタと授業に行く準備を始める。


「明子のアイデンティティは決まらなかったな」

「それはちゃんと分かったやん」

輝夜の呟きに出水が答える。

「明子ちゃんはオタク!」

びしっと指差された明子は複雑な顔をする。

「嫌みたいよ」

「いえ、オタクでも良いんですけど、私はちょっと漫画やアニメが好きなだけなんでオタクを名乗っても良いのかなって思うんです。私程度のオタクはいっぱいいるから、それがキャラ付けになるのかなっていうのも不安です」

ぶつぶつと弁明する明子に出水が止めを刺す。

「面倒くさいオタクやな~」


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