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聖女と魔女  作者: 立青之
16/23

16話 誰にも見せないボクの姿を


 いつもと同じ朝、とはどのような朝だろうか。

 陽が東から昇れば、いつもと同じ朝、と言えるだろうか。

 桃陰とういん高校の朝。

 科学準備室のドアがノックされ、返事を待たずに開かれた。


「このスカタン!頭を開いて天日干しにしてやる……」

 いつもと同じように罵声を浴びせた明子であったが、勢いは途中でしぼんだ。


「おっはよー」

 明るく挨拶しながら入ってきたのは双子の姉ではない。ガングロギャルのマクラーレン舞彩まいだった。

「おはようございます。……なんで舞彩先輩がこいつらと一緒にいるんですか?」

 明子は舞彩の背後に、乙輪おとわと晴子がいるのを見つけた。

「さっき廊下で会ったから一緒に来たの。ところでうちは頭を開かれて天日干しにされちゃうの?明子ちゃんこわ~い」

「ち、ち、ち、ちが……」

「アキ!聖女様一行にこいつらとか不敬だぞ、不敬!」

 舞彩が明子をからかっているところに晴子が割り込んでくる。まじで憤慨している。

「うるさい!ハルがドアを開けないのが悪いんでしょ」

 明子もキレ返ししながら言い返す。

「だって舞彩さんがさっさと開けちゃうんだもん」

「えー、晴子ちゃんが開けなきゃいけなかったの?めんごめんご。うち、そういうのマジでわかんないからさー」

 舞彩は顔の前で手を立てて、ウインクしながら謝る。


「誰が開けたって良いわよ」

 最後尾の乙輪が重々しく口を開いた。

「私を部屋に入れて」

 さっと道が開かれて部屋に入った乙輪は、いつもの丸椅子の隣に、出水いずみが座っているのを見つけた。

「ハッカー先輩もいたんだ。大賑わいね」

「おはよう」

 出水は開いていたノートパソコンを閉じ、ほんわかとした笑顔を見せた。

「今日は何の悪巧みをしてたの?」

「悪巧みなんかしてへんよ。人助けや」

「誰を助けているんですかねー」

「ほな、私はこれで……」

 乙輪は、立ち上がろうとする出水を引き留めた。

「ハッカー先輩って私のことを避けてる?」

「そんなことせーへんよ。聖女様を避けるなんて、えーと、不敬やん」

 出水は、ほんのりとした笑顔を浮かべた。

「絶対に思ってないでしょ!」

「まぁ、ハッカーって言われるのは、ちょっと嫌やなぁって思てるけど」

「え、ごめんなさい。ハッカーって誉め言葉じゃないの?」

「そんなことやろなと思てた。『ハッカー』は色んな意味があるから、誉め言葉になることもあれば、悪口になることもある。『聖女』も似たようなもんちゃうかな」

「『聖女』が悪口にあることあるかしら?でもそうね、言いたいことは分かるわ。……もしかして、先輩が私のことを聖女様って呼ぶのは、悪口だってこと?」

「ふふふ」

 出水は明言せず、悪意が一片も感じられない穏やかな笑顔を見せた。

「誤魔化すのが上手。さすが、魔女の手先ね」

「手先じゃない。同士だ」

 部屋の一番奥、カーテンで閉ざされた窓の前のロッキングチェアに座る輝夜が穏やかに訂正した。いつものように黒い実験着をまとい、丸眼鏡を掛けている。


「どっちでも良いけど。それよりも六人もいるんだから、皆でなにかしましょう」

「良いですね。なにをします?」

 乙輪の提案に晴子は大きな声で賛成した。

「UNOしよう」

 即決する。

「良いですね。でもこの部屋にUNOあるんですか?舞彩さん持ってます?」

「なんでうちに聞くんだよ。ウケる。持ってないよ」

「ギャルなら持ってると思いました」

「ギャルはUNO持ってないから。ウケる。それに私ギャルじゃないし」

「私が持ってるから大丈夫」

 乙輪は鞄から取り出したUNOを見せびらかした。

「え、なにこれ?星なり限定版じゃん。速攻完売したのに、ゲットできたの?スッゲー」

 舞彩は素直に感激する。

「ふっふっふっ。使える伝手つては全部使いました」

「羨ましいわぁ」

 出水が覗き込んでくる。

「先輩も星なり好きなの?」

 星なり友達に飢えている乙輪の目が輝く。

「あれ?でも前は、観てないって言ってなかった?」

「観てないとは言うてないよ。ドラマは観てたけど、グッズ買うほどのファンではないよ。でも、そのUNOは凄い転売価格が付いてるのをネットで見たから、乗り遅れたなぁって思てた」

「売りませんからね!」

「分かってるよ。伝手を教えてもらうだけでええから」

「教えません。さぁ、始めるわよ」

「あの、今日はいつもより遅く来られたので、予鈴まで後十分もないですよ。終わらないんじゃないですか」

 明子がそわそわと口を挟む。

「急いでやるの」

「ルールはどうするん?」

 UNOは公式ルールの他にローカルルールも多い。初顔合わせだと、ルールを決めておかないと大体揉める。


「ルールは私が決めます」

 絶対的な存在は、ルールをぶち壊し、また創造する。

「横暴です!」

「それでこそ聖女様です!」

「うるさい!ほら、集まって。カードを配るわよ」

 聖女様の横暴に逆らうことはできないと皆が動き始めた時、輝夜がそっけなく言った。

「ボクはUNO知らない」

「え~~~嘘でしょ!」

 乙輪は大きな声で驚く。

「嘘じゃない」

「魔女になってからはやってないかもしれないけど、丘上輝夜はやったことあるでしょ」

 魔女エウラリアの記憶が蘇る前の輝夜は、外交的で友達が多かったらしい。そんな子供がUNOをやったことがないとは信じられない。


「ボクは今も昔も、丘上輝夜だ」

 輝夜は誰の目にも不機嫌だった。

「知っている人だけで、楽しめばいい」

 立ち上がって荷物を手に取ると、準備室の鍵をぽんと明子に投げた。

「鍵をかけておいて」

 そう言い残して、足早に部屋から出て行き、ぽかんとしている五人が残された。


「なんなのあれ?」

 呆れた感じで乙輪が訊く。

「UNOに嫌な思い出があるんじゃないでしょうか」

「実はすごく弱いとか……、魔女様に限ってそんなことないですね」

 晴子と明子が揃って頭を捻る。

「そうだったとしても、あんな風に出て行かなくても良いじゃない」

 乙輪は口を尖らせる。

「そうですよ。せっかく聖女様が誘ってくれているのに」

「まぁ、原因は分からないけどさ」

 舞彩が軽い感じで口を挟む。

「うちは別に良いんだけど、このままで良いの?」

「何がよ」

「うーん。私が言うよりさ、こういう時、双子ちゃんたちが言った方がしっくりする言葉があるでしょ」

「私たちですか?――あ、あれですね?」

「あれね!」

 舞彩の謎かけに、晴子と明子はすぐに答えに辿り着き、ぱっと顔を輝かせた。

「アニメや漫画で定番のあれですね!」

「そうそう」

「なんの話をしてるの?」

 盛り上がる三人に、乙輪はついていけていない。

「いくよ、せーの」双子は声を合わせる。「聖女様、追いかけてください!」

「な、なにを?」

「良いから!追いかけてください!」


「なんなのよ!」

 追い出されるように乙輪は科学準備室から出た。

 廊下にはすでに輝夜の姿はない。

「追いかけろって言われてもね」

 はてさて、どこに行ったのか?皆目見当がつかない……というわけではない。じきに授業が始まる。普通に考えれば教室に行ったのだろう。

 考えながらのろのろと歩いていると予鈴が鳴った。

 輝夜の教室を覗くと、その姿を見つけることができた。さすがに始業前のこの時間に乱入できず、自分の教室へ向かう。


 なんであんなに不機嫌だったのだろうか?


 乙輪は休み時間も、昼休みも放課後も、輝夜を探しに行ったが、その姿を見つけられなかった。

 チャットアプリにメッセージを送ったが既読は付かなかったし、電話にも出なかった。

 金曜日だったので、そのまま、週末を迎えることになった。


 いつもと同じ朝、とはなんだろうか?

 晴子ではなく舞彩がドアを開いたから、何かがおかしくなってしまったのだろうか?


 土曜日の朝、スマホを見ると、まだ既読が付いていなかった。

 もやもやした気分のままダイニングに行くと、伯母の直子がテレビを観ていた。

「おはよう」

「おはよう。ねぇ、朝ごはんはパンでも良い?」

「良いけど。珍しい」

 直子は頑なな朝食はお米派だ。

「昨日、高級食パンを頂いたのよ。じゃーん」

「美味しそう」

 ウキウキしながら食パンを見せる直子に、乙輪は笑って見せる。

「このまま食べる?トーストにする?」

「両方」

「そうね。それが良いわ」

 直子がキッチンに行ったので、乙輪はテレビに目を向ける。

 暗闇の中で真っ赤な炎が上がっている。

「これって近所じゃない」

 暗いためにはっきりとした場所は分からないが、報じられている住所はよく知っている場所だ。

「そうよ。気が付いた?そんなにたくさん消防車が来ていたのに、全然気が付かなかった」

「私も」

 言われてみれば、空がワンワンと騒がしかったような気もする。

 なかなか寝付けなかったから、気分的なものかと思っていたが、本当にうるさかったのか。

 すぐ近所でこんな大事件が起こっていたのに、それに気が付かずに眠れないなともやもやしていたとは。冒険中だったら命の危機だ。

「鈍ってるな……」

「なに?」

「なんでもない」

 そんな感覚は現代社会を生きる無悪乙輪には必要ないはずだ。


 でも、本当にそれが正しい?


「焼けたわよー」

「ありがとう」

 テーブルに並べられたトーストを齧る。

 心がもやもやしていたせいか、味は、よく分からなかった。


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