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司祭とその強力な護衛達

 ミリアは昼間の変装、「アリス」の姿のままだ。

 現在の、宗教団体関係者に声を掛けられている状態は、可能性として想定していた……施設の周辺で女性が一人佇んでいたのだから、ある意味当然だ。


 彼女に職務質問しているのは、短剣を鞘に収め、革鎧で身を固めた警備員二人だ。

 ミリアは事前の打ち合わせどおり、


「体験入信したアリスです。婚約者のアンディと、昼間の感動が忘れられなくて、塀の外からでも建物を見てみたいと宿を抜けてきたのですが、彼がお腹が痛くなったって言って、急いで宿に戻ったので待っているのです……」


 という説明をしている。

 アクトは物陰に隠れ、腰のポーチから小さなパックを取り出して、それを広げる。

 途端に、それは薄手の上着となり、潜入用の黒い特殊スーツの上から瞬時に着込む。

 あっという間に冒険者風の男……特殊メイクは落としていないので、中級冒険者「アンディ」のできあがりだ。

 特殊ゴーグルを折りたたんで服の中にしまい込み、物陰から出て行く。


「……アリス、どうしたんだ?」


 今しがた戻ってきたかのように、彼女に声を掛けた。


「アンディ、戻ったのね……ちょっと、この人達に『こんなところで、一人で何をしているんだ』って言われて……」


「ああ、なるほど……」


 アクトはそう頷くと、警備員二人に頭を下げた。


「……すみません、若い女性が夜更けに一人で佇んでいたので、心配していただいたのですね。ありがとうございます。ちょっと、お腹の調子が悪くて……」


 と腹をさする仕草をする。

 警備員も、そう謝られ、さらに感謝までされると、それ以上追求する気も失せる……そんな考えからの行動だった。


 実際、二人に「もう行っていいぞ」と言う寸前だったが、そこにさらにもう一組、五十歳ぐらいの司祭風の男と、その護衛らしき二人が近づいてきた。

 アクトもミリアも、二人の護衛がプレートメイルにロングソードという重装備、しかもかなり強力な魔道コンポーネントを内蔵させていることに気づいた。


 目つきや物腰からも、高レベルの戦闘員であることがうかがえる。

 ということは、当然護衛されているこの司祭もそれなりに重要な人物ということになる。

 だが、司祭長ではない。儀式の時に、脇に控えていた司祭の中の一人だ……と、二人は気づいていた。


「どうしました、こんな夜更けに……」


 と、司祭が声を掛けてくる。

 司祭こそ、こんな夜更けに、なぜ屈強な護衛を二人も連れて施設の外に出ているのかと思ったが、当然そんなことは口に出さない。

 警備の二人が、事情を説明する。


「ふむ……なるほど、確かにあなた達は、昼間に体験入信された方だ。その感動で、夜更けに建物だけでも見たいと思うのは無理もない……では、特別に建物の中に入れて差し上げましょう」


「えっ……そんな、こんな夜中にご迷惑なのでは……」


 ミリアが驚いたように声を上げる……実際に驚いたのだろう。

 アクトにとっても、予想外の展開だった。


「……いえ、私が通りかかったのも、何か神のご意志があるのでしょう。私の権限で特別に許可します」


 司祭が、笑みを絶やさぬままそう勧めてくる。

 何度も固辞しようとしたが、既に後方は護衛の内の一人が塞ぐような形になっていた。


(……何か気づかれたか?)

 さすがに不審に思ったが、ここで強引に逃げると、「アンディ」と「アリス」が偽の体験入信者だとばれてしまう。

 また、今度は堂々と潜入できるチャンスとも捉えられる……少々危険だが。


「……わかりました、そこまで言っていただけるなら、ご一緒させていただきます。何かお疑いのことがあるならば、どうぞお調べください」


 アクトが少々怯えたようにそう口にする。


「私もご一緒させていただきます……」


 ミリアも、アクト以上に怯えた様子だ……もちろん演技だが。

 そんな二人を見て、司祭はまた笑顔を浮かべる。


「理解が早くて助かりますな……いえ、潔白であるならばすぐにご帰宅いただきます。少々、気になることがありましてな……」


 司祭が、自分たちのことを疑っていることは間違いない。そう口にもしている。

 しかし、その理由が分からない。


 もう一度、アクトが施設の建物に目をやると、潜入前には点いていなかった窓の明かりが灯っていた。

 注意して見てみると、何かを知らせるように揺らめいている。

 それには気づかないふりをして、アクトとミリアは、護衛の二人に挟まれるような形で、正門から敷地内へと入っていった。


 すると、またさらに別の警備員が建物の方から小走りでやって来た。

 護衛の二人と同等か、それ以上に強力そうな装備を身に纏っている若い男だ。

 後方の門は、既に閉められている。


「何がありましたか?」


 司祭が、落ち着いた様子でそう尋ねた。


「実は……庭の番犬が、全て眠っていたのです。今までこのようなことはなかったので、念のため例の方法で異常をお知らせしました」


 若い男は、司祭にそう話した。

 例の方法とは、窓の灯りのことだろう。


「ふむ……」


 司祭は一度頷くと、護衛の二人に目で合図をする。

 刹那、二人はロングソードを抜き、アクトとミリアに斬りかかった。

 それほど早くも、力強くもなく、殺気も感じられなかったが、怪我を負わせるには十分な迫力に、二人は飛び退いて回避した。


「……見事な反応だ。昼間の時点から調査だったというわけか……二人とも、潜伏騎士だな」


 司祭の表情から笑みが消え、冷酷なそれに変わっていた。

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