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闇夜の潜入

 アクトとミリアが、今回の調査のために取った宿屋に戻り、新興宗教「ザイアスの真実」ついて会話する。

 宿は偽名である「アンディ」と「アリス」でダブルベッドの部屋を予約しており、それなりの値段の部屋であるために防音性も高いが、念のため魔道具で外部から全く声が聞こえないようにしてある。


「今回の件、どう思う?」

 ミリアが真剣な表情でアクトに尋ねる。

「どうって、どういう意味で?」

「いろいろ」

 曖昧な彼女の回答だが、それでアクトもミリアが複雑な思いを抱いていることを察して、彼の思いを語る。


「……まず、あの白い光だが、本当の意味で純白の聖光が出せるのは俺の父親とイグナーツだけのはずだ。あれが本物だとしたら、あの司祭長がスタール家の血を引いているか、もしくは未発見の神聖魔道具を使用していることになる……魔道具なら、言うまでも無く国宝級だな」


 イグナーツはアクトの弟の名前だ。

「純白の聖光」は代々、スタール家の血筋の者に発現してきた特殊能力で、王家と並んで「神の子孫の一族」という位置づけだ。そのため、スタール家は上級貴族であり、また、国家における宗教的地位においても最上位だ。


 アクト……本名:『アウグストゥス・スタール』には「純白の聖光」の能力が発現しなかった。

 故に、彼はスタール家の正当後継者となれず、半ば強制的に家を出ることになり、冒険者となった。

 しかし完全に実家と縁が切れた訳でもなく、上級冒険者として成功しているため、貴族の一員、少なくとも親族と見なされている。

 そしてミリア……本名:『ミリアム・ノアイユ』も、代々魔道具を開発・販売を統括している中級貴族のノアイユ家の出身であり、領地も近く、アクトと幼い頃から顔なじみで、元々は『許嫁(いいなずけ)』として育てられてきた。

 彼が「純白の聖光」の能力を発現させていたならば、スタール家に嫁いでいただろう。

 それが敵わず、アクトが家を出て冒険者となる際、一緒についてきたのだ。

 彼の弟、イグナーツに将来の結婚相手を変更する話も出たのだが、さすがにそれは両者とも固辞した。

 そして実姉がノアイユ家の販路拡大として経営する「魔法堂 銀狼の咆吼」で副店長として働きつつ、上級冒険者であるアクトのサポートをしている……これが貴族界を含む、上級社会で知られている彼・彼女らへの認識だ。

 

 だが、二人共が国王直属の『潜伏騎士』であることを知るものは非常に少ない。

 さらに、アクトには「純白の聖光」とは別の、強力すぎる特殊能力が発現していること、さらに二人の出生にもっと大きな秘密が存在していることは、本人達と国王、軍団長、スタール家、ノアイユ家のごく一握りの者達しか知らない。


「それで、『純白の聖光』がらみのことにアクトが関わることになったのは偶然だと思う?」

「……宗教的に言うならば『神の意思』かもしれないが、軍団長がいろいろ知った上で『あえて』俺たちを送り込んだっていう線が強そうだな」

「でしょうね……確認する?」

「いや……すっとぼけるか、あっさり肯定するだろう。どっちにせよ、俺たちが潜入して調査することに変わりは無い」

「そうね……」


 彼女はそう話したところで、一呼吸置いて、変装しているアクトの顔を真剣に見つめた。


「また私たちの『宿命』に関わってきたのかもしれないね」

「今のところ、そんなに大事になるとは思ってないけどな……まあ、とりあえず今晩潜入だ。ここの飯は旨いって話だし、経費で食べられるんだから、先に腹ごしらえしておこう!」

「うん、そうね!」


 ミリアが、ようやく明るい笑顔を取り戻した。


 夜も更けた頃。

「ザイアスの真実」教団、正門から壁沿いにやや離れた場所。

 ロングスタッフにローブという、昼間と同じ格好をしたミリアと、そこから50フィートほど離れた位置に、黒いインナーに同色のベスト、さらに気配を消す魔法陣を発動させて、闇と同化したアクトの姿があった。


 ミリアは囮約。アクトから合図があったら、何か騒ぎを起こして注意を引きつける事になっている。

 若い女性がこのような時間に一人でその場所に居ること自体が不自然ではあるが、治安の良いこの街においては多少目立つ程度だ。

 むしろ、誰かに絡まれたらその方が注目を集めるのでアクトの手助けとなる。


 そしてアクトは魔導インナー「黒竜」の筋力強化により、10フィート以上もある壁面を軽々と飛び越えて教団の敷地内に侵入した。


 昼間に神官に案内されて入ったときに、この中庭に結界の類いが無いことは確認住み。

 放し飼いにされていた犬がいたが、魔法で気配を消していたアクトにすぐには反応せず、さらに彼が放った催眠の魔法により、簡単に眠りこけてしまった。


 昼間と違い、正門の前には門番はいなかったが、聖堂に通じる鉄製の門の前には槍を持った重装備の騎士が一人で立っていた。

 番犬はともかく、彼にまで催眠の魔法を使用することは不自然だし、ためらわれた。

 そこで、リストバンド内の魔水晶に彫り込まれた魔法陣を発動する。

 これは、簡単に言えば「お腹が痛くなる魔法」だ。

 魔力防御用のアイテムなど持たないであろう門番に対して効果はてきめん、彼は腹を押さえてその場を離れ、どこかに行ってしまった。

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