壱歩の冒険【WEB】
壱歩の冒険
紅葉に色ずく双峰から、木漏れ日あるれるミルク牧場を通り過ぎて。
深紅に染まる日溜り夕陽の日差しが伸び伸びて。
並木道を世話しなく行き交う人々や、テラス席で愛を語らう恋人たちからさよならも告げずに遠ざかってゆく。
チカチカ……ブゥンと街灯が、素知らぬ顔で歩いている黒猫を照らし出す。
黒猫何にゃと、チラリと振り返る。
静に静に闇が戻ってくる夜空に、壱番星キラリ。
体育祭デビューに失敗し、満を持して文化祭に出展したノーズアートのフィギュアに保護者からのクレームが殺到し……今でも昨日の事のように夢にみる。
秋深し。
どんぐりどもが夢の跡。
色付く落ち葉の山、雨樋を詰まらせし候うなれど。
さんざめく雨の滝、ザアザアザアザア地面を叩きて。
我、穴熊の如し。
人生の永き冬眠貪りて、永遠の夢の果て。
総額幾らになるのやら、青島、磐梯、今井、田宮、積みプラどもの夢の山。
そぞろく魂忘れけり。
我は、某ケンと名乗っておこう。
言っておくが! 決してわたしは引き込もりでもニートなどと呼ばれる類いの者でもない。
人見知りの恥ずかしがりやさんなのは認めよう。
れっきとしたちょっとだけ臑齧りっぽく見える社会人だ。
端から見れば、多分そう見えるだろうと想像はする。
好きなものをとことんまで突き詰めて造り込み。
写真に撮って上げるだけで、何故かチャリンチャリンが湧いてくる。
おかしくもありがたき世の中だ。
わたしの知らない輩が、愛でもし厳しい眼と言葉を投げ告げて来やがる。
わたしの戦いは終わらないのである。
我は某ケンと名乗りし、戦いの勇者。
肆半世紀と知と財を費やし、今日は遂に完成したこいつを携え、夢の壱歩を刻むのだ。
写真で上げていた数々の子供たちは、既に決戦の地へと旅立たせてある。
本当に? 我は某ケンのホームに付いている、この桁違いな、きちがいじみた数字は、本当なのかが、今日はっきりするのだ。
この壱歩から始まる、わたしが、某ケンを知る冒険の始まりである。
よし! 行くか!
「けんぼう! 早く朝飯食ってよ! 片付んから! 今日壱年前に赤丸付けた赤丸の日で出掛けるんでしょ? ついでに生ゴミの日だから出しとてね!」
「わかったよ! もう!」
わたしは負けなぞ!
この壱歩が我は某ケンへの冒険の始まりなんだから!
「けんぼう! 生ゴミ! 忘れてるよ! なんだい自分の分だけ持ってさ! 弐度でまだよ! これも壱緒にお願いね!」
「もう! 分かってるってばさ!」
気分は台無しである。