アレンお兄様
メンバーに肩を借りて立ち上がったアレンが、杖のようなものを支えに歩いてきた。
うちのリーダーの先輩と握手をしている。
アレンは魔導具部門でもエントリーしてるけど、あの結界の杖を出品するのかな。
アレンが作ったのだとしたら、純粋にすごいと思う。
隣国の結界装置よりよっぽど強力だった。
私のワンドとアレンの結界の杖だと、魔導具部門はどっちが優勝するだろう。
油断できない感じだ。
戦闘部門で優勝できてよかったよ、ほんと。
これで少なくともひとつは賞品ゲットできるもんね。
やれやれ、ちょっとマリナと一緒に休憩してスイーツでも食べたいなあと思いながら引き返していたら、後ろから呼び止められた。
「おい」
「あ、ロートレック伯爵令息」
「ちっ、やめろよな、そういう呼び方」
「では、なんとお呼びすれば?」
「アレン、だ。アレン。名前、知ってるだろうが」
「知ってますが、呼ぶ許可はいただいておりませんので」
平民は勝手に貴族様の名前なんて呼んじゃいけないんですよ。
下手したら殺されちゃいますからね。
「お前、明日の魔導具部門も出てくるんだよな?」
「はい、その予定です」
「その短い杖のようなものは、お前が作ったのか?」
「そうです。ちゃんと特許申請しています」
「それは魔力を増幅する仕組みか?」
「それは秘密です。明日の魔導具大会が終わったら説明してもいいですよ」
「いや、別にいい。ただ、俺はもう魔力がすっからかんなのに、お前はずいぶん余裕がありそうだなと思っただけだ」
「あー。確かに杖で増幅してますけど、私、もともと魔力いっぱいあるんで」
「ふん、やはりロートレックの血を引いているだけのことはあるのか」
何が面白いのか、アレンは少し笑った。
まったく存在すら知らなかった従兄弟の片方が攻撃の杖を作って、片方が防御の杖を作っていたなんて。
それが国際大会の決勝で戦うことになるなんて。
思えばすごい出来事だったな。偶然とは思えない。
「あの、お母さんは返してくれますか?」
「ああ、明日おばあさまと一緒に連れてきてもらうことになっている」
「おばあさま?」
「お前、会ったんだろ? 庭に忍び込んだんだって?」
「あ、いえ。忍び込んでません、決して! 外から見ていただけです」
「まあいい。ザダリア侯爵も国王に怒られていたから、しばらくはおとなしくしているだろう。デリックも謹慎くらってたしな。ざまあみろ、だ」
「あ、それは同感です。ざまあみろです」
アレンは、今度は私の目を見て笑った。
うーん。親族の目から見ても、なかなかのイケメンだ。
お母さんと同じ髪と目の色。
私と兄妹に見えなくもない……かな。
「俺は、今年で学園を卒業だ。そして、来年は上級魔術院へ進学する」
「そうなんですね」
「一年後……お前も来るか?」
「は? どこへですか?」
「どこへって、お前、それだけ才能あれば楽に上級魔術院へ進学できるだろうが」
「ああ……でも、私、平民なので。実は迷ってます」
「迷う必要などない。お前だったら奨学金も出るだろう。だから、王都へ来い」
「えーっと。それ、今お返事しないとダメですか? お母さんに相談しないと」
「はははっ。まあ、まだ時間はある。ゆっくり考えるといい」
「あの……私からひとつお願いが」
「なんだ、言ってみろ」
「えーっとですね……その……アレンお兄様とお呼びしても?」
アレンはなぜだか、ぶっと勢いよく吹き出した。
失礼な。
それから口元を押さえて、ちょっと赤い顔になった。
照れてるんでしょうか。
「まあ……好きに呼べばいい。どうせめったに会わないんだし」
「そうですね。明日の魔導具大会が終わったら、私たちはカイウス領へ帰ります」
実は私は瞬間移動ができるから、いつでも王都に来れるんですけどね。
でも、それはまだナイショです。
いつか驚かせてみたいなあ、なんて思ったりして。
◇
翌日、魔導具部門の大会が開かれた。
闘技場の食堂として使われていたホールに、ずらりと魔導具が展示されている。
私たちはその横に立っていて、お客様に商品を説明する営業社員のような感じだ。
魔導具の説明は、主にローレンとケイシーが担当。
私とマリナはデモンストレーション係だ。
冷凍箱から氷を取り出して見せたり、マリナはダイヤモンドコーティングのワンドで雪を降らせたり。
私たちのテーブルには、キャロラインたちが作った絆創膏や腰痛ベルトなど、めずらしい医療用魔導具もあるので大人気だ。
貴族から注文が入りそうになったので、それはキャロラインの実家へ直接交渉するように伝えておいた。
これはハンベル領が取り扱うという約束だし。
アレンも結界の杖を出品していたけれど、貴族様たちはそれにはあまり興味なさそうだった。
考えたら、王都に住んでいる貴族は戦争なんてしないしね。
結界に興味があるのなんて、辺境伯様ぐらいかもしれない。
審査員が点数をつけるときには、貴族たちの意見や人気なども参考にしたらしい。
私たちは圧倒的に他の学園より出品数が多かったので、無事優勝できた。
これで優勝賞品の結界魔導具はふたつゲットできた。
大きい顔をして辺境伯領に帰れる。
ワンドだけだったら、アレンの杖といい勝負だったかもしれないけど、腰痛ベルトが意外と人気だったのです。
冷凍箱は小さすぎて実用的ではなかったので、それほど人気がなかったようだ。
まあ、マリナがいないとそもそも氷が作れないから、使う人がいないっていう話だよね。




