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国王登場

「皆の者、静粛に!」


 突然、会場内に拡声器を使った大きな声が響き渡った。

 どこから声がしているのだろうと、探していると、観客たちがひとつの方向を見ているのに気付く。

 貴賓室だ。ガラス張りの。

 そこから、誰かが出てきたのが見える。


「私はこのアストラ王国の国王、ヘンドリクス・ルイ・アストラである。我が国の学園同士がもめ事になってしまい、申し訳ない。審判はさっさと試合を続行しなさい。先ほど審判につかみかかった生徒は、私の名において謹慎処分とする。これ以上問題を起こすようなら、学園を退学処分にするぞ」

「そんな……なぜ我が息子にそんな処遇を! ザダリア侯爵家の嫡男ですぞ!」

「これ、ザダリア侯爵。大声で恥の上塗りをするでない。なぜ大陸中の貴族が集まっている前で名乗りをあげるのだ。恥ずかしくないのか!」

「あ……」


 ザダリア侯爵は今更のように客席を見回して、そこにいるのは自国の貴族だけではないと気付いたようだ。

 急に大人しくなって、しおしおと引き下がった。

 この会場には、侯爵よりも身分が上の人もたくさんいるはずだもんね。


 審判も今がチャンスとばかりに、試合続行の合図を出した。

 侯爵は警備員の人に腕を引っ張られて、退場していった。

 いやー親子揃って、本当に迷惑な人たちだ。

 お母さん、あんな人と結婚せずに逃げて良かったね。


 デリックが退場になったので、アストラ王立学園の方はアレンが出てきた。

 向こうのメンバーは心なしかホッとした表情になり、アレンを中心に体制を整えている。

 多分それが元々のメンバーの配置だったんだろう。

 こっちも先輩が一人ケガをしたので、私かマリナが出ないといけないんだけど……


「アリス、マリナ、ふたりとも出るんだ。向こうはアレンが出てきたから、恐らく結界魔法を使ってくる」

「昨日のあれは、結界魔法だったんですか?」

「断言はできないが、恐らくそうだ。あの長い棒のようなものが魔導具で、風魔法を応用した結界だろう。アリスは防御のときは土魔法の補助、マリナは様子を見ながらブリザードだ。思い切りやっていいぞ」

「わかりました」


 カーマイン様は、私たちにも出番を作ってくれた。

 今こそやり返さないとね。さんざんデリックには迷惑かけられたし。

 アレンに恨みはないけど、負けたくはない!


「試合再開! カイウス学園の攻撃、始め!」


 審判の声とほぼ同時に、アレンが長い棒を地面に突き立てるような動きをした。

 すると、敵チームの前面に砂埃が立って、風の防壁のようなものが下から上へと音を立てて吹き上がっている。

 昨日はあんな魔法は使っていなかった。

 アレンの切り札だろうか。


 先輩たちが放ったファイヤーボールは、次々とアレンの風の防壁に跳ね返されてしまう。

 あの防壁、火魔法と相性悪そうだなあ。

 昨日のスタニア王国の結界はガラスみたいな質だったから、熱線で壊すことができたけど。

 風の防壁はどうやって崩したらいいんだろう? 弱点はないのか?


「アリスっ、火魔法ぶっ放せ!」

「はいっ!」


 なんだかよくわからないけど、カーマイン様の指示だから、前衛に出て思い切り火魔法を放った。

 私は魔力が無尽蔵にあるからね。

 時間いっぱいまでずっと最大火力で火魔法出しっぱなしでも大丈夫。

 ワンドで増幅してるから、そんなに魔力は消費しないし。


 相変わらず火魔法はアレンの風の結界に跳ね返されてしまうんだけど、それでも少しずつこっちが押し始める。

 こうなったら力比べだ!と思っていたら、時間切れになってしまった。

 でも、今の攻撃だったら、五分五分じゃない?


 こっちが防御のターンでは、マリナが大活躍だ。

 イーサンの風魔法の勢いと、マリナのブリザードが敵の火魔法を弱めてしまう。

 私はせっせと土魔法で防壁を強化しているけど、そもそも敵の火魔法はこっちまで届いていない。

 だんぜんマリナの勝ちだ。

 ここで、カーマイン様から作戦タイムの指示が出た。


「次の攻撃はどうしたらいいですか?」

「アリスはあの調子で、全力で火魔法をぶっ放せ。相手がビビって後退するぐらいにやっていいぞ」

「わかりました……でも、火魔法、効いてない気がするんですけど」

「いや、それでいい。アリスが全力で火魔法を放っていたら、向こうも全力で防御しないといけないはずだ。そうなったら、魔力量勝負だからな」


 あーなるほど。

 あっちはアレンがひとりで防御してるようなものだから、魔力を使い果たすように仕向けたらいいわけか。

 確かに魔力量勝負だよね。

 そういうことなら派手にやろう。


「俺も火魔法に加わりましょうか?」

「そうだな。イーサンも火魔法でいいだろう。マリナは風魔法で後方支援だ」


 泣いても笑ってもこれが最後の攻撃。

 従兄弟様、全力でいきますよ!


 審判の合図とともに、またアレンの風結界が吹き荒れる。

 私は、ワンドの制限を解除して、さらに出力をあげて火魔法を敵の上空に向かって放った。

 ノーコンなので、人間に当てないようにするのが気を遣う。

 アレンの風結界に火魔法をぶつけ続けていたら、少しずつ結界の勢いが弱ってくるのがわかる。

 そろそろ魔力切れなんじゃないだろうか。


 アレンの苦しそうな顔が時折見える。

 悪いけど、負けないよ。私、チートだもん。

 まだ時間はある。制限時間いっぱいまで連続炎攻撃だ!

 根比べのつもりで火魔法を出し続けていたら、突然審判からストップがかかった。


 ……と同時に、アレンが倒れたのが見えた。

 魔力切れだよね。多分。

 残り時間はあと三分ぐらいだけど、続行するかどうか審判がアレンに聞いている。

 無理なんじゃないかなあ……

 他のメンバーで私やイーサンの本気の火魔法を防げるとは思えない。

 それに、向こうの攻撃もどうせマリナが防いでしまうし。


 アストラ王立学園は、諦めたようだ。

 審判の宣言で、カイウス学園の優勝が決まった!


 カイウス学園万歳!

 辺境伯様、やりましたよ!


 優勝賞品ゲットです。

 でも、隣国の結界装置って、たいしたことなかったけどね。


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