決勝戦
決勝戦はカイウス学園対アストラ王立学園に決まった。
四カ国六校出場して、我が国の二校が勝ち残ったのは喜ばしいことだよね。
それだけ他国より魔術が進んでいるということだろうか。
私はこれまで出場していないから、チート能力で勝ったわけじゃないしね。
ここまで勝てたのは、先輩たちやイーサンが頑張ったからだ。
戦闘部門最終日は、チケット売り切れで超満員のスタジアム。
この日は国王や王族の人たちも見に来るらしい。
一般の座席ではなく、ガラス張りの貴賓室のような場所から見ているそうだ。
大活躍した我が国の選手には、国王からじきじきに報償をいただけるという噂もある。
私は戦闘部門では目立ちたくないけど、魔導具部門では頑張りたい。
もし優勝できたら辺境伯様は喜ぶし、私やマリナ、ケイシーもいい就職先が決まるかもしれないしね。
みんながハッピーになれるのだ!
いよいよ開始の合図が出て、選手たちが位置につく。
カイウスチームは、先輩がひとり体調不良で棄権して、イーサンがメンバーに入っている。
私とマリナは補欠なので、ベンチで待機。
アストラ王立学園は、またしてもデリック・ザダリアが先発メンバーに出てきた。
アレンはベンチのようだ。
まあ、ザダリア侯爵も当然会場に見に来ているだろうから、出さないわけにはいかなかったのかもね。
アレンが出ていない方が、カイウス学園にとっては有利だ。
昨日、最後にアレンが出てきたら、一発で形勢が逆転した。
最初からアレンと戦うぐらいだったら、デリックが出てくれる方がずいぶんマシだ。
あのアレンがやっていた火魔法の防御がなければ、先輩たちとイーサンだけでも勝てそうな気がする。
「先攻、西、カイウス学園の攻撃! 始め!」
先輩たちが全員でファイヤーボールを放つ。
イーサンは広範囲の風魔法で後方支援をしているようだ。
相手が結界を使ってなければ、熱光線を出す必要ないので、ワンドも使っていない。
わざわざ手の内を見せない方がいいだろう、とカーマイン様も言っていた。
昨日、アレンが使っていた長い棒のような魔導具が、王立学園の隠し玉のようだ。
なので、こっちも素直に秘密兵器は出さないのです。
昨日偵察した様子で、王立学園は土魔法の防御が弱いし、遅い。
先輩たちはそこを集中的に狙っているようだ。
時々壁が崩れたりして防御が崩れていたから、カイウス学園の攻撃が優勢だったと思う。
次にアストラ王立学園の攻撃。
カイウス学園の防御は基本的に土魔法の防壁だ。
土魔法が使えない人は、風魔法で、敵の火魔法を押し返す。
まあ、イーサンがワンドを使えばかなり広範囲の炎でも押し返せると思う。
なのであまり心配していなかったんだけど、突然先輩の一人が悲鳴をあげて倒れた。
昨日のクロレーヌ学園と同じだ……
倒れた先輩は頭のあたりから血を流している。
救護係の人があわてて走ってきて、止血を始めた。
審判は渋い顔をして、試合中断を宣言。
先輩の代わりに私かマリナのどちらかが出場しないといけない事態になってしまった。
「これです! この石が飛んできたんです!」
イーサンが証拠の石を見つけ出して、審判に差し出した。
確かにその石には血がついている。
先輩の頭に当たった石だ。
「昨日も同じようなことがあったが、誰か石を飛ばした者がいるのではないか?」
「変ないいがかりつけないでくださいよ。そっちの防御壁が崩れて当たったんじゃないですか? 事故ですよ、事故」
審判が疑いの目を向けると、真っ先にデリックが出てきて言い訳をした。
どう見てもこいつが一番怪しい。
デリックが火魔法を使っているところを見たことがないから、土魔法で石を飛ばしていた可能性が高い。
「先輩が倒れていた場所はここです。このあたりの防御壁はどこも崩れていません! 事故ではなくわざとです」
「なんだと? 証拠あんのかよ!」
イーサンとデリックがケンカを始めてしまいそうになって、審判に止められた。
イーサンは大人しく引き下がったが、デリックは審判の胸ぐらをつかんでしまい、他のメンバーに羽交い締めにされている。
「君は退場だ! 審判に暴力をふるうなど、ありえない。アストラ王立学園は二枚目のイエロカードだ!」
審判さん、怒ってますね。
昨日に引き続きデリックのせいで、王立学園は恥の上塗りをしている。
どうして他のメンバーは何も言わないんだろう。
みんなため息をついて目をそらすばかりだ。
侯爵家って、そんなに偉いんだろうか。
ザダリア侯爵がこの様子を見ていたら、自分の息子が馬鹿息子だと気付かないのかな。
……と、そこへ、派手な貴族風のおじさんがずかずかとやってきた。
ここ、選手以外立ち入り禁止なんですけど。どこから来たんだろう?
そして、無遠慮に審判に向かって指図を始めた。
「なぜ、うちの息子を退場させた! すぐに呼び戻せ! そしてこの言いがかりをつけてきたカイウスの田舎者を退場させろ!」
そう言って、イーサンの方を指さした。
もしかして、いや、もしかしなくても、この人ザダリア侯爵?
今、うちの息子って言ったよね?
審判は侯爵のことを知っているのか、困った顔をして無言になってしまった。
だって、イーサンは何も間違ったことは言っていないし、手出しもしてない。
ただ、証拠の石を渡して抗議しただけだ。
「うちの生徒は何もしてませんよ。言いがかりはそっちです。審判につかみかかったのを会場の全員が見ていましたよ」
「ふん、お前は誰だ」
「カイウス学園の引率、ネヴィル・カーマインです。あなたこそ、なんでこんなところにいるんですか。競技場は親族でも立ち入り禁止ですが」
「俺は侯爵だぞ。一般人ではないのだ。そんな規則など俺には関係ない!」
「これは国際大会なのです。侯爵だろうが何だろうが、規則は守っていただかないと」
カーマイン様とザダリア侯爵がもめている間に、会場内がざわざわと騒がしくなってきた。
なぜ試合が中断したままなのか、ブーイングが起き始めている。




