意外な伏兵
カイウス学園、三回目の攻撃。
さっきと同じく、イーサンが結界を破壊して、先輩たちがそこを火魔法で狙う。
しかし、そこで新たに加わった両端のふたりが、結界の穴をふさぐように水魔法を放った。
かなり強力な噴水みたいな感じで。
一瞬前世の消防車のホースから出る水を思い出した。
後ろへ炎が通過するのを、水魔法で防ぐ作戦のようだ。
イーサンはあちこちに熱光線を放って、結界を壊していくんだけど、水魔法で防がれてしまう。
まるでイタチごっこだ。
「あ、あれ……見て、アリス! あれ、氷魔法だよ、多分」
「ホントだ。敵にマリナと同じ氷魔法の人がいる!」
よく見ると、ひとりが吹雪のベールのような魔法を放って、結界を強化している。
マリナのブリザードのような威力はないが、細かい氷の粒で火魔法を弱めているようだ。
氷魔法を使える人は、マリナ以外で初めてみたので驚いた。
隣国には普通にいるんだろうか。
まあでも、こっちにもいるんだから、よその国にいても不思議ではないけれど。
イーサンは結界に穴を開けまくった後は、火魔法に加勢することにしたようだ。
ワンドを使って、最強レベルの火魔法を放つ。
以前、トスカ高山で鳥獣と戦ったことがあるけど、あの時みたいな炎の柱だ。
さすがに敵の防御がギョッとした顔をして、後ずさった。
水魔法の二人が必死で炎を押し返そうとしていたが、イーサンが押し勝った!
そして、三回目の敵側の攻撃は、二人が水魔法使いに交代したため、攻撃力が落ちた。
結果、カイウス学園は判定勝ちで、決勝進出が決まった!
やったね!
先輩たちが飛び跳ねながらベンチに戻ってきて、私やマリナとハイタッチしてくれる。
「イーサン、お疲れ様! 敵の結界、どんな感じだった?」
「おう。そうだな……薄い氷とかガラス?みたいな手応えだったな。割と簡単に割れるような。だけど、火魔法は完全に防がれてたよ」
熱光線が有効だったのは、ラッキーだった。
あれが効いてなかったら、負けてたかもしれないな。
なんせ、結界の魔導具を持っているのはスタニア王国だけだから、難しい敵にはとりあえず勝った。
後は、午後から決勝の相手が決まるのを偵察するだけだ。
いったん昼ご飯を食べるために食堂へ向かっていると、廊下でたった今対戦していたスタニア王立学園のメンバーとすれ違った。
先頭を歩いていたリーダーっぽい人が気付いて、先輩に話しかけてきた。
「スタニア王立学園、チームリーダーのロナルド・ジャメインだ。いやあ、まさか負けるとは思ってなかったよ。上には上がいるもんだな」
バツが悪そうに頭をかきながら、握手を求めてきたリーダーさん。
意外とさっぱりとしたタイプみたいだ。
負けたからといって根に持ってはいない様子。
先輩たちが立ち話をしていると、後ろの方にいた少し小柄な選手がひとり私たちの方を見ていた。
ユニフォームの色が違うから、多分補欠の人だ。
もしかして、さっき水魔法使ってた人かな?
「あのう……君たちは補欠の人?」
「はい、そうなんですけど。何か?」
「カイウス学園には、氷魔法を使える人がいるって、噂で聞いたんだけど……」
「あっ、もしかしてさっきの試合で氷魔法使ってた人ですか?」
マリナが思い出したように、うれしそうな顔になった。
気になっていたんだろうね。希少な仲間だもんね。
「そう。途中から交代して出たんだけど、僕ともうひとり。氷魔法を使ったのは僕」
「私です。カイウス学園で氷魔法使える人って、多分私のことだと思う。他に聞いたことないし」
「君だったんだ。もしかして氷魔法使う人が試合に出てこないかなって、楽しみにしてたんだけど」
「そうだったんですね。私、自分以外の人が氷魔法使うところ、初めて見ました」
「僕も、自分以外に見たことないんだ。それで、カイウス学園にいるらしいって聞いて……あっ雪だっ」
「うふふ。こんな感じでいいですか?」
マリナが周囲に雪を舞い散らせたので、スタニア学園の人たちが驚いたようにこっちを見た。
指先から小さい吹雪を出して、くるっと回るマリナがかわいい。
もう、妖精みたい。
「あの……よかったら、連絡先交換してもらえませんか? 氷魔法のこと話してみたいし」
「いいですよ! 私でよかったら……あ、私、平民ですけどいいんですか?」
「初めて出会った、同じ魔法の仲間だから。身分なんて関係ないよ」
氷魔法の男の子は、なぜか少し顔を赤くしてうつむいた。
うん、わかるよ。マリナ、可愛いもんね。
その男の子とマリナの話を少し聞いていたんだけど、氷魔法というのはスタニア王国でも珍しいらしい。
国全体を探せばまったくいないわけではないけれど、学園には今のところひとりしかいないんだそうだ。
女の子だったらスイーツの作り方、教えてあげたのになあ。
「ねえ、マリナ。せっかく知り合ったんだし、マリナの氷結で作ったスイーツ、プレゼントしようか」
「あっそうだよね。在庫いっぱいあったよね」
王都に来る前に、おやつはたくさん収納に入れておいたから。
選手のみなさんで食べるぐらいはありますよ!
カップ入りのアイスを収納から取り出すと、びっくりした顔をされた。
収納魔法もめずらしいのかな?
「これは……何?」
「私たちが作った、冷たいスイーツです。マリナの氷の魔法で作ってるんです」
「うちの学園でも好評だったので、後で皆さんで食べてみてください」
「へえ……氷の魔法でスイーツかあ。魔法をそんな風に使うなんて、女の子じゃないと思いつかないよね。ありがたくいただくよ!」
スタニア王立学園の人たちも食堂へ行くところだったというので、皆で昼食をとることになった。
こんなことでもないと、他国の人と交流する機会なんてないしね。
スイーツをプレゼントしたのが好印象だったのか、みんなフレンドリーだ。
ちなみに言語は似ていて、方言のようななまりはあるけれど、普通に会話はできる。
これは大陸のどこの国に行っても、基本の言語は同じみたいだ。
私とマリナはあまり積極的に会話には加わらず、先輩たちの話を聞いていたんだけど、スタニア王立学園の選手は全員貴族なんだそうだ。
でも、前日のエルデン学園の生徒は、平民もいたらしい。
あの筋肉ムキムキの人たち、エルデン領の騎士団を目指している人たちだったみたい。




