準決勝 スタニア王立学園
大会二日目。
私たちトーナメントAグループの試合は、午前中に行われる。
昨日のエルデン学園は思ったより手応えがなかったが、今日の相手はそう簡単には勝たせてくれない気がする。
グランドで準備をしているスタニア王立学園を見ると、明らかに装備や道具が豪華そうだ。
手に持っている盾は、昨日のエルデン学園に比べると遙かに大きい。
あれが全部結界装置だとしたら、かなりの強度になりそうな感じ。
準備をしている様子を観察していると、統率もとれていて、きびきびとした軍隊のような動きをしている。
昨日のエルデン学園は筋肉ムキムキな野生児っぽい人が多かったが、スタニア王立学園の人たちはすらっとした見た目で、エリートっぽい。
まあ、魔力は外見じゃあ想像できないけどね。
カーマイン様から集合の合図がかかって、最後の作戦確認だ。
「敵の方にも補欠の選手が三人いると確認できた。強力な水魔法を使える選手がいるらしい。まあ、水で攻撃というのは考えにくいので、恐らく防御要員だろう。昨日のエルデンとは違い、全員が火と風の魔法を持っている。どれだけ防御できるかで、勝敗が決まると言っていい」
一回目の攻撃と防御は、予定通り三年生のメンバーでいく。
ただし、昨日と違うのは、全力で防御壁を築くということだ。
土魔法が得意なメンバーは、魔力の残りを気にせずに、一回目の防御で防壁を築いてしまう。
そこで魔力が尽きた場合は、二回目から補欠と交代するという作戦だ。
私たち補欠三人は、二回目の攻撃で交代したとしても、十分な魔力量を持っている。
先輩たちには全力で第一回目の防御をお願いすることになった。
「先輩! 思いっきりやっちゃってください!」
「おう! 万が一のときはアリスたちに頼むからな!」
アナウンスが流れて、場内がシンと静まりかえった。
先輩たちが攻撃の定位置に並ぶ。
「トーナメントAグループ東、カイウス学園。西、スタニア王立学園。先攻、カイウス学園の攻撃!」
合図で先輩たちが一斉にファイヤーボールを放つ。
敵は八人横並びで盾を構えている。
炎が盾に届きそうになった瞬間、下から上に向かって風が吹いたかのように、炎は上部へそれた。
あれが結界? 炎を防ぐ魔法でも発動しているんだろうか。
完璧に防御されてしまった感じ。
次にスタニア王立学園の攻撃は、八人全員がファイヤーボールだった。
こっちは土魔法専門の先輩もいるので、攻撃力でも少し負けている。
ただし、先輩達はかなりしっかりとした防御壁を築くことができたので、防御はほぼ完璧。
火魔法と土魔法を駆使しているという点では、先輩たちの方が優秀だともいえる。
このままだと、防御は引き分けで、攻撃の判定で勝敗が決まるかもしれないなあ。
カーマイン様の合図で、一回目の作戦タイム。
「魔力が不安な者はいるか?」
防御専門の先輩がおずおずと手を上げた。
全力で土魔法を使ったのか、顔色が少し悪い。
「よし。よくやった。休んでいいぞ。代わりにイーサン、出てくれ」
「わかりました。どういう作戦ですか?」
「他メンバーの火魔法にまぎれるような形で、敵防御の上部に熱光線を当ててみてくれ。それで防御を突破できるかどうか判断してほしい」
「盾の上部に結界があるんですか?」
「そういう感じに見えたな。炎が上に向かってそれたようだったからな」
カーマイン様が審判にメンバー交代を告げると、敵チームは一斉にイーサンを見た。
一回戦に出てなかった補欠だもんね。
このタイミングに出てくるとなると、隠し玉だと思われたかな。
イーサンはローブの内側にワンドを隠していて、合図が出るまでは構えないようだ。
そして、二回目の攻撃。
先輩たちがファイヤーボールを放ってから、それに紛れるようにイーサンがワンドを抜いた。
ファイヤーボールの速度よりも、熱光線の方が敵に届くのは速い。
敵の上方にビキっと何かが割れたような音がして、明らかに敵がひるんだような顔になった。
「狙え! 集中攻撃!」
先輩たちが、ファイヤーボールでそのあたりを狙うと、火魔法が敵の上空を通過するのが見える。
結界を破ったのかな?
端の方の結界は生きているようなので、イーサンが狙った箇所以外の火魔法ははじかれている。
交代して、敵の攻撃。
一回目のときには八人全員でファイヤーボールを撃ってきたが、二回目は作戦を変えたようだ。
六人が火魔法を放ち、両端の二人が風魔法で勢いをつける。
全員で中心に向かって、集中攻撃をするようなスタイルに変わった。
でも、こっちにもイーサンがいるからね。
風魔法の防御で、ある程度炎を押し返すことができる。
土の防御壁をさらに強化して、防ぎきることができた。
さて、勝てるかどうかは、三回目の攻撃にかかっているけれど……
カーマイン様がまた作戦タイムで、選手を呼び戻した。
「どうだ、イーサン。ひとりでいけそうか?」
「そうですね。さっきの熱光線は全力というわけでもなかったので、全力でいけば勝てるんじゃないかと」
「よし、わかった。メンバーは変更せずに、このまま押し切ることにする。遠慮せずにいけ!」
先輩たちは意気揚々と飛び出していったけど、敵チームはちょっと困惑しているような表情だ。
多分、先輩たちの火魔法に混じってイーサンが放った熱光線の正体がわからないんだと思う。
なぜ結界が一部破られたのか、不審に思ってるだろうな。
試合再開の合図の前に、敵チームの方もふたりメンバーが交代した。
補欠の二人が、盾を持たずに両端に並んだ。
何か新しい作戦だろうか。




