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開会式にて

 開会式当日。

 出場選手は全員、上級魔術院のスタジアムに集合した。

 私たちの隣には、第一戦の対戦相手エルデン学園が並んでいて、なんだか殺気を感じる。

 トーナメントAグループは私たち以外全員スタニア王国の学生なので、アウェイ感がすごい。

 まあ、いきなり自分の国の王立学園と対戦するよりは、スタニアの方がやる気出せるけどね。 

 王立学園の二校がシード校になっているのは、第一試合で自国同士が当たらないように配慮したのかもしれない。

 

 この開会式に参加しているのは、戦闘部門に出場している選手のみで、私たち三人は補欠なので後ろの方に並んでいる。

 そして、王立学園の最後尾に、アレンが並んでいるのも見えた。

 なんとなくひとりで、ひっそりと孤立しているようにも見える。

 あの様子だと、アレンは戦闘部門には出場せずに、魔導具部門で対決することになるだろうか。

 ザダリア侯爵家の息子とやらはどこにいるんだろうかと、前列あたりに目をやる。

 私のことを愛人にするなんて、キモチワルイヤツの顔は見たくないけど、敵を知っておくことは必要だし。


 ……見つけた。

 チームメイトに囲まれてふんぞり返っている、ニキビ面で太ったヤツ。

 きっとあいつに違いない。

 なんだかひとりだけひらひらの襟がついた、古典的な貴族の服装をしている。

 

 周りは全員制服を着ているのに、何様のつもりなんだろう。

 いくら高位貴族でも、あんなヤツの愛人になるぐらいだったら死んだ方がマシだ。

 周囲にいるメンバーも、本心で笑っているような感じではなく、みんな笑顔が引きつっている。

 なんだか、メンバーに同情してしまいそう。


 全部の学園のくじ引きが終わり、対戦相手が決定した。

 アレンたちの王立学園は、第一試合では東のクロレーヌ王立学園と当たるようだ。

 試合の順番は私たちが一番だった。

 勝ったら、ゆっくりと他の試合を見学できる。

 私たち補欠も一応ベンチ入りするけど、一試合目は多分出番はないと思う。



 そして、翌日。

 ついに戦闘部門の第一試合が始まった。

 会場は満席状態で、すごい熱気。

 前世で言うところのオリンピックが開催されたようなムードです。


 客席には、各国の旗や横断幕があがっていて、応援にも熱が入っている。

 ちらほらとカイウス辺境伯領の旗もあがっているので、出場メンバーの親族とかが応援に来ているのかな。

 私たちは支給されたユニフォームに着替えて、スタジアムのベンチに出た。

 辺境伯様が全員にかっこいいユニフォームを支給してくれたのです。


 それぞれの国の代表が、祖国の個性豊かなユニフォームを着ているのも、話題のひとつになっている。

 お土産物やさんには、高額でユニフォームを売っているらしい。

 私たちのユニフォームの色は赤です。勝利の色!

 アレンたちのユニフォームが青だったから、ちょうど良かった。

 私たちの方がかっこいいと思うけど、欲目かな。


 開会式が終わって、宿に戻ろうと会場の廊下を歩いているときに。

 向かい側から大声でしゃべりながら歩いてくる、騒々しい集団に出くわした。

 ひときわ大声で下品な笑い声をあげているのが、アイツだ!

 デリック・ザダリア侯爵令息。

 私たちは静かに廊下の端に寄って、道をあけるようにしたんだけど、向こうから絡んできた。


「よう、カイウス学園の田舎者じゃねえか。ダッセエ格好して、こんなとこ歩いてんじゃねえよ!」


 私たちは頭を下げて、無言だ。

 ここで問題を起こすわけにはいかないので、早く通り過ぎてくれと願うばかり。

 ちらりと集団に目をやると、少し離れたところにアレンがぽつんと立っていた。

 『関わりたくない』という態度で、そっぽを向いている。

 他のチームメイトは、苦笑いを浮かべているが、止める気はないようだ。


「だいたい、こんな大会に平民女が出てくるんじゃねえ! 神聖な場が汚れるだろうが! お前らみたいなのが俺様と同じ舞台に立てると思うなよ!」


 顔を歪めて醜く笑いながら、デリックはこっちを見た。

 私とマリナを指さしながら。

 いや、私のことを言ってるんだろうな。

 襲撃して逃げられた腹いせか。


「まあ……顔は思ったより悪くないな。今ここで辞退するなら、一発ぐらい夜の相手をしてやってもいいぜ? ヒャッハッハ」


 本当に下品なヤツだ。

 誰がアンタとなんか!と叫びたいのを我慢する。

 こんなヤツは、正々堂々と試合でやっつければいいんだ。

 ワンパンだよ! ワンパン!


「へえ……うちのアリスに勝てるつもりなんだ? 無知だよなあ」

「そうだよな。お前らなんかが束でかかってきても、アリスの足下にも及ばねえよ!」

「まあ、俺たちの大事な仲間には、指一本触れさせねえけどな!」


 後ろから歩いてきた三年生の先輩が、間に入ってくれた。

 もめ事は避けたいんだけど……と思ったが、デリック以外の王立学園のメンバーは、ちょっと引いたようだ。

 自分たちがケンカをふっかけてる自覚はあるようだ。


「お前ら……俺様に逆らったらどうなるかわかってんのか? あん? カイウスの田舎者ども」

「わかんねえな。盗賊でも雇って襲わせるつもりか?」


 先輩がフンと鼻で笑ったので、デリックは頭から湯気を出しそうな勢いで殴りかかろうとしてきた。

 が、さすがに周囲が止めた。

 普段から慣れているのか、三人がかりぐらいでデリックを羽交い締めにしている。

 ここで暴力事件を起こすわけにはいかないと、さすがにわかってるみたい。

 そして、「覚えてろよ!」と捨て台詞を残して、羽交い締めにされたまま去っていった。


 なんで悪者って、みんな同じ捨て台詞を吐くんだろう。

 頭悪いのかな。

 先輩たちは、みんな呆れた顔をしている。


 離れたところにいたアレンだけは、デリックたちの集団とは関わりたくないとでも言うように、反対方向へ立ち去った。

 従兄弟だからとか関係なく、アレンが気の毒に思えてくる。

 あんなヤツがチームメイトだったら、私だったら出場辞退するだろうな。


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