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全力で入学試験に挑んでみた

 12歳になり、いよいよ入学試験。

 辺境伯領での農業は、思った以上に順調だ。

 まだ面積は少ないが、これから業績をあげていけば、もっと広い土地を借りることができるらしい。

 今のところはまだ家族4人で細々とやっているし、私が学園に入学する予定なので、あまり手を広げすぎないようにしている。

 薬草を魔力で大きく早く育てて、乾燥させて辺境伯家へ出荷する。

 それだけでも、質素に食べていくには十分だ。

 綿花は土地面積が狭いので後回し。


 試験の前夜、家族でちょっと豪華な夕食を食べた。

 お母さんは相変わらず心配していたけど、学園までは馬車で1日の距離だ。

 たとえ全寮制の学園に入学しても、毎週末には帰ってこれる。


 試験勉強は一生懸命したけど、私は別に落ちてもいいと思っていた。

 家庭教師の人から譲ってもらった魔術の本で、結構魔法は使いこなせるようになったし、農業をする分には全然問題ない。

 魔力量も、村にいた頃よりはかなり増えたと思う。

 隠すことなく毎日魔法を使っていたし、新しい魔法の練習もいっぱいした。

 なるべく魔法を使うようにしていたら、魔力量は増えると教えてもらったから。

 こんなことなら小さい頃から、もっと訓練していたらよかったなあと思う。

 小さい村だったから人目が気になって、練習できなかったんだよね。


 辺境伯領は広いし、知り合いがいないから訪ねてくる人もまだいない。

 火魔法を練習していても、人に見られる心配はなかったと思う。

 サッカーボールぐらいの大きさのファイヤーボール(小説を参考に自分で命名)も、撃てるようになった。

 これはお父さんから見ると、すごい威力らしい。

 元々得意な水魔法と土魔法も上達したので、3属性持ちだと言ってもいいぐらい。

 ただ、風魔法だけは使えなかった。

 なんでだかわからないけど。


 学園は辺境伯領の中心地にあり、周囲には貴族の家がたくさんある。

 王都の学園よりは規模が小さいが、少数精鋭で、他の領にある学園よりレベルは高いらしい。

 私が受験するのは、魔術科の平民特待生枠。3人という狭き門だ。

 この特待生枠は、平民では高い学費を払えないので、本当に優秀な生徒だけ奨学金が出るという制度のものだ。

 もちろん、この特待生枠に落ちても、学費さえ払えるなら入学はできる。

 だけど、私は特待生枠に落ちたら、入学はしないつもりだった。


 前世でも、大学受験の直前にお母さんが病気になって受験を諦めた。

 家族の方が大事なんだ。

 高い学費を払ってまで入学しなくてもいいと思う。

 だから、試験もあんまり緊張していない。

 全力は尽くすけど、落ちたっていいよね。

 平民だもの。


 試験会場は貴族と平民は別らしく、十数名の同年代の子どもがいた。

 平民と言えど、学園を受験するだけあって、それなりにきれいな身なりをしている。

 筆記試験は、科に関係なく一般教養の試験だ。

 だから、受験している人たちがどの学科を受験しているのかはわからない。


 筆記試験の翌日は、実技試験。

 実技があるのは、騎士科と魔術科だけだ。

 辺境伯領だけあって、ここを受験する生徒は、将来騎士団を目指す人が多いと聞いた。

 運動場には、帯剣した受験生がたくさん並んでいる。

 実技は貴族平民合同だ。


 魔術科の受験生は、あまり多くない。

 案内された訓練場には、20名ほどの受験生がいたが、意外と女子が多かった。

 貴族男子は魔力があっても、騎士科の方を受験することが多いのかもしれない。

 ここで、自分の得意な魔法を試験官の前でひとりずつ披露する。

 他の受験生の魔法も見ることができるので、それが楽しみだ。

 なんだかワクワクする。


「それでは実技試験を始めます。まず、攻撃魔法を使う人はこっち、それ以外の人は向こうに分かれてください」


 試験官が2人いて、私は迷わず攻撃じゃない方へ進む。

 ファイヤーボールは使えるけど、騎士団は目指してないし。農家だし。

 ほとんどの女子が私と同じ方に進んだ。

 どうやらみんな貴族っぽい。あ、でもひとりだけ平民っぽい子もいるな。

 攻撃以外の魔法って、どんな種類があるんだろう。

 攻撃魔法を選んだ男子の受験生たちは、的に魔法を当てる試験らしい。

 ちょっとやってみたいな、と思ったけど。


 最初に名前を呼ばれた貴族っぽいお嬢様は、水魔法だ。

 小さめのプールのような場所があって、そこへ水魔法を放つ。

 水魔法使いは、災害があったときに飲み水を確保できるので、優遇されると家庭教師の先生が言っていた。

 じょぼじょぼ……とバケツ3杯分ぐらいの水を出したお嬢様は、疲れたようにぜーはーと息をしている。

 うーん、貴族って平民とは魔力量が桁違いって聞いたけど、こんなもの?

 いや、この人がダメなだけか。


 次に土魔法のお嬢様。

 植木鉢がたくさん並んでいるところへ行って、作物を成長させる。

 5分ぐらい魔力を注いで、つぼみだった花がきれいに咲いた。

 お見事。植木鉢ひとつだけだけど。

 他のお嬢様たちが、パチパチと拍手をしていたので、どこかの有名な貴族様かも。


 そして、唯一平民っぽい女の子が名前を呼ばれて、恐る恐るという感じで前へ出た。


「マリナ嬢、水魔法……と、スキル持ちか。スキルの方を見せてもらえますか?」


 はい、と小さな声で返事をすると、さっき別のお嬢様が水を出したプールのところへ行く。

 「氷結」、と水に手をかざすと、ピシっと音がして、水が凍った。

 おおお。すごい。いいな、これ。

 夏になったら、かき氷とか作れるよね。

 この世界には冷凍庫がないので、これは重宝されるはず。

 ぜひお友達になって、氷をたくさん譲ってほしい。

 私の収納で保存させていただきたい。


「では、もうひとつのスキルを」

「はい。アイスウォール!」


 おおおー。目の前に氷の盾が現れた!

 それもかなり大きい、全身を守るような盾だ。

 試験官に攻撃はできないのかと質問されていたが、氷を飛ばすことはできないらしい。

 いや、もしかしたらできるかもしれないけど、やらない方がいいよね。

 そんなことができたら、軍隊へまっしぐらだもん。

 やらなくて、正解。

 たぶん、あの子も平民特待生枠だろうなあ。質素な身なりだし。

 もし一緒に合格できたらあの子と仲良くなろう、なんて考えていたら私の名前が呼ばれた。


「アリスティア嬢。水魔法、土魔法……ん? 火魔法も? 本当に?」

「はい。火魔法はそんなに得意じゃないですけど、一応使える、という程度で」


 ぺちゃくちゃとおしゃべりをしていた、ご令嬢たちが一斉にこっちを見た。

 怖い。

 前もって提出してあった願書には、適性とスキルを正直に書いた。

 試験官が持っている用紙には、その情報が書いてあるんだろう。


「では、まず得意な属性から。水魔法ですか?」

「えーっと、そうなんですけど、全力じゃなくてもいいですか?」

「そうですね。後で土魔法と火魔法も見せてもらうので、余力を残してください」


 ……ということなので、ほどほどに。

 全力でやったら、こんな小さいプールじゃ全然足りないし。

 いつも貯水タンクに給水する要領で、一気にプールに水を貯める。

 あふれないように、ギリギリで止めた。

 まあ、大浴場ぐらいの量だね。


 振り返ると、試験官が目を見開いて固まっていた。

 この人、魔術師団の偉い人って聞いたけど、そんなに驚く?


「次は土魔法いきます」

「あ、ああ……どうぞ」


 たくさん並んでいる植木鉢やプランターの草花を、全部巨大化させてやった。

 なんせ、巨大化が特技だからね、私。

 実のなる植物は、全部実らせた。

 もちろん、手加減はしましたよ。植木鉢壊れちゃうから。

 それなのに、なんだか試験会場がシーンとしている。

 なんなら、攻撃魔法の方の試験官もこっちを見ている。

 やりすぎたかな、とも思うけど、まだ全然全力じゃないし。

 ただ、手は抜かないって決めてたからね。


「火魔法は、やったほうがいいですか?」

「えっ、ああ、一応見せてください」


 一応、攻撃はできないことになってるから、ファイヤーボール投げたらまずいよね。

 なので、両手にひとつずつサッカーボールぐらいの火を出してみせた。

 ぎょっとして後ずさる試験官。なぜだ。

 投げませんよ。

 ペコリ、と頭を下げて戻ろうとしたら呼び止められた。


「収納スキルも持っているんですか?」

「はい、持ってます。中身を見せることはできませんが」

「容量はどれぐらい? だいたいで構いませんが」

「そうですね……よくわかりませんが、荷馬車ぐらいなら余裕で」


 荷馬車ぐらい収納できたら仕事で雇ってもらえると聞いていたので、適当に答えておく。

 スキルはそんなに正直に申告しなくてもいいって聞いたし。

 なんだか、周囲の視線が痛かったが、やるだけやったのでスッキリした。

 あとは結果を待つのみ!


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