襲撃!?
学園にいたときには、先輩達がグループで訓練していて、私とマリナとイーサンは三人で別に訓練をしていた。
私たち三人は、隣国スタニア王国の結界を攻撃するための秘密兵器みたいな存在だからだ。
基本的に、先輩たちだけで勝てそうなら私たちは出ない、という方針は変わっていない。
戦闘部門のルールなんだけど、どちらも三回ずつ攻撃と防御をする。
その三回にそれぞれ点数をつけて、合計点で勝敗を決めるというルールだ。
なので、一度目の攻撃で相手の結界に歯が立たないと判断した場合は、二回目と三回目に私たち三人が出る。
八人で土の防壁を作っていたのが、私を入れた六人になり、マリナとイーサンは前へ出てブリザードで炎を防衛する陣形だ。
私はたいして役に立たないかもしれないけど、先輩達と一緒に土魔法で防壁を築く方に加勢する。
学園では一生懸命訓練してみたんだけど、私は『土を固めて壁を作る』というのが得意ではなくて、あまり役に立たないのです。
農業の土魔法と、戦闘の土魔法は全然違うんだなあ、と痛感。
私が作った防壁だけボロっと崩れたりして、カーマイン様に苦笑いされてしまう。
「アリス、君は防御に加わらなくていいよ。その方が安全だ」
「そうだよ、俺たちだけでなんとかするよ」
先輩たちにも慰められてしまった。情けない。
「アリス、君はイーサンと一緒に前衛に出て、霧を発生させる方がいいかもしれないな」
「霧ですか?」
「小雨を降らせるような感じで霧を発生させてみてくれるか?」
「こんな感じですか?」
いつも畑に水をまいているときの要領で、広範囲に霧状の雨を降らせてみる。
「そう。で、マリナがそこへブリザードを重ねる」
「あっなるほど! そうすると私のブリザードの威力が強くなるんですね?」
「そうだ。で、イーサンはなるべくそれを遠くまで吹き飛ばすんだぞ」
「わかりました!」
敵の魔法攻撃は、ほとんどの場合炎だから、それを想定した防御だ。
私たちはワンドを使えばかなり出力をあげることもできるので、たいていの炎は消せると思うんだけどな。
「よし、では三年生全員はこっち側から炎の攻撃を全力で」
少し離れた位置から先輩たちが炎の攻撃を始める。
私たち三人はそれを消火する訓練だ。
カーマイン様の言った通り、私が霧を出すことで、マリナのブリザードは威力がかなり増す。
「いいだろう。では防御に回ったときは、今の陣形でいくぞ」
良かった。
私では全然先輩たちの役に立てないと思っていたけど、少しはマリナのブリザードの役に立てるようになった。
攻撃の方はさんざん三人で練習してきたので、軽くおさらい。
これも、まず一回目は先輩たちが火魔法だけで攻撃してみる。
それで通用するようなら、私とイーサンは火魔法で先輩たちに加わる予定だ。
マリナは攻撃のときはお休み。魔力を温存した方がいいし。
私は火魔法があんまり得意ではないけれど、団体戦の場合広範囲に火を放つのが目的なので、少々ノーコンでもいける。
ワンドを使った力技でよければ、少しは役に立てるもんね!
久しぶりに訓練をしたので疲れてしまって、午後から馬車の中で爆睡してしまった。
ゴトゴトと揺られていると、すぐに眠くなってしまう。
いいお天気で、日差しが温かくて気持ちいいなあ……なんてお昼寝タイムを満喫しているときだった。
突然馬が急停止して、ガタンと馬車が大きく揺れた。
「前方より、襲撃!」
外で緊迫した感じの怒鳴り声がした。
……ん? 眠たい目をこすりながら、イーサンとマリナと顔を見合わせる。
ぼんやりとした頭で、今訓練中だっけ?などと考えていたら、イーサンが扉を少しあけて外の様子を確認している。
「まずいぞ。盗賊みたいな一団だ!」
イーサンの一声で目が覚めた。
護衛の騎士さんふたりは、外へ飛び出していった。
「イーサン、どうしよう……」
「俺たちは、三人離れないことだよ。万が一のときはアリスの転移が使えるし」
「でも、ローレンとケイシーが」
「あっちの馬車にはカーマイン様が乗ってる。大丈夫だよ。それに、狙いはアリスという可能性が高い」
「えっ、私?」
「だって、こんなに白昼堂々と辺境伯家の馬車を襲ってくるなんて、多分盗賊じゃないだろ?」
「そうかな……」
確かに、辺境伯家の紋が入った馬車を襲ってくる盗賊なんてあんまり考えられない。
カイウス辺境伯の評判を知っていれば、普通は逆に逃げると思う。
それに、盗賊はこんなに白昼堂々と正面からこないよね?
もし私が原因だとしたら、他のみんなを巻き込んでしまって申し訳ない。
外からは剣で戦っている音がして、時々何かがぶつかったように馬車がガタンと揺れる。
馬がおびえて暴れているのかもしれない。
「向こうにも魔法使いがいるぞっ! 気をつけろ!」
外からカーマイン様の声が聞こえた。
向こうにも魔法使いがいる?
だったら絶対盗賊じゃない。貴族家だ。
辺境伯家に戦争をしかけてくるなんて……考えられないけど。
「大丈夫だよ。こっちには先輩八人と、カーマイン様がいるんだぜ? そこいらの魔法使いになんか負けないよ」
イーサンは自分に言い聞かせるように、低い声で言った。
私はいつでも転移できるようにマリナと手をつないでいる。
マリナの小さい手が震えている。
だけど……もし転移で逃げたとしたら、再びこの一団と合流することが難しくなってしまう。
この馬車がどうなってしまうか想像できないので、ここへ戻ってくることはできないよね。
「イーサン、私たち三人で逃げるより、戦いに加勢した方がマシじゃない? ここでやっつけないとどこまでも追ってくるかもしれないし」
「それはそうかもしれないけど……」
「もし、私が目的なんだったら、私はいざというときにひとりで逃げられる自信があるよ。だから……」
「……行くか?」
イーサンが迷った末に、顔を上げた。
マリナと顔を見合わせてうなずく。
「俺は、アリスたちの護衛に徹する。アリスとマリナは得意な攻撃で敵を殺さない程度に撃退。いいな? 無理すんなよ」
「わかった。マリナはアイスバレット、私はストーンバレットで敵の足を狙う」
「俺が先に出る」
馬車から出たイーサンの合図で、私とマリナもおそるおそる外へ出た。
二十人ほどの盗賊風の一団と、騎士団が激戦になっている。
遠くに炎が見えたので、先輩たちは馬車から離れて戦っているようだ。
私は囮になって、一気に勝負に出ようと決めた。
「マリナ! イーサンと一緒にブリザードで私を守ってね!」
「アリスっ、何するつもりなのっ?」
「ここで、敵をおびき寄せる!」
私はひとりで馬車の屋根の上によじ登って、立ち上がった。
ここまで来れるものなら来てみろ!
「あっ、いたぞ! あそこだ!」
敵のひとりが大声をあげて、私を指さした。
やっぱりイーサンの予測通り、私が目的か。
武者震いで震えてくるよ。
数人の敵がこっちめがけて走ってくる。
囮らしく、ピースサインで敵をあおってやった。
本当に危なくなったら、マリナとイーサンは私が転移で守るからね!
「アリスっ、何をやってるんだ! 馬車に戻れ!」
「カーマイン様! 大丈夫です、ここで一気にやっつけてください!」
「まったく、無茶するな!」
カーマイン様はかっこよく、ワンドを使って敵をひとりずつ倒していく。
風魔法を使っているんだろうけど、剣のような切れ味だ。
「新たな敵が向こうからっ!」
騎士のひとりが指さした方向を見ると、馬に乗った十数人の新しい敵がこっちに向かってくる。
なんてことだ。
そんなに私を狙いたいわけ?
いくら国際魔術大会だからって、やりすぎだと思うんだけど!




