野営と訓練
翌日は荒野を、馬車でひたすら走った。
途中で馬を休ませたりしないといけないので、その時には休憩時間。
私たちがあらかじめ収納してきた食料を出して、野原でお食事タイムだ。
今回は私たちだけでは用意できないので、食堂の人に人数分の食事を作ってもらって、私の収納に入れてきたのです。
熱々のスープや、いつも食堂で食べている定食を、簡易テーブルに並べて。
騎士さんたちも一緒に食べるんだけど、野営で温かい料理が食べられることを、いつもすごく喜んでくれる。
もちろん、マリナの冷たい飲み物も大好評だ。
休憩中は三年生の先輩達も合同で、戦闘訓練。
指揮をとっているのがカーマイン様で、先輩たちはすごく気合いが入っていた。
上級魔術院の人が直々に指導してくれる機会なんてめったにないと言って。
夜になると、予定していた場所でキャンプをはる。
この世界にもキャンプ場のように、あらかじめ野営用に整備されている場所があるんだって。知らなかった。
このあたりには大きな宿がないので、大所帯で旅をするときは、野営することが多いんだそうだ。
夜に馬車を走らせるよりは、野営した方が安全なんだって。
領と領の境目には盗賊が出やすいという話を聞いて、なるほどな、と思う。
隣の領に逃げ込まれたら、逮捕できないもんね。
食事が終わって、騎士さんたちが交代で見張りをしてくれるので、私たちはテントで休む。
私とマリナとローレンがひとつのテントだ。
初めての校外学習という感じで、なんだか楽しい。
ローレンも収納にたくさんおやつを持ってきたらしく、ランプの明かりでスイーツパーティー。
マリナが男子たちのテントや騎士団の人にお裾分けを配ってくれている。
私とローレンはお茶の用意。
「冷凍箱の説明はローレンがやることになったの?」
「うん、ケイシーが話すの苦手だって言うから。でも、素材について聞かれたら、専門的なことはケイシーが」
クラスでも超マジメなふたり、案外うまくやってるみたい。
最近はふたりがワンセットで一緒にいるのが自然に思えてきた。
「昨日、イーサンのご両親にイーサンをおすすめされてたよね? どうなの? ローレンとしては」
「うーん、どうだろ? 家柄的にはすごくいいと思うけど、私、イーサンのことよく知らないし」
「じゃあ、ケイシーはどうなの?」
「イーサンでもケイシーでも同じ。うちとしては婿入りしてくれるならそれで」
なんと、婿入り候補にふたりとも入ってるんだ!
それはケイシー喜ぶんじゃない?
「ケイシーは就職先か婿入り先を今年中に探さないといけないんでしょ? ローレンに何か言ってきたりしない?」
「何かって何よ」
「その、プ、プロポーズとか……」
「あはは。ないない。ケイシーは卒業して就職してから、ゆっくり結婚相手を探すんだって」
今のままでは将来の仕事や身分も約束できないのに、婚約するなんて相手に失礼だと考えているらしい。
なんだかケイシーらしいな。
相手がローレンなら、身分は約束されているのにね。
でも、ケイシーとローレンがそんな話までしているというのが意外だった。
もしかしたら、順調にいけば愛が育つかも!
ひそひそ話をしていたら、マリナが戻ってきた。
「アリス、ローレン、明日は朝から訓練だって。カーマイン様から伝言」
「あ、そうなの?」
「うん、このあたりが広々としているから、戦闘訓練にちょうどいいって」
馬車に乗って、食べてばっかりだと、身体がなまってしまうもんね。
私は平気だけど、体力のありあまっている男子たちは、運動したがっているかも。
「ローレンもよかったら一緒に訓練してみない? 三年生の先輩たちと仲良くなれるよ!」
「そうだね……私は見学だけしようかな」
チームは違うけど、同じ大会に出る仲間だもんね。
先輩たちは全員貴族だし、ローレンにとっては交流しておくメリットもあるだろうし。
翌朝は、ケイシーも誘って全員で参加する約束をした。
朝目覚めると、先輩たちはすでにそこいらで柔軟体操をしたり、ランニングをしたりしていた。
私たち女子三人は、たき火の周りで簡単な朝食の準備。
と言っても、収納からサンドイッチとスープを出すだけなんだけど。
自主トレーニングをしていた人たちが、わらわらと集まってくる。
「先輩、おはようございます!」
「おー、アリスちゃん、マリナちゃん、いつもありがとう。そちらのご令嬢は……魔導具チームの子?」
「そうです! 錬金術クラスで一緒の、ローレン・オルセット男爵令嬢です」
先日の食事会ですでにご挨拶は済んでいると思うけど、知らない人のために改めてローレンを紹介する。
「どうぞ、ローレンとお呼びください」
ローレンはよそ行きの笑顔で、美しいカーテシーをした。
ローレンのこういう礼儀正しいところって、好きだな。見習わないと。
「君、次期鉱山男爵なんだって? 本当なの?」
「ええ、ひとり娘ですので」
ローレンはすでにお母さんが病気で亡くなっている。
それで、ずっと家の中のことをひとりで取り仕切っていたんだって。
男爵家はそれほど使用人がいないので、たいしたことじゃないってローレンは笑ってたけど、すごいと思う。
「そっかあ。俺、伯爵家の次男なんだけど、チャンスある?」
積極的な先輩が、冗談とも本気ともとれるような発言で、ローレンに迫った。
途端にケイシーが不機嫌な顔になったけど、それに気付いているのは私だけかな。
他の先輩たちも、あからさまに態度には出さないものの、ローレンには興味津々のようだ。
考えたら、私とマリナが平民だから、結婚相手候補になれるのはローレンしかいないよね。
なんか、申し訳ないです。
「そろそろ、訓練を始めるぞ!」
カーマイン様のかけ声で、戦闘訓練が始まった。




