王都へ向かう
王都へ向かう当日。
顔見知りの騎士さんたちが、辺境伯家の馬車で迎えに来てくれた。
王都まで護衛についてくれるんだけど、もう最近は仲良くなったので、あまり気を遣わなくなってきた。
一週間ほどかかるので、マリナとふたりでせっせとおやつの用意もしてきたし。
今回は仲間や先生も一緒だから、みんなで仲良く楽しい旅にしたいと思う。
「さあ。馬車の中で完成した魔導具の説明を復習しようか!」
引率の先生になったカーマイン様は、先生役が楽しいのか、ノリノリだ。
よく知っている私やマリナ、イーサンよりも、ローレンやケイシーに興味があるみたい。
行きの馬車の席を決めているときに、ローレンとケイシーがつかまって、同じ馬車にさせられていた。
私たちはのんびりしたいので、護衛さんたちと一緒に別の馬車だ。
イーサンには休憩時間に、ワンドで戦う訓練を見てもらうことになっている。
三人で熱光線を集中して、隣国の結界を破る作戦が、ちょっと練習不足で不安なんだよね。
マリナもなんとか光線は出せるようになったものの、あんまり得意ではないみたい。
願わくば、先輩たちだけで勝ってくれたら嬉しいな。
三年生の先輩たちは、晴れ舞台なので親が一緒についてくる人も多い。
伯爵家以上の高位貴族は、王都にタウンハウスというものがあって、そこに滞在するんだって。
出場者の家族は、優先的に入場券をもらえるのだ。
私もお父さんやカイルに大会を見せてあげたかったけど、今回はロートレック家とのことがあるので、お留守番してもらうことになった。
お父さんが王都にいることがわかったら、悪いやつらの標的にされそうだしね。
私たちには護衛がついているからいいけど、王都で平民がうろうろしていたら、どんなトラブルに巻き込まれるかわからない。
お父さん自身がそう言っていたぐらいだから、やっぱり都会は危ないんだろうな。
旅の一日目はハンベル領で一泊。
大所帯なので野営でも良かったんだけど、キャロラインのご両親と、イーサンのご両親が宿を用意してくれていた。
大広間には豪華な食事も用意されていて、キャロラインの気遣いがうかがえる。
「アリス、マリナ、ちょっといい? 俺の両親が挨拶したいって言ってるんだけど」
「ええっ、イーサンのご両親が来られているの?」
「まあ……ちっとも帰省してなかったから、顔見に来たんだろ」
ちょっとバツの悪そうな顔をしているイーサン。
最近はほとんど辺境伯様のところにいりびたって訓練してたみたいだから、実家に帰ってなかったんだね。
「やあ、君たちが噂の優等生たちだね?」
「初めまして。イーサン様の学友のアリスと申します」
「マリナです、よろしくお願いします」
覚えたてのぎこちないカーテシーで挨拶をする。
こういう時のために、お母さんに教えてもらっといてよかった!
「君たちのことは、去年の後期試験のときに見ていたよ。息子と仲良くしてくれてありがとう」
「あなたたちと知り合えて本当に良かったって、イーサンはいつも言っているのよ」
「母さん、そんな余計なこと言わなくてもいいって!」
イーサンは少し顔を赤らめて口をとがらせている。
優しそうで可愛らしいお母さんだ。
お父さん、フラナガン子爵はスマートでオシャレな感じの人。
ふたりとも貴族らしい豪華な服装だけど、親子で仲良く話しているのを見ると、貴族も平民も変わらないんだなって思う。
私たちが挨拶をしているのを見たローレンとケイシーも慌ててやってきた。
ふたりとも貴族らしい所作で、挨拶をしている。
ケイシーはイーサンのご両親と面識があったようだ。
ローレンは男爵令嬢だからか遠慮気味で、ケイシーの後ろに控えている。
「君はオルセット男爵令嬢だね? 以前貴族会でオルセット男爵にお会いしたことがあるよ。自慢の娘さんだと聞いている。どうだい? うちのイーサンは?」
イーサンのお父さんは、ちょっと茶目っ気のある笑顔で、ローレンにウィンクをした。
これは、アレですね。
「うちの息子を婿にもらってくれないか?」というアピールかな。
なんだかちょっと、ケイシーが不機嫌な顔になったような気がする。
ローレンって普段あんまり男子と話したりしないけど、眼鏡はずしたら美女なんだよね。
しっかりしているし、男爵家の跡取りだし、実は狙ってる男子もいるだろうなあ。
ローレンはこういうやりとりに慣れているのか、まったく動揺することなく、子爵に向かってにっこりと微笑んだ。
さすが。
王都への旅はまだまだ長いというのに、一日目でちょっと疲れてしまった。
やっぱり貴族様たちに囲まれると、気疲れする。
マリナとふたりで早めに部屋に引っ込んで、スイーツを食べて寝ることにした。
私たちは収納が無制限なので、普段使っている枕や毛布なども持参しているのです。
そういえばローレンと私、ふたりも収納持ちがいたら、長旅でも楽勝だよね!




