出発準備
キャロライン様は約束通り、実家から優秀なデザイナーを呼び寄せてくれた。
ローレンやケイシーの相談にのって、魔力伝導線を織り込んだ生地も肌触りの良いものに改良してくれた。
試作品の製作は、クラスの女子全員が協力してくれたので、なんとかいくつかの医療魔導具を仕上げることができました!
腰痛ベルトと、手首足首用サポーター。
それと治癒魔法の使える人が作ってくれた、怪我が治りやすい傷テープ。
これに関しては、ほとんどキャロライン様の活躍でできたようなものなので、ハンベル伯爵家が特許申請をすることに。
冷凍箱の方は断熱効果の高い素材で箱を作ったので、冷凍効果が長持ちするようになった。
小さい箱なら、一ヶ月に一度ぐらいマリナが魔力を込めるだけで、氷が作れる。
前世の記憶を参考に、製氷皿というものも作った。
冷たい飲み物が飲みたい貴族は、欲しがるだろうなあ、これ。
今はマリナの魔力がないと動かせないんだけど、いずれもっと他の方法で氷が作れるように改良したいと思う。
ついに大会まであと二週間。
すでに国外からの出場者も、次々と王都入りしているそうだ。
あまり国交が盛んでない国などは、これを機会に観光をしたり、情報収集をしたりしたいと思っているようだ。
王都までは馬車で一週間ほどかかるため、出場メンバーは三日後に出発することになった。
途中で何があるかわからないし、大所帯なので移動には時間がかかる。
引率はセドック先生と、カーマイン様、それに辺境伯家から医師も同行してくれる。
三年生のチームは全員貴族だからいいんだけど、私たちの方はふたりが平民。
それと子爵家次男と子爵家三男、男爵令嬢というチームだ。
寄付などまったく集められないメンバーなので、王都への旅費はすべて辺境伯様持ちだ。
その代わりに、もし私たちが優勝できて、優勝賞品をもらうことができたら、辺境伯様にもメリットはあるしね。
週末、授業が終わった後に、何やらクラスのメンバーが教室で集まっていた。
私たち大会出場メンバーは、セドック先生に呼ばれて必要書類の確認をしていたんだけれど、そこへキャロライン様が呼びに来た。
「セドック先生、準備ができましたわ!」
「おお、そうか。こっちの用事は終わってるから、連れていっていいぞ」
「では。アリス、マリナ、ローレン、イーサン、ケイシー、わたくしに着いてきてくださいな」
なんだかキャロラインは上機嫌で、廊下を先に立って歩いていく。
私たちは、なんだろう?と顔を見合わせながら、後ろから着いていった。
「皆様、連れて参りましたわよ!」
教室に入ると、わーっと歓声と拍手で迎えられた。
壁には『国際魔術大会 出場おめでとう!』と描かれた横断幕がかけられていた。
「私たちは王都までご一緒できませんから、せめて盛大にお見送りしようと皆で話し合いましたのよ!」
勉強机を集めてテーブルクロスをかけた上には、お菓子や簡単に食べられるお料理が並べられていて。
キャロラインの侍女や、貴族家の使用人らしき人が三人ほど壁際に控えているので、クラスメイトのお家の人が協力して準備してくれたんだろう。
押し出されるように教室の真ん中へ進むと、私たち五人をクラスメイトがぐるりと取り囲んだ。
「さあ、みんなで乾杯しますわよ! アリスがかけ声をかけてくださいな」
「え、私ですか? でも……」
マリナの顔を見ると、小さくなってふるふると首を横に振っている。
ここは貴族のローレンに、と思ったが、すっと目をそらされてしまった。
イーサンもケイシーも、目を合わせようとしてくれない。
仕方ないなあ……
「私たちのためにこんな豪華なお見送りを、本当にありがとうございます! 精一杯頑張ってきます!」
「アリス、マリナ、ローレン、頑張ってこいよー!」
「イーサン様、ケイシー様、応援してますわー!」
みんなの声援を浴びながら、果実水で乾杯!
テーブルの上には色とりどりのスイーツや、サンドイッチが並んでいる。
「いつもアリスとマリナにスイーツをまかせっきりなので、今日はわたくしが準備しましたのよ?」
「すごく豪華です。これはどこのお店のスイーツですか?」
「うちのシェフが作ったものを届けさせましたの。自慢のレシピですのよ?」
「えっ! ハンベル伯爵家のシェフの方が作ったんですか?」
すごい……どうりで豪華なはずだ。
まるで結婚式のホールケーキのように、芸術的な生クリームの飾りがついていて、フルーツたっぷりのケーキだ。
焼き菓子もドライフルーツが入っていたり、クルミのようなナッツが入っていたりして、高級感がある。
飲み物も色々と用意されていて、ちょっとした立食パーティーのような感じだ。
しばらく食べたり騒いだりしていると、セドック先生や、三年生の出場メンバーがやってきた。
「へえ……豪華だなあ。あ、お招きいただき、ありがとうございます。二年魔術クラスの皆さん」
「先輩方も、楽しんでいってくださいませね。遠慮は要りませんわ」
「あ、君がハンベル家のキャロライン嬢?」
三年生の先輩たちは、あっという間にキャロラインを取り囲んでひとりひとりご挨拶をしている。
やっぱり、爵位の高い人にご挨拶するんだね。
モテモテなキャロラインは、ちょっぴり照れたように頬を染めている。
キャロライン、すっごく美人なのにまだ婚約者決まってないもんね。
先輩たちみんなイケメンだし、家柄の合う人がいたらいいのに。
「いよいよだな……僕はかなり緊張してるよ」
普段は教室の隅で目立たないケイシーは、クラスのみんなに囲まれて少し居心地悪そうな顔をしている。
「何言ってるの! ケイシーとローレンのおかげで冷凍箱ができたんだよ? 胸はらなきゃ!」
「そうだよー、ケイシーくん。私の作った氷、これで保存できると思ったらうれしい」
マリナとふたりで励ましたら、真面目なローレンとケイシーは、覚悟を決めたような表情でうなづいた。
今回の大会、私とマリナとイーサンは戦闘部門の補欠に登録している。
何かあったときは、このふたりが頼りなのだ。
だって、私たちの研究の内容を全部知っているのって、錬金クラスの仲間しかいないからね!
「精一杯頑張って、辺境伯様に優勝賞品を献上しよう!」
「おー!」
最初は挨拶もできなかった、クラスの貴族の人たちが、今は笑顔で応援してくれている。
頑張らなくちゃ!




