新しいスキル
「カーマイン様! すごいです! それです、それっ! 私がやりたかったのは」
「危ないな……適当なイメージでやると、加減できない」
「でも、的にちゃんと当たったじゃないですか!」
「アリスちゃん、的の向こう側見てごらん?」
よくよく見てみると、カーマイン様の放ったビームは、的を貫通して壁まで到達していた。
そうか。光の速度だもんね。
貫通しちゃったら止まらないのか。
「なるほど。これは焦点というか、発火点を調整できるようにならないと、危ないのか」
カーマイン様は、なんだかニヤニヤしながら考えごとをしている。
「じゃあ、私はノーコンだからダメでしょうか?」
「いや、そんなことないと思うよ。光はまっすぐ飛ぶからね。人にさえ向けなければ、大会で使えるんじゃないかな。たとえば、結界の上部を狙えば、そこから突破口ができるかもしれないしね」
「危険だと見なされて、失格になったりしませんか?」
「大丈夫。レーザービームなんて物騒な名前を叫ぶのはやめて、熱光線!ぐらいにしといたら? じゃあ、きっと誰にもなんのことかわからないと思うよ」
「なるほど……そうします。アドバイス、ありがとうございます」
「実際使ってみるとわかるけど、これ、火魔法放つよりずっと魔力が少なくて済むから、実戦向きだね」
「そうなんですか?」
「アリスちゃんと話していると、どんどん我が国の国家機密が増えていくよ」
「えーっと、これ。国家機密レベルですか?」
「そうだね。まだ誰にも話さない方がいいよ」
「わかりました。相談してよかったです」
私とカーマイン様が訓練を始めたので、マリナとイーサンが戻ってきた。
何をやっているのかと聞かれたので、『熱光線』という新しいスキルだと説明すると、イーサンが興味を示した。
「俺にもできる?」
「うん、イーサン火魔法得意だし、器用だからできると思う」
「じゃあ、教えて」
私は説明が下手くそなので、カーマイン様からイーサンに説明をしてもらった。
やっぱりイーサンは頭が柔軟なのか、すぐに光線を出せるようになって、カーマイン様と変わらない威力になった。
あっちっこちの的や壁に焦げ穴を開けている。
後で辺境伯様に怒られないかなあ。
「すごいな、これ。魔力もほとんど使わないし、貫通力あるし。これなら結界に勝てるかも!」
「私には無理だよね? 私、水と氷しか使えないし……」
マリナがしょんぼりしている。
カーマイン様とイーサンがあっという間に習得してしまったので、ちょっと寂しそうだ。
「マリナ、これ、火魔法だと思わなかったらできるかもしれないよ? 光の魔法だと思ってイメージしたら」
「光の魔法?」
「そう。細くて強い光を遠くに飛ばすイメージで、そこに高熱も一緒に」
「こうかな? あっ、光った」
熱は出なかったけど、杖の先が光ったので、マリナは無邪気に喜んで何度も光らせている。
「それができるなら、絶対できるようになると思う。まだ時間あるから、練習しよ!」
「うん。私、攻撃魔法あんまり使えないから、これ、練習する」
そういえばマリナが使っているワンドは、先がダイヤモンドでできている特別製だ。
マリナだけは氷魔法と相性が良いダイヤモンドコーティング製を使っているんだった。
「マリナ、ちょっとワンド貸してくれる?」
「うん、いいよ。どうぞ」
試しに軽く振ってみると、さっきより楽にビームが出た。
私のミスリルワンドよりかなり強力だと感じる。
「マリナちゃんのワンドは何か違うの?」
「あ、はい。私たちのワンドはミスリルコーティングなんですけど、マリナだけは氷魔法しか使わないのでダイヤモンドコーティングを使ってるんです」
「なるほど。確かに光線を出すなら、ダイヤモンドの方が威力ありそうだな」
「ですよね」
「OK。辺境伯に言って作らせるよ。大会に間に合うように」
「いいんですか? 高くつきますよ?」
「大丈夫大丈夫。カイウス学園の名前が世界に轟くかもしれないんだから」
カーマイン様は、さっそく報告してくると言って、手をひらひらと振りながら行ってしまった。
ちょっとせっかちなところがあるよね、カーマイン様って。
ということは、今日の訓練はここまでか。
「あー疲れた。ちょっと休憩したいよねえ」
マリナがちらちらと視線を送ってくる。
今日はイーサンがいるから、馬車で学園に帰ろうかどうしようか、迷っているところだ。
本当ならすぐにでも収納の中でごろんと転がって、アイスクリームでも食べて、寮に戻りたいところなんだけどなあ。
イーサンにはまだ、収納魔法と転移の秘密を話していない。
だけど、これだけ一緒に行動していたら、いずれ話さないといけないような気がするけどなあ。
それに何かあったときのために、イーサンとマリナと三人のグループ化も練習しておきたい。
三人でいるときに何か事件が起きたとして、私とマリナだけ逃げるわけにいかないもんね。
でも、それにはまず辺境伯様の許可をとらないといけない。
転移するにしても、人目につかないように、執務室でするようにと言われているし。
イーサンは辺境伯様にもカーマイン様にも信用されてるから、許可してもらえそうだけど。
「イーサン、私たちちょっと辺境伯様に用事があるから、執務室に寄りたいんだけどついてきてくれる?」
「うん、いいよ。どうせ帰り道、アリスたちの護衛するつもりだったし」
執務室のドアをノックして、中へ入ると、ちょうどカーマイン様と辺境伯様が話し合いをしているところだった。
「ああ、アリスちゃんたち、お疲れ様。もう帰るの?」
「はい、そろそろ帰ろうかと思ってるんですが……」
「ああ……そうか」
カーマイン様と辺境伯様が、イーサンを見て何かに気付いたような顔になった。
そうなのです。
許可をもらわないと、馬車で帰らないといけないのです。私たち。
「もう夕方だから、馬車で帰るのは危ないな……」
「辺境伯様、俺が護衛についてますから大丈夫です」
「いや。まあ……そのなんだ。アリス、三人でもアレはいけるのか」
「えーっと、多分大丈夫です。グループ化してしまえば」
「それなら、イーサンを含めた三人は、アレでここへ出入りするのを許可する」
「わかりました~では、アレで帰らせていただきます!」
マリナと顔を見合わせて笑う。
正直助かった。
今から馬車で一時間かけて帰るのはしんどいもんね。
「なんだよ、アレって。俺にも教えろよ」
イーサンが小声で言いながら、肘をつついてくる。
「うん、あのね。これ、辺境伯様と私たちだけのトップシークレットなんだけど。私、ここから学園まで瞬間移動できるようになったの」
「はあああ? どういうこと? 瞬間移動なんてスキル、聞いたことないんだけど」
「まあ、説明するよりやってみた方が早いよ。じゃあ、辺境伯様、カーマイン様、失礼します!」
片手で執務室の隅にある古い靴を持って、もう片方の手でイーサンの腕をしっかり握る。
手をつなぐのはちょっと恥ずかしいので。
マリナはもう、離れていても一緒に転移できるからね。
一瞬の暗闇の後、三人で無事に収納の中へ転移できた。




