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辺境伯領は都会だった

 オンボロの荷馬車で一週間かけて、辺境伯領へ向かった。

 弟のカイルは7歳。適性は父と同じ火属性だ。

 なんと、村長の息子と同じ、剣士のスキルがあったらしい。

 小さな頃はお人形のようにカワイイ弟だったけれど、今では少年っぽく成長して、時々剣の稽古をしている。

 大人になったらお父さんのように、狩りをするんだそうだ。


 詳しい説明もなく馬車に乗せられたカイルは、引っ越しと旅行の違いもよくわからず喜んでいる。

 村には同じ年頃の友達もいなかったから、きっと未練もないだろう。

 私も、村に未練なんかない。

 お父さんに石を投げたあんな村。出てきてよかった。

 私は家族が一緒なら、どこでだって生きていける。


 幸い、戦争中に我が家は、それなりの貯蓄ができた。

 こんな機会はめったにないだろうから、家族旅行を楽しもうと、お父さんもお母さんも気持ちを切り替えたようだ。

 よその領を通過するたびに、めずらしい食べ物を買ったり、観光をしたり。

 宿屋の食堂で外食をするのも初めてで、カイルは大喜び。

 思えばあの辺鄙な村でずっと暮らすよりも、移住したほうがよかったのかも。

 そんな気持ちになってきた。

 楽しい旅路だった。



 カイウス辺境伯領。

 国の最西端にある広い領地で、気候は良い。

 四季があって、さまざまな作物が栽培されているそうだ。

 辺境伯領に着いて驚いたのは、想像していたよりもずっと華やかな都会だったことだ。

 ここが王都だと言われても信じてしまうぐらい。

 たくさんのお店があって、女の人はおしゃれなドレスを着ていて、美味しい食べ物がいっぱい売っていて。

 まさに観光に来た『おのぼりさん』という気分だ。

 あ、これ、前世の言葉だっけ。


 辺境伯領は戦争で領民が減ってしまったので、農業に従事する民を募集していて、お父さんはその情報を知っていたんだって。

 綿花や薬草を育てた実績があるということで、すぐに住民登録をしてもらえたんだそうだ。

 土魔法使いが2人いるというのも、高ポイントだったらしい。

 なんの学もない農民なのに、適性って意外なところで役に立つもんだね。


 与えられた家や農地は、辺境伯から借りている形になり、税を納めなければならない。

 村にいたときよりも、税金はかなり高い。

 たった3人で農業をするのは、限界がある。

 人を雇うにも、知り合いなどいない土地だしね。

 新しい家の片付けが終わり、家族会議になったとき、私はひとつの決意を話すことにした。


「私ね。ここでは能力を隠すのをやめることにする」

「なんですって! どうして?」


 母は即座に反対した。

 でもね、能力を隠すのって、限界があるって思ったんだ。

 大きな軍隊を持つ辺境伯領でなら、薬草の需要はずっとある。

 それなら、最初から実力を見せつけたほうがいい。

 誰にも負けないような薬草農園をつくって、優遇されるぐらいになったら、人から文句を言われることもないんじゃないか。

 綿花は土地面積の割に単価が安いので、薬草農園が良いという考えを話した。


 それと、もうひとつの覚悟。

 収納スキルを持っていることを、隠さない。

 商売にバンバン使う。

 もしそれで、次の戦争のときに従軍要請がきたとしても、まさか前線で戦うわけじゃないしね。

 この世界には、治癒スキル持ちがいて、そういう人は前線に行かされることもあるらしいけど、それとは違う。

 収納スキルが優遇されるのは、あくまでも荷運びで、後方支援だよね。


「従軍してもいいだなんて、なぜそんなことを考えたんだ? 正直に言ってみなさい」

「うん……私、難しいことはよくわからないけど、いずれ収納スキルのことがバレて国から命令がきたら、逆らえないでしょう? でも辺境伯領に雇われてしまえば、ずっと辺境伯領にいられるよね? 国にバレて王都に連れていかれるより、そっちの方がマシかなって思ったの。だって王都では農業できないし、家族と離れ離れになっちゃう」


「そうか、そこまで考えたのか」


 お父さんは、お母さんほど頭から反対するでもなく、腕組みをして考えこんでいる。

 家族が辺境伯領で生きていくには、薬草の出荷が大前提だ。

 私やお母さんが土魔法を使えば、良質の薬草が大量に作れる。

 その上、荷馬車も使わずに、私とお父さんだけで荷運びもできる。

 それだけの能力を隠し通すのは難しいと、私でもわかる。

 小さな村じゃないんだから、いずれバレると思ったほうがいい。


「よし、わかった。ただし、アリスは学園に行け。そして、そこで薬草の勉強をしたらどうだ? 辺境伯領には王都と同じように、学園がある。貴族だけでなく平民も通っているそうだ。お前なら魔力量とスキルだけで入学できるだろう」

「そうなの?」

「適性判断のときに、神官から王都の学園をすすめられただろう? 魔力量の多い人間は、それだけで優遇される。隠さないと決めたのなら、いっそ思い切り有能なところを見せて、辺境伯に守ってもらうというのもいいかもしれんからな」

「学園だなんて……アリスちゃんが家を出るのは、反対よ。危なすぎるわ。変な貴族に目をつけられたらどうするのよ!」

「俺たちは平民だからな。そん時はまたどこかへサクっと移住したらいいだけのことさ。違うか?」


 お父さんは開き直ったような笑顔で、私に向かってニヤっと笑った。


「そうだよ! お父さん、お母さん! 私の収納の中には、家族が数年食べられるぐらいの作物が入ってるんだよ! 山奥に逃げたって生きていけるよ」

「そうね……そうだったわ。いつでも家族で引っ越せるように、このさいもっと貯め込んでおくといいかもね。アリスちゃんがいるんだもの」

「いい考えだな。家族で世界中を旅して回っても、荷物は手ぶらでいけるな」


 家族会議の結果、私は12歳になったら辺境伯領の学園を受験することになった。

 平民だからと舐められないように、お父さんが家庭教師をつけてくれた。

 2年間頑張って準備して、必ず好成績で入学するようにと言われてしまった。

 それだけ貴族のいる場所へ行くのは、甘くないということだと思う。


 一生懸命勉強した。

 前世は高校生だったんだもの。試験勉強は得意だ。

 本当なら国立の大学に行きたかった。それぐらい、成績は良かったほうだ。

 普通科や商業科ではなく、魔術科を目指そう。

 そこで魔法をバンバン使って、世界一の魔力量を目指すのだ!



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