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太陽熱

「やあ、アリスちゃんにマリナちゃん。よく来たね。戦闘班の補欠になったんだって?」

「まあ……そうなんです。王立学園にはザダリア侯爵令息がいますし、スタニア王国の結界装置のことも気になって」

「そうだね。戦闘部門にしても、魔導具部門にしても、あの結界装置に勝つにはなんらか対策が必要だろうねえ」

「普通の火魔法では勝てませんか?」

「どうだろう。こればっかりはやってみないとわからないけど、むこうは火魔法対策に力を入れているだろうからなあ」


 戦闘部門はトーナメント方式なので、必ずしも王立学園やスタニア王国と当たるとは限らない。

 だけど、東のクロレーヌ王国は小さな国で、ほとんどアストラ王国の属国のようなものだ。

 私たちの国よりも、魔術の研究が進んでいるとは思えない。


 もうひとつの出場国、北のブリスデンは共和国だ。

 もともと小さな国の集まりだったので、あまり統制のとれていない国だ。

 貧乏な国だと聞いたこともある。

 なので、可能性としてはアストラ王立学園か、スタニアの代表と当たる可能性が高い。

 そこのところの意見は、カーマイン様も同じのようだ。


 ただし、魔導具部門は対決ではなく、点数制だ。

 魔導具ひとつひとつに点数をつけて、合計点で勝敗を決める。

 クロレーヌ王国は結界装置のような大物で高得点狙いだろうから、うちは小さい魔導具をたくさん出して点数を稼ぐ作戦だ。

 そう説明したら、カーマイン様はなんだかクスクス笑っている。

 なんかおかしなこと言ったかな?


「アリスちゃん、小さい魔導具っていうけど、このワンド一本でも十分スタニアの結界装置といい勝負だと思うよ?」

「えっ、そうなんですか?」

「そもそも、ワンドで魔術を増幅して戦うなんて、今までそんな発明はなかったからね。我が国のトップシークレットだよ」


 そんなおおげさなものなんだろうか。

 実は前世の魔法使いの映画を参考に、適当に思いつきましたとは誰にも言えない。

 これぞ前世知識チートというやつだ。


「その上何? 冷凍箱? 治癒魔法を使った腰痛ベルト? 面白すぎるよ、アッハッハ……」


 カーマイン様は私が持参した企画書を見て、ついに大声で笑い始めてしまった。

 何かツボに入ったようだ。


「あの……そんなに変なアイデアだったでしょうか?」

「え、あ、いや、ごめん、コホン、笑いすぎた。ごめんね。そうじゃないよ。アイデアは素晴らしい」

「どれかひとつでもできたら、数のうちだと思うんですけど」

「うん、せっかくだから、全部作ろう。面白いじゃない。僕が協力するよ」

「本当ですか? でも上級魔術師様に協力してもらうなんて、狡いかな?」

「どこの学園でもそれぐらいやってるさ。国のメンツがかかってるんだから。僕は念のために、カイウス学園の臨時講師の資格をとったよ」

「えっそうなんですか?」

「うん、だから大会は引率していくから、安心して。君たちが狙われてることも聞いているからね」

「ありがとうございますっ! じゃあ、カーマイン先生って呼ばないと!」


 カーマイン様がついていてくれるなら、百人力だ。



「さて、じゃあまずは戦闘部門だけど、防御と攻撃、どっちから見ようか?」

「あ、私は攻撃の考えがまとまっていないので、後で相談にのってください」

「じゃあ、マリナちゃんとイーサンの連携からね」


 三年生の人たちは、土魔法で防壁を築いて盾にする防御を練習していたが、マリナの氷の盾にはメリットがある。

 透明度の高い氷だと、ある程度敵の攻撃が透けて見えるからだ。

 それと、イーサンの風魔法とマリナのブリザードで、上空の火もかき消してしまえば完璧だ。


 今回の魔術大会は、防御のときは防御だけで攻撃する必要がないので、上空にブリザードが吹き荒れていても問題ない。

 なので、三年生六名は前衛で防壁を使って守り、イーサンとマリナが上空担当ということになるらしい。

 下から上へとブリザードを吹き上げる訓練をしているふたりを、ぼんやりと眺めている。


 マリナの氷って透明度が高いから、巨大レンズとか作ったら太陽光を集められそうだなあ。

 虫眼鏡で光を集めたら、紙が燃える実験、小学校ぐらいのときにやったんだっけ。

 あれ、応用できないかなあ。

 ぼーっと見ていても仕方がないので、いったん考えをまとめるためにひとりで収納の中に入る。

 学園の図書室から借りておいた、上級火魔法の本にもう一度目を通してみよう。

 確か、太陽光を熱に変える方法がどこかにあったはず……


 ……あった。これだ。

 この魔法をワンドで増幅して、一直線に光線で出せたら。

 イメージだ。イメージが大事。

 前世のアニメでよく見ていたみたいに、レーザービームをワンドの先から……

 と考えながら軽くワンドを振ったら、なんか出たっ!


 一瞬杖の先が光って、少し離れたところにあった箱が焦げた。

 やばい。これは収納の中でやっちゃいけなかった。

 中で火事になったら大変だ。

 でも、今の、レーザービームっぽかったな。

 ちょっと外に出て練習してみよう。


 収納から出て、練習しているマリナたちとは少し離れた場所で、もう一度さっきのイメージを思い描く。

 太陽光を背後に受けて、杖の先に熱を集める感じ。

 ん? もし当日雨だったらどうしよう。

 太陽熱を利用する魔法には、そういう弱点があるのか。

 ていうか、屋内だったら太陽光利用できないよね?


 ……なんか違う。

 そもそもワンドには魔石が入ってるんだから、太陽光の力を借りる必要ないのでは?

 太陽光がなくても火魔法は出せるんだから、それを光と熱に変換すればいいんだ。

 うん。やってみよう。

 火を出さずに、光と熱だけを細長く飛ばすような感じで。


 「レーザービームっ!」


 ぴゅっと短い波長の光が出て、少し先にある的に焦げ目がつく。

 今の、光が飛んだ? ちょっと成功してる感じ?

 なんだか気恥ずかしいけど、詠唱した方がイメージしやすいような。

 もう一回やってみよ。


「レーザービームっ!」

「アリスちゃん、何面白いことやってんの?」

「ひっ、カーマイン様、いつの間に背後に」

「いや、君がまたなんか面白いこと始めたからさ。今、杖の先、光ったよね」

「……光りましたか?」

「とぼけなくていいよ。説明してごらん? 何かやりたかったんでしょ?」

「実はですね……光と熱だけを集めて、飛ばすことはできないかな、と」

「光と熱だけ? なんでそんなこと思いついたの?」

「マリナの氷を見ていて、あれを大きなレンズにできたら、太陽光を集めることができるな、と最初は考えて……」


 虫眼鏡で太陽の光を集めると、焦点の合った位置で火が起きる。

 だから、光と熱だけで攻撃できるとすれば、隣国の結界の向こう側で発火させることができるのではないか、と説明してみた。

 カーマイン様は、うーんとうなりながら腕組みをして考え込んでいる。


「……で、試しにやってみたら、杖の先が光って、あそこが焦げた、と」

「えーと、焦げてますね、はい」

「いつも思うんだけど、君のその突飛な知識はどこからわいてくるのかな?」

「想像です。だって、魔術って想像でしょ? 違いますか?」

「そうだよ、そうなんだけどね。でも、太陽光や光と熱の正しい知識がないと、その魔法は発動しないはずだからね?」


 ひえー。なんだか疑いの目を向けられているみたい。

 でも、私、太陽光の知識なんてほとんどありません。

 前世でも理系の科目全然ダメだったし。


「もう一回やってみてくれる?」

「はい」


 えーっと、光と熱を集めるイメージ。

 焦点を決めて、そこへ光と熱の線をぶつけるイメージだ。

 こんどははっきりと、レーザービームらしきものが出た。

 直径2~3センチぐらいの、丸い焦げ跡ができている。

 一瞬煙が上がったが、燃え上がることはないようだ。

 うまく熱だけぶつけることができてるのかな?


「もう一度、今のはどうイメージしたのか、詳しく教えてくれる?」

「うーん……空中に巨大なレンズがあって、集めた光の焦点があの的のあたりにあると想定して、そこへ光と熱を……」

「こういうことか!」


 カーマイン様が腰からワンドを抜いて、びゅっと的に向かって振った。

 すごい。

 私よりはるかに強力なレーザービームが飛んでいって、的に穴を開けた。


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