ゼラチン見つけた!
週末がやってきた。
今週末は辺境伯家に魚と野菜を届ける予定になっているので、マリナの家に行かないといけない。
だけど、前は馬車で一日かけて行ってたのが、一瞬で行けるようになったから、本当に楽だ。
こんなことなら、毎週でもマリナを実家に連れていってあげたらいいよね。
辺境伯家に商品をお届けに行くタイミングで、また迎えに行ってあげればいいんだし。
できるときはそうしよう。
きっと弟くんや妹ちゃんも喜んでくれるはず。
いつものように午前中はマリナとふたりで市場へ行って、たくさん仕入れをした。
今回はコーヒーを使ったスイーツを作りたくて、コーヒーを多めに仕入れてみた。
コーヒーロールケーキとか、コーヒーアイスクリームとかできそうだし。
辺境伯様から、「人前で決して瞬間移動しないように」と言われているので、とりあえず街外れまで移動。
今後のためにも、瞬間移動用の人目につかない場所を、何カ所か探しておく必要があるかもなあ。
周囲に誰もいないのを確認して、マリナの実家へ転移した。
家の近くの海辺に海産物の保存用倉庫があって、その入り口の前で収納した箱を移動専用にしてある。
いきなり潮風の香り。波の音。
「ねえ、マリナ。なんだかここが、私の第二の故郷っていう感じがしてきた」
「うふふ。そう言ってもらえると嬉しいな。アリスはお魚が好きだしねえ?」
「そうそう。海産物大好き。マリナと友達でよかった!」
「私もアリスと出会えてよかったよ~こんなに簡単に実家に帰ってこれるなんて!」
スキップしながら家に向かうマリナが可愛い。
いつも学園では貴族に囲まれて気を張っているから、実家に戻るとやっぱりホッとするよね。
マリナが本当はとってもおしゃべりだなんて、クラスの女子は知らない。
いまだに緊張してるんだろうな、って思うことがある。
私はもう慣れちゃったけどね。
「あら、アリスちゃんいらっしゃい! マリナ、お帰りなさい。どうやって帰ってきたの? こんなに早くに着くバスはないでしょう?」
「え、ああ……えーっと、後でゆっくり話すけど、アリスの新しいスキルで帰ってこれるようになったの」
「スキルで?」
「そう。いつも野菜を箱に入れて、こっちに送ってもらっているでしょう? あの箱の中に入って一緒に来たの」
「そんなことができるのっ?」
おばさんがこれでもかというぐらいに目を丸くして驚いている。
おばさんが悲鳴のような声をあげたから、奥からおじさんが飛び出してきた。
「どうしたんだ?」
「あ、お父さん、ただいま。あのね、アリスのスキルで野菜と一緒に飛んでくることができるようになったの!」
「え? どういうことだ?」
「だから、アリスのスキルで学園からここまで瞬間移動してきたんだってば!」
「……魔法というのは、そんなこともできるのか? それは学園では普通のことなのか?」
「普通じゃないよ。アリスの収納スキルが特別なんだよ!」
おじさんの素っ頓狂な声がおかしくて、笑いをこらえるのが大変。
あまりに驚かれたので、マリナも苦笑している。
そういえば、初めて収納の中に転移してしまったとき、マリナは私より落ち着いてたもんなあ。
結構度胸あるんだよね、マリナ。
「じゃあ、これからは今までよりもひんぱんに帰ってこれるんだね?」
「はい、私がマリナを送り届けて、また次の日に迎えにきます。お魚を取りにくるついでですから」
「そうかい。マリナ、アリスちゃんには本当にお世話になっているねえ」
「うん、お母さん。魔術大会が終わったら、毎週帰ってくるようにするね。今はちょっと準備とか訓練で忙しいんだ」
「すみません、私たちが転移のスキルで移動していることは、内緒にしておいてくれますか? 辺境伯様から、実家以外の場所への転移は禁止されているんです。人に見られない方がいいって」
「ああ、わかったよ。才能のある女の子が二人もいるんだから、狙われないようにしないとな」
「私たちが帰ってくるときには、海辺の倉庫に転移してくるようにしますね!」
「そうか。では、あそこは立ち入り禁止にしておこう」
その晩はゴージャスな海鮮鍋やら、焼き魚がいっぱい食卓にならんだ。
私が魚好きだからって、おばさんがいつも腕によりをかけて作ってくれる。
普段よりもごちそうだからって、弟のトニオくんは満面笑顔だ。
妹のアンナちゃんは、冷たい果実水がお気に入りで、ご飯よりもスイーツが楽しみみたい。
「あれ、おばさん、これはなんですか? 初めて見るお料理ですね」
「ああ、これはこごり草という海の中に生えている草があるんだけどね。肉や魚と一緒に煮ると、こんな風にぷるんと固まるんだよ」
へーっ……なんか前世にそんなお料理あったなあ。
鶏肉を煮て、しばらく冷やしておくとぷるんと固まるんじゃなかったっけ?
ゼラチン質みたいな?
そういえば、この世界にゼラチンってあるんだろうか。
市場で見たことないけど。
「そのこごり草って、見せてもらえますか?」
「ああ、これだよ」
海藻だけど分厚くて、トゲトゲのないアロエみたい。
ちぎると中身がぷるぷるしている。
こんな植物、前世にはなかったんじゃないかなあ。多分。
味も匂いもなさそうだから、お料理以外にも使えそう。
煮たら固まるんだったら、フルーツとお砂糖を入れて煮たら、フルーツゼリーじゃん!
それと、コーヒーゼリーも作れそう!
「おばさん、これって貴重なものですか? めったにとれないとか」
「あーいやいや、こんなのどこにでもあるよ。魚を捕るときの網によくひっかかってるんだよ」
「ということは、浅瀬にあるんですか?」
「アリスお姉ちゃん、これ、欲しいの?」
トニオくんがこごり草をつまみあげて、不思議そうな顔をしている。
「うん、欲しい。いくらでも買うよ?」
「だったら、俺、明日とってきてあげるよ。籠にいっぱいぐらいすぐに集められるよ!」
「本当? ありがとう。お願いする!」
「アリス、ひょっとしてまたなんかお料理かスイーツでも思いついた?」
「うん、ちょっとね。明日作ってみる」
「うわー楽しみだなあ。俺、頑張ってとってくる!」
「アンナもとってくるー」
おばさんの話では、味も栄養もないので、あんまりこのあたりの人でも食べないそうだ。
ただ、この家には代々伝わっている調理方法なんだって。
冬になると、とろみのあるものを食べると温まるから、片栗粉みたいな使い方をしているらしい。
海辺って素材の宝庫だなあ。




