訓練が始まった
イーサンとマリナと三人で、本格的に戦闘部門の訓練に参加することになった。
といっても、私たちは補欠なので、基本的には出番はない。
もし、三年生メンバーだけで勝てそうなら、私たちは予定通り魔導具部門で出場する。
先輩たちとも話し合った結果、私は火魔法が一番インパクトが強いので、攻撃グループに。
そして、マリナとイーサンはブリザードと風魔法を使って、防御の方へ参加することになった。
三年生たちは、防御方法が土魔法による盾とか土壁しかないらしくて、少し不安を感じているらしい。
なので、敵の火魔法をイーサンの風魔法で押し返しつつ、マリナのブリザードをまき散らす、という作戦だ。
ただ土壁を作るだけの防御よりは、圧倒的に強くなると思う。
これは先輩から聞いた情報なんだけど、防御力は隣国のスタニア王国が圧倒的らしい。
もともと結界装置の開発が進んでいて、防御の魔導具も色々あるようだ。
国際魔術大会は、基本的に魔術や魔導具は何を用いても良いことになっている。
ただし、決められた境界線から出ることはできないため、遠距離攻撃が中心になるということだ。
大きな会場を半分に区切って、紅組と青組が魔法をぶつけ合う、っていう感じかな。
細かいルールはあって、人間を即死させるような魔法は禁止。
ようは、直接人間に当てるのではなく、相手の防御に当てて、攻撃力をアピールすればいいらしい。
闇雲に攻撃すればいいというものでもないから、かえって難しいような気がする。
魔導具を使っていいということなら、私たちはワンドで魔力増幅できるから、圧勝できるような気がしないでもないが。
一応、スタニア王国が結界装置を使って防御してきた場合は、こっちもワンドを使って攻撃することになった。
それなら、最初から先輩たちもワンドを使えばいいんだけど、魔術大会は戦闘部門の方が日程が早く、後から魔導具部門が開催される。
なので、使わずに勝てるなら使わない方がいいんじゃないかという話になって。
あくまでも私たちは、出なくても済むなら出ない、という作戦なのです。
「防御はスタニア王国が圧倒的というなら、こっちは思い切り攻撃してもいいんじゃないの?」
イーサンは防御組になっているんだけど、攻撃で出たそうな顔をしている。
だけどなあ。私の火魔法は制限装置を解除していいなら、イーサンの力は必要ないしなあ。
マリナのブリザードの威力を高めるほどの風魔法は、やっぱりイーサンじゃないとダメなので、私と交代というわけにもいかない。
「先輩方、私がワンドで全力で火魔法を出したとして、それでもスタニア王国の防御が上っていう可能性あると思いますか?」
「それは何とも……でも、例えば完璧に火を防ぐ結界があるなら、可能性あるだろうなあ」
リーダー格の先輩の意見に、皆が不安そうな顔になった。
うーん、何か必殺技みたいなスキルが欲しいよね。
例えば、レーザー光線みたいな。
火魔法って後ろに逃げれば避けやすいし、あまり遠距離まで届かないから、レーザーみたいにまっすぐ飛ぶ熱光線みたいな攻撃ができないかなあ?
火じゃなくて、熱だけを飛ばすことができたら一番いいんだけど。
「ねえ、イーサン。ちょっと相談があるんだけど」
「何? 内緒話?」
「ちょっとあっちで話さない? 先輩達がいないところで」
こっそりイーサンを引っ張って、訓練場の端っこまできた。
「あのね。今の火魔法って、あんまり遠くまで届かないでしょう? それにあまり広範囲に火をまき散らすのも危ないし、魔力の無駄遣いだし。もっと集中攻撃みたいにできないかなって」
棒きれを拾って、地面に図を描いて説明する。
「こんな風にね、大型の虫眼鏡があるとして、そうすると太陽光を集めて熱を一点集中できるでしょう? これに似た技って思いつかない? 細く遠くに熱線を放つイメージ」
「熱線か……」
「そういうの、イーサンが得意かなって。熱風出せるんでしょ?」
「まあ……出せるけど、攻撃っていうほどの熱風でもないぞ?」
「もし、光と熱だけ飛ばせるようになったら、だんぜん飛距離は延びるし、火魔法より目に見えにくいから避けにくいはず」
「……アリス。おっそろしいこと考えつくなあ。どっからそのアイデアが出てくるのか、いつもびっくりするよ」
「一点集中したら、強い結界でも穴あけることができるんじゃないかな、って思って」
「でも、考えたら太陽の光だって炎だろ? その熱を集めるってことなら、火魔法でなんとかなるかもな?」
「これ、カーマイン様に相談してみない? ダメ元で」
「賛成。あの人、最近騎士団にいるみたいだから、行ってみようぜ」
マリナのブリザードとイーサンの風魔法の複合技のこともあるし、一度カーマイン様に見てもらった方がいいよね。
なんとなくもうちょっとでイメージがまとまりそうな気がするから、続きは収納の中で考えることにしよう。
「ごめん、私ちょっとやりたいことできたから、帰る」
「オッケー。俺、カーマイン様に連絡とってみるよ。明日またな!」
マリナとイーサンはもう少し訓練を続けるというので、私だけ先に帰らせてもらうことにした。
夕方までに、お父さんとカイルの晩ご飯を届けてあげなきゃ!




