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補欠登録

 イーサンが王都に行ってくれている間に、私たちも少しでも前へ進まないといけない。

 辺境伯様はカイウス学園内部に、密偵がいる可能性を指摘していたけれど、こちらには王立学園の情報がまったくない。

 勝つためには、何をどう準備して良いのかも、手探り状態だ。

 今できることは、ひとつでも多く有用な魔導具を作ることだとは思うけど。

 それだけでは不利な気がする。

 

 王立学園の魔導具部門は、何を切り札にしてくるんだろう。

 気になる……


 セドック先生の話では、前回の開催国だった西の隣国スタニア王国は、魔導具の技術が進んでいるらしい。

 前回の大会では、性能の良い武器や防具を開発して、優勝したそうだ。

 今回スタニアからも2つの学園が出場する。

 そうなると、強敵は王立学園よりも、隣国ということになるか。

 実は、カイウス辺境伯領が国境をはさんで小競り合いをしているのは、この国だ。


 ただし、国同士の争いというわけではなく、隣接しているあっち側の領と、カイウス領の仲が悪いみたい。

 だから、辺境伯様は隣国が作っている結界装置をぜひとも入手したいんだろう。

 こんなチャンスはなかなかないから。

 魔術大会の優勝賞品は魔導具に決まっていて、優勝国が次の大会のときに出すことになっているんだそうだ。

 つまり、今回私たちがもし優勝したら、次の開催のときにはアストラ王国が賞品を出すということよね。


 私とマリナは、三年生の戦闘部門の練習を見学に行ってみることにした。

 イーサンからの情報では、王立学園の戦闘チームはアレンが抜けてデリック・ダザリアが入ったことで、チーム統制がとれていないらしい。

 もしかしたら、私たちが優勝できなくても、戦闘チームの方が優勝してくれる可能性はあるよね。


 放課後に練習場へ行ってみると、そこには辺境伯家の騎士団がずらりと勢揃いしていた。

 大会までの間、練習相手と警備をしてくれているらしい。

 戦闘部門の戦いというのは、ひとりひとりが戦うのではなく、全員で攻撃力と防御力のパフォーマンスをするだけらしい。

 攻撃をするチームは全員で攻撃をして、防御をするチームは全員で防御をする。

 それを交代で三回ずつやって、優劣を決めるそうだ。

 長距離の団体戦って感じ。


 攻撃は主に火魔法で、風魔法の人が援助したりしている。

 防御は土魔法の人が中心になっているようだ。

 まあ、これは戦争のときの一般的な戦い方らしく、水魔法は後方支援で治癒班になる。

 しばらく遠くから練習を眺めていたけど、強いのか弱いのかさっぱり見当がつかない。

 王国最強の騎士団を持つと言われているカイウス領だから、結構強いんだろうか。


「君たち、アリス嬢とマリナ嬢だよね?」

「あっ、先輩、お疲れ様です!」


 練習を終えたチームの人が話しかけてきてくれた。

 私たちが見ていたと気付いて、他の人たちもニコニコしながら集まってきた。


「どうしたの? アリスちゃんも戦闘に参加する? それだと嬉しいなあ」

「いえっ、ただ見学に来ただけです。戦闘は遠慮しときます」

「もったいないよなあ、あんなに威力のある火魔法使えるのに」

「いえ……私ノーコンなので、きっと周囲に迷惑かけますので」

「マリナちゃんはどう? 防御の方に加わってくれたら心強いんだけど」

「む、無理ですっ、私は氷を出すしかできないので」

「そうかなあ? あの吹雪のような魔法なら、火も消せるんじゃないの?」


 どうやら、去年の後期試験のときのことを、皆覚えているようだ。

 カイウス辺境伯がやってきて、私は制限解除した火魔法を見せたし、マリナはブリザードやってたしね。

 普段自分のクラス以外の人と話す機会がないのでわからなかったけど、私たちって結構有名人みたい。

 攻撃班の先生までやってきた。この人、辺境伯様の親類だったっけ。


「なんなら、君たち補欠登録しとく? 万が一怪我人や病人が出たときのために、魔導具部門の人がこっちの補欠登録しておくことはできるんだよ」


 ふーん。なるほど。

 アレンが補欠登録しているというのは、そういうことなんだ。

 一応魔導具部門に登録しているけど、戦闘部門の補欠登録をしていて、いつでも交代できるというわけか。


「補欠登録かあ……」

「おっ、もしかしてちょっとはやる気になってきた?」


 戦いたくはないけど、万が一デリック・ザダリアが出てきて、卑怯な手を使ってきたりしたら?

 そのせいで怪我人が出たりしたら、補欠は必要だよね?

 どうしよう……イーサンが帰ってきたら相談してみようか。

 イーサン抜きで、私とマリナだけでは全然役に立たない気もするけど。


「私たちが出ることで、何かメリットってあるんですか?」

「そりゃああるさ。たとえば、一戦目二戦目で歯が立たない、となった場合。3戦目にアリスちゃんに出てもらって、あの驚異的な火魔法をぶっぱなしてくれたら挽回できるかもしれないだろ?」

「マリナちゃんのブリザードだっけ? あれだって、審査員の目を引くと思うけどなあ。レアだから加点されるかもよ?」


 三年生のチームの人たちは、なぜだか私たちに好意的だ。

 なんでだろう。

 補欠が出るということは、自分たちの誰かが出られなくなるのに。

 私が困惑しているのを察して、先輩のひとりが言った。


「あ、俺はさ。メンバーに選ばれたっていうだけで、すでにメリットあるから。だから、途中でアリスちゃんたちに交代してでも勝てるなら、そっちの方がいいと思ってるわけ」

「そうですか……あの、補欠って何人まで登録できるんですか?」

「すでに出場者の提出は終わってるけど、魔導具部門で登録されている人なら何人でもできるよ」


 できれば戦いたくないけれど。

 万が一に備えて、登録するぐらいはしておこうかという気持ちになってきた。


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