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お茶会レッスン

 新作のバナナアイスとブルーベリーヨーグルトアイスを持って、キャロラインの部屋へ遊びに来た。

 いつものように、華やかな私服に着替えた貴族子女が、楽しげにおしゃべりを始めていると思っていたら。

 ……なんかいつもと様子が違うような?

 制服のまま、腕まくりをしている人もいるけど、何してたんだろ?


「アリス、皆様お待ちかねですわよ?」

「ええっと……お待たせしてすみませんでした。さっそくデザートを……」

「それは、後でよろしいわ。今日はアリスとマリナに治癒魔法を教えるために、皆様集まってくれたのよ」

「そうなんですか!? それはありがとうございます! よろしくお願いします」


 マリナと顔を見合わせて、深々と頭をさげた。

 そんなことになっているなんて。

 腕まくりをしていた子爵令嬢が、机の上に鉢植えの草花を並べてくれている。

 わざわざ枯れかけている草花を選んで、持ってきてくれたようだ。


「いきなり怪我人の治療をするのは危ないので、まずは植物で練習するのよ。植物には、水を運んでいる脈のようなものがありますでしょう?その中を通っている、水分に魔力を流し込むイメージですわ」

「魔力を流すと、枯れかけた草花が元気になるんですか?」

「見ててくださいね」


 キャロラインが見本を見せてくれた。

 しおれていた葉が少しずつ色鮮やかになり、ピンと張りを取り戻していく。


「これって……お母さんがよくやっていた、野菜を元気にする魔法と同じかも?」

「お母様は、水魔法使いですの?」

「いえ、水は苦手って言ってました。土魔法が得意で」

「ああ…でも基本は同じかもしれないですわ。土魔法の人は土の中の根っこに養分を流すようなイメージでしょう?」


 うん。確かにそうかもしれない。

 あまり意識せずやってたけど、私の作物を巨大化させるスキルは、地面に魔力を流しているから。

 試しに、茎や葉っぱに養分を流すイメージにしてみたら、なんと茶色くなってしまった!

 失敗。

 マリナも隣で、草花を凍らせてしまっている。

 皆ががっかりした顔をするので、なんだか申し訳ない。


「治癒魔法は、人間の身体にかける魔法なので、もともとあった健康な組織を変化させてしまわないことが重要なんですわ。効能は二の次。まずは、水分を変化させずに魔力をのせる練習をするといいですわよ? それには繊細な魔力操作が必要ですの」


 なるほど。私のやり方だと、健康な葉っぱにまで余計な負担をかけてしまうのか。

 これまでほとんど緻密な魔力操作など練習したことなかったから、大反省。

 治癒魔法を習得できたら、作物にかけている魔法も、もっと質が良くなるかもしれないよね。

 やたら作物を巨大化させてしまうのも、そのへんに原因があったのかもなあ。


 それにしても、治癒魔法はやっぱり、簡単に習得できるものではないとわかった。

 錬金の片手間に治癒魔法も、なんて欲を出すのは良くないかもしれない。


「私たちは、授業でお互いに治癒魔法をかける練習をするのよ。アリスもマリナも一度経験してみるといいわ」


 キャロラインは私の手を取ると、ふわっと治癒魔法をかけてくれた。

 なんだか、腕がほのかに温かくなって、それから軽くなった感じ。

 劇的な効き目ではないけれど、肩こりがマシになったみたい。

 マリナも子爵令嬢に治癒魔法をかけてもらって、ニコニコしている。


「最初は今ぐらいの感じで、できるだけ魔力を少なく流すように練習するといいわね」

「でも、キャロライン様。ただ魔力を流すだけで、なんで治癒効果があるんですか?」

「アリスは普段作物に栄養を与える魔法を使うんでしょう? でも、治癒魔法はそれとは反対に、悪いものを身体の外に出す方が重要なの。魔力を流すことで、押し流す感じかしら?」

「あ、怪我の治癒はまず清潔にすることが基本ですもんね! 魔法も同じということかなあ」

「そうですわ! 悪い菌を外に出すイメージですわよ!」


 何度か練習しているうちに、魔力を流しても葉っぱが茶色くなったりすることはなくなった。

 微妙に元気になっているような、なっていないような?というレベルだけど。

 キャロラインが言うには、栄養は食べ物やポーションで補うことができるので、治癒魔法で栄養を与えることはしないんだそうだ。

 よほど瀕死の状態で、食べ物をとれない状態のときには、上級の魔術師が魔法で栄養を与えることもあるらしいけれど。

 それはすごく調整が難しいんだって。


 色々教えてもらえて本当に勉強になった。

 クラスメートに感謝。

 私は魔力量が多すぎるので、こういう繊細な魔法が下手くそなのかもなあ。もしかすると。



「さあ、それではそろそろお茶会を始めましょうか」


 キャロラインの鶴の一声で、一緒に練習してくれていた令嬢たちがホッとした笑顔になった。

 疲れたときには、甘い物だよね!

 キャロラインの侍女が、すでにテーブルの上にお茶の用意を並べてくれている。

 さすが伯爵家の侍女だけあって、いつも手際がいいんだよなあ。

 侍女とはいっても、下級貴族の娘さんだろうから、私よりは身分が上だよね。

 失礼のないように、気をつけなければ。


「今日は新作のバナナアイスを作ってきました。お好みで、こちらのチョコレートソースをかけてくださいね」

「まあ、あっさりとした甘みで美味しいわ!」


 春休みにキャロラインにはベリーの入ったアイスをプレゼントしたんだけど、親戚に好評だったようだ。

 従兄弟たちに「学園でいつも食べている」と言ったら、うらやましがられているらしい。

 そんなに気に入ってくれたなら、いつでもお届けしてあげたいけど、こればっかりは保存できないのがネックなんだよね。

 なので、騎士団と同じように、私とマリナが移動スイーツカフェをやる方が現実的だと思う。


「魔導具の研究の方は、どんな感じですの? お話聞かせていただきたいわ。ね、キャロライン様?」

「そうよ、アリスとマリナはカイウス学園の代表なのですから、私たちにもできることがあれば協力しますわ!」


 お茶会に参加している令嬢たちが、みんな真剣な表情でうんうん、とうなずいている。

 そんな風に応援してもらっていたなんて、感激。



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