中級ポーション
辺境伯様が戻ってきた後、カーマイン様は私のスキルについて簡単に説明をしてくれた。
辺境伯様は最初驚いた顔をしていたけれど、カーマイン様が海辺まで行ってきた話をしたので、信用してくれたようだ。
「私はこのスキルがあるので、なんとかしてお母さんを連れ戻したいんですけど……」
「ふむ……いくら転移できるスキルがあるといってもなあ……そのスキルを人前で使うのは危ない。当分は禁止だ」
「僕もそう思う。人に知られない方がいいよ」
辺境伯様とカーマイン様に、転移しているところを絶対に人に見られないようにと、釘をさされてしまった。
狙われる確率が高くなるだけだから、といって。
自分の部屋から、この執務室へ転移してくるのは許可してくれた。
実家や、マリナの実家へ行くのも、家族に口止めをしておけばOKだって。
信用できる人以外には口外しないと約束した。
「とりあえず、ロレッタ殿の居場所がわかれば、すぐに知らせるから。それまでは学園で大人しくしているように。何かあればセドックを通じて連絡をくれたらいいからな」
「わかりました。お母さんのことは辺境伯様におまかせしますので、よろしくお願いします。私は魔導具制作に集中することにします」
「ああ……まあ、優勝してくれるとうれしいが、あまり無理はしなくていい。危険なことには首を突っ込むなよ」
「はい! 大丈夫です!」
辺境伯様は、領民や騎士団のことを大事に思っているから、結界装置を手に入れたいだろう。
その気持ちはよくわかるし、平民の私たちのことも考えてくれている辺境伯様だから。
できることなら期待に応えたいと思う。
◇
学園に戻って一週間が過ぎる頃、魔術大会への出場メンバーが発表された。
戦闘部門は三年生のチーム。魔導具部門は予定どおり私たちのチームだ。
メンバーは私、マリナ、イーサン、ケイシー、ローレンの五人。
錬金をとっているのがこの五人だけなので、発表があったときに、皆納得している様子だった。
チームは8人までという規則だから、あと三人余裕があるんだけど、立候補してくる人もいないみたい。
ケイシーとローレンは小型冷蔵庫の方を担当してくれていて、私とマリナはそれ以外にも別のものを作ろうと考えている。
冷蔵庫は大会に間に合わない可能性があるので、もう少し簡単にできるものをいくつか用意しておくことにした。
出品する数に規制はないようなので、多い方がいいと思って。
今日は中級ポーションの実習があるというので、私とマリナは水魔法の授業に出ている。
クラスで水魔法を使える女子はほとんど治癒班に入っていて、ポーションの授業に出席している。
私やマリナがクラスの女子と交流できる、数少ない授業のひとつだ。
キャロラインが女子を仕切って、実習の班のメンバーを決めてくれている。
「アリス、マリナ、ずいぶん顔を見なかった気がしますけど、最近はどうされていますの? 皆、心配していましたのよ」
「キャロライン様、ご心配かけてすみません。ちょっと実家がゴタゴタしていたもので」
「またスイーツをお願いしたいのだけれど、今は忙しいのでしょうね?」
「そうですね。魔術大会が終わるまでは大量の受注はちょっと無理ですけど、女子のお茶会で食べる分ぐらいなら大丈夫ですよ!」
「そう! うれしいわ。魔術大会の方のお話も聞きたいと思っておりましたのよ。よかったら放課後にわたくしの部屋に集まりませんこと?」
キャロラインの声かけで、さっそくお茶会が決まった。
しばらく辺境伯家と学園を行ったり来たりしていて忙しかったから、たまには羽を伸ばすのもいいかもね。
放課後いったん寮に戻って、アイスクリームを作ってから遊びに行くことにした。
さて、中級ポーションの作成はしっかり練習しておかないと。
なんていっても薬草農園の娘だからね。
高品質のポーションを作れるようになっておくのは必須だ。
中級ポーションの作り方は、下級ポーションとほとんど同じだけど材料が増える。
その配合を間違えたり、薬草の品質が悪かったりすると、質が悪くなってしまうらしい。
ロレッタ農園の薬草は、お母さんが土の品質にも気を配って育てているから、品質の良さは辺境伯様のお墨付きだ。
授業で使っている素材は、練習用のものであまり品質は良くない。
きっとうちの薬草で作ったら、良いポーションができるだろうな。
そんなことを考えながら、乾燥した薬草を粉にして、分量を量って鍋で煮詰める。
できあがった煮汁をこして、最後は魔力を流す作業だ。
ところが、周囲の女子は皆きれいなポーションができあがるのに、私とマリナだけうまくいかない。
初級のときと何かが違うのかな?
何度やっても、少し濁ったような色になってしまう。
このポーションの色は透明度が高いほど品質が良いとされているので、これでは困る。
「ああ……ひょっとしたら、アリスとマリナは治癒魔法が使えないからじゃないかしら?」
「治癒魔法ですか?」
「そうよ。わたくしたちは治癒魔法の実技で、怪我や病気を治療するスキルの練習をしていますのよ? だから質の良いポーションができるのではないかしら」
なるほど。キャロラインが作ったポーションは、透明度が高く、キラキラしていていかにも質がよさそうだ。
私とマリナは普段錬金でしか魔力を流したりしないので、魔力の質が違うのかもしれない。
「ねえマリナ、治癒魔法の授業をとらなかったのって、失敗だったかな?」
「そうだねえ……私はいいけど、アリスは将来薬草農園の仕事するんだったら、ちょっと困るよね」
「うーん。後期になってから治癒魔法の授業を増やそうか。だけど何か減らさないと時間が足りないしなあ……攻撃班の授業にも出ないとだし」
「あの……わたくしで良かったら、お教えしますわよ?」
「キャロライン様が教えてくださるんですか?」
「ええ。いつも美味しいスイーツを分けていただいているお礼ですわ。得意な科目ですから、基礎ぐらいならお教えできますわよ」
「ぜひ!お願いします!」
マリナとふたりで、勢いよく頭を下げた。
後期の授業まで待っていたら、中級ポーションを作る練習も遅れてしまうもんね。




