そうだ、薬草を育てよう
その後、畑いっぱいの巨大カボチャはどうしたかというと。
全部、私の収納の中に入れて、保存してある。
上級の魔術師しか使えないという、収納の時間停止機能、私にも使えるとわかったから。
試しにおやつのホカホカの焼き芋を収納したら、それは数週間たってもいまだにホカホカである。
このことは家族だけの秘密だ。
やっぱり、隠しておきたいものを入れておくのには、絶好のスキルだね。
一度、どれぐらいの量を収納できるのか試してみたかったので、巨大カボチャをせっせと収納してみたら、全部入ってしまった。
もしかしたら本当に世界一かもね。まだまだ余裕ありそうだし。
時々、1個ずつ出して、お母さんが煮物にして近所に配ったりしている。
我が家で消費するカボチャはもう1年分ぐらいは確保できている感じだ。
変わったことと言えば、お父さんが市場や隣村に野菜を運ぶときに、私がついていくようになったこと。
収納スキル持ちだということはバレてしまっているので、変に隠すよりも、堂々としていたほうがいいというお父さんの考えだ。
その代わり、人前で野菜を収納から出すのは、2箱まで。
大量に運ぶときには、今まで通り、他の村人と一緒に荷馬車で運んでいる。
それで、私のスキルのことはあまり話題にもならなかった。
めずらしいスキルで便利だね、ぐらいの認識だと思う。
水魔法は、畑の水やりに役立った。
シャワーのように、広範囲に水を降らせる練習をしたので、水やりが格段に楽になった。
人に見られないように、早朝や夜に水やりをする。
そもそも、私の家は村のはずれにあるので、用事がない限り人は訪ねてこない。
台所やお風呂で使う水は、貯水タンクに井戸から汲んで貯めておくんだけど、それも私がいつもいっぱいにできるようになって、お母さんは喜んだ。
毎日遠慮なくお風呂に入れると言って。
幸せだ。ちょっと魔法を使うだけで、家族が喜んでくれる。
ただ、土魔法で作物を育てるのは、なかなかうまくいかなかった。
せっかく使えるのに、作物が巨大化してしまう。
なので、自分たちが食べる分だけ、こっそりと大きくした。
食費がずいぶん節約できるのだ。
私の収納の中には、巨大化させた作物が大量に保存されているので、もし食料飢饉が訪れたとしても、数年は食べていけるんじゃないだろうか。
素晴らしい。神様ありがとう。
そんな平和な生活が数年続いていたのだけれど、ある時転機が訪れた。
辺境伯領で隣国との戦争が起きたからだ。
戦争物資の輸送のため、国中の収納スキル持ちが集められたらしい。
ただし、私は無事。
なぜなら、私は王都の学園に通っていないので、存在すら知られていないようだ。
それに、たかが野菜を二箱運べるだけの子どもだしね。
でも、お父さんが言っていたことは本当だったんだなあ、と実感する。
小さいうちに、能力を隠す方針を決めておいてよかった。
今のところ、貴族に目をつけられたりもしていないはず。
そうこうしているうちに、大量の傷薬や包帯などが必要になり、国から薬草や綿花の栽培を命令された。
農家は必ずどちらかを栽培しなければいけなくて、栽培したものは国が買い上げる。
この村も例外ではなかった。
この時に、初めて私の膨大な魔力が役に立つと気付いた。
作物を巨大化させてしまうと、目立ってしまうという理由で成長魔法を控えていたが、綿花と薬草なら別だ。
綿花や薬草は乾燥させて砕いて出荷する。
それなら巨大化していてもバレないもんね。
もっと早く気づいていればよかった。
野菜の栽培を半分に減らしたら、こんな辺鄙な村はたちまち食糧難になってしまう。
お父さんは村長さんと相談して、綿花と薬草の出荷を引き受けた。
お母さんと私が土魔法を持っているから、と言って。
うちの近所に空いている痩せた土地もある。
野菜と違って、少々痩せた土地でも薬草は育つ。雑草と変わらない。
そこで、綿花や薬草を巨大化させて、砕いて出荷する。
名も無い村なので、命令された量ぐらいは、うちが出荷する分で十分賄えた。
村長さんも喜んだし、村人からも感謝された。
最初のうちは。
だけど、やっぱり少しでも目立つと、それを羨む人が出てくるということを、後になって知った。
◇
戦争が終わっても、辺境伯領には多大な被害が残ったらしい。
国からの薬草や綿花の栽培命令は終わったが、うちから出荷した薬草の品質が良かったので、辺境伯領からわざわざ使者がやってきたのだ。
高値で買い上げるから、直接辺境伯領へ売ってほしいと。
村の人を助けるつもりで薬草と綿花の栽培を一手に引き受けていたことが、裏目に出た。
辺境伯領との直接取り引きを結んだ父のことを、村人は一斉に批難したのだ。
最初から、自分だけ甘い汁を吸うつもりだったんだろうと言って。
それならば、他の人も薬草や綿花を栽培して、辺境伯領に買い上げてもらうように交渉しようと説得してみたがダメだった。
そんなことをすれば、たちまち食糧難になってしまうと、村長が反対したからだ。
そもそも、この村はほぼ全員が農家で、作物を作っているからこそ自給自足できていた。
よそへ出荷する薬草を育てる余裕なんてない村なんである。
村中から敵視されて、家に石を投げられた日、父と母は苦渋の決断をした。
「村を出よう。辺境伯領に移住しようと思う」
私は10歳。学校にも通っていないので、国の法律とか詳しいことはわからないけれど。
平民は貴族と違って移住するのは、自由らしい。
辺境伯領側の許可さえあれば、移住できる。
この狭い村では、村人から敵視されては生きていけない。
家族で移住して出直そうということになった。
母は泣いていたけれど、それでも反対はしなかった。
きっと、私のためだったのかもしれない。
こんなことに使うなんて想像もしてなかったけど、家中の荷物を私の収納に入れた。
そして、夜明け前に家族でひっそり村を出た。