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脅迫状が届いた

 また数日後、私は辺境伯様に呼び出された。

 学園に迎えが来て強制連行。というか、私が狙われている可能性があるので、護衛をつけてくれているようだ。

 本当は瞬間移動で飛んでいけばいいんだけど、そのことはまだ内緒だ。

 辺境伯家の中へ自由に転移できるなんて知られたら、何かあったときにまっさきに疑われてしまう。

 諜報員になれ、なんて言われるかも。


 辺境伯様の執務室につくと、カーマイン様もいた。

 何かあったの……?


「ああ、来たか。実は、ロレッタ殿の身代金の要求がきたそうだ」

「身代金……? ロートレック家からですか?」

「いや、違う。表向きは人さらいを装っているようだ。だが、背後にいるのはロートレック家で間違いないだろう。アルバートから早馬でこれが届けられた。脅迫状だ」


 脅迫状……

 『ロレッタを返してほしければ、五百万ダレルを娘アリスティアに持ってこさせろ。そうすればロレッタの命だけは助けてやる』と書かれている。

 差出人の名前はない。


「あの……五百万ダレルって、お母さんの身代金にしては安くないですか?」


 素朴な疑問。

 百万ダレルという金額は、日本円の百万円とほぼ変わらない感じで、私でも稼げる額だ。

 五百万ぐらいで良いのなら、いつでも持っていくけど……


「まあ、金を要求してきたのは、人さらいを装うためだろう。本当の目的はアリスを確保することだ」


 あーそういうことか。

 でも、私は別にさらわれても大丈夫なんだよなあ。

 生きてさえいればいつでも帰ってこれるし。


 あえてむこうの誘いにのって、ロートレック家の中に侵入するという作戦もあるけど、それを辺境伯様にどう説明したものか。

 でも、瞬間移動できるようになったことは、辺境伯様には知っておいてもらってもいいんじゃないか。

 平民の私たちのことをこんなに気にかけてくれているんだし、この先恩返しもしたいと思っているし。

 ここまできたら、一蓮托生かもしれない。


「辺境伯様、私、五百万ダレルぐらいなら持っています。以前辺境伯様からいただいた報酬もまだ残ってますし」

「金の問題ではない。まだ子どものお前に身代金を持っていかせることなど、できるわけがないだろう」

「それなんですけど……実は、私に考えがあります」

「言ってみろ」

「考えというか、見てもらった方が早いんですけど。私の新しいスキルなんです」


 周囲を見回すと、広い部屋の隅に古い靴が置いてあるのが目に入った。


「ちょっとこれ、お借りしますね」


 目の前でその靴を収納する。

 私の新しいスキルということで、室内にいる人は皆シーンとこっちを見ている。


「いいですか? 見ていてくださいね?」


 私は自分の収納の中へ転移して、それから収納の中でさっきの靴を探し、それを持って部屋の隅へ転移した。


「はあああっ!?」


 辺境伯様とカーマイン様が同時に大声をあげた。


「なんだ、それは。今転移したか?」

「そうなんです。辺境伯様。私、収納したもののあった場所へ一緒に転移できるようになったんです」

「アリスちゃん、それ、どういうこと? 詳しく説明してくれるよね?」

「説明しますけど、このことは秘密にしておいてもらえませんか? もしかしたら法に触れているかもしれないので」

「もちろんだ。説明してみろ」


 辺境伯様の許可が出たので、私は主にカーマイン様に説明をすることにした。

 たぶん、空間魔法と時間魔法の応用だからだ。

 まず、先日マリナとふたりでさらわれそうになったときに、うっかり収納の中に転移してしまった話をする。


「確認だけど、アリスちゃんは収納の中に転移しても、大丈夫だったんだね?」

「大丈夫です。何度も検証したんですけど、収納の中は完全に時間が止まっていて、一、二秒後に戻ってこれます」

「つまり、さっきの転移は、いったん収納の中へ入って、靴を探して一緒に戻ってきたということだね?」

「そうです。だから、一度でも行ったことがある場所で、何かを収納した場合だけ、そこへ転移できるんです」

「なるほど」

「だから、私はもしロートレック家にさらわれたとしても、隙を見て自力で逃げてこれます。もしかしたらお母さんを連れて帰ってこれるかもしれないです!」

「ロレッタ殿を連れてこれる、ということは、自分だけでなく誰かが一緒でも転移できるの?」

「できます。マリナと一緒に何度か試したので」

「なんてことだ……そんなスキルは上級魔術院でも聞いたことがないぞ!」

「それは確かに口外するのはまずいだろう。誰かに知られたらそれこそ狙われるに決まっている」


 辺境伯様もカーマイン様も少し青ざめた顔をしている。

 話したのはまずかったかな?


「でも、狙われたとしても、生きていれば私は帰ってこれます。これでわかっていただけたでしょう? なので、脅迫状の言う通り、私が行くのが一番だと思いませんか?」

「しかし、やはり一人で行かせるわけにはいかん。今、王都のロートレック家には監視をつけているから、そこにロレッタ殿がいるのかどうか確認を急ごう。それと、もしアリスがロートレック家に連れて行かれるようなことがあれば、周囲に密偵を配置する。かならず助け出すから心配するな」


 そうだ。いくら瞬間転移を使えるからといっても、油断は禁物だよね。

 薬物で眠らされたりする可能性だってあるんだし。

 周囲に味方がいると思ったら心強いよね。


「じゃあ、アリスちゃん。悪いけど、もうちょっと詳しい話を聞かせてくれるかなあ? 聞きたいことがたくさんあるんだけど?」


 カーマイン様がニヤリと笑みを浮かべて、ウィンクを送ってきた。

 このさいだから、カーマイン様に色々相談しておこう。

 せっかく会えたんだし、めったに会えない人だしね。


 「やることができたのでちょっと席をはずすが、すぐに戻ってくる」


 バタバタと辺境伯様は部屋から出ていった。

 誰かに指示を出したりしているのかな。



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