瞬間移動のスキル
寮に帰ってから、気になっていたことの検証をすることにした。
それは、収納の中で動かしたものの座標はどうなってしまうのか、ということだ。
たとえば、ここにある箱。今は机の上のA地点にある。
そして、それを収納内のB地点に格納するとする。
その後、私が収納の中へ入って、B地点にあるものをC地点に移動させたとする。
C地点とA地点とは繋がりがないから、箱はA地点に戻れなくなるはずだ。
だけど、この間、マリナが収納内で動かしていた箱は、後から取り出すことができた。
赤ペンでしるしをつけてあったから、間違いない。
ということは、収納内でB地点からC地点へ移動させたものの座標は、その時点で上書きされるのかな?
上書きされても、A地点との繋がりは消失しないということか。
もしそうなら、都合が良いんだけど。
何度か机の上の箱を収納しては、収納内に入って動かし、また取り出してみる。
取り出すことにはなんの問題もないようだ。
収納に一度格納したものは、必ず取り出せるということだよなあ。不思議。
それともうひとつ。
私が勝手に名付けた、「グループ化」という概念だ。
たとえば、箱の中にカボチャを入れて収納すると、取り出すときにも箱に入って出てくる。
カボチャだけが単独で出てくることはないので、カボチャと箱はグループ化されていると考えられるよね。
このグループ化を収納内で解除して、別のものとグループ化することはできる。
それは私自身が証明した。
だから、実家で収納したカボチャの入った箱から、カボチャを取り出して、そこへ別のものを入れてグループ化し直すことは可能だ。
ただ、このグループ化できる条件というのがよくわかんないなあ。
箱に中身を入れてグループ化できるのはわかるんだけど。
たとえばこの椅子と机をグループ化してしまえるのかというと、それにはちょっとコツがいるのだ。
なんというか、『テーブルと椅子』じゃなくて、『ダイニングセット』として認識する感じ。
荷馬車に載っている荷物を全部収納するとしたら、『荷馬車の中身全部』というグループね。
今までなんとなく『机と椅子を収納!』ということをやると、何度かに一度は失敗して、どちらかが残ってしまった。
でも、あんまり気にすることなく残った方をもう一度収納し直していたんだよね。
グループ化の条件のひとつとして、グループ化するもの同士が接触している、というのがあると思う。
あのとき、マリナとポシェットと私は接触した状態で、転移したから。
今もいろいろ検証してみてるんだけど、お皿にのせたパンは一緒に収納できる。
だけど、少し離れたところに置いてみて、『パンと皿』を収納しようとしても、グループ化はうまくいかない。
このグループ化については、まだ私が気付いていないルールみたいなものがありそうだ。
だって、『荷馬車の中身全部』がグループ化できるんだったら、接触していないものだってグループ化できるはずだ。
例えば……私とマリナを『親友』というグループ化ができたら、手をつないでいなくても一緒に転移できるんだろうか。
それが可能だったら、私とお母さんは『親子』というグループ化ができるはずだ。
これはちょっと、マリナに練習つきあってもらおう。
マリナは私と一緒に行動していることが多いから、一緒に転移できた方がなにかと便利だし。
悪党に襲われたとしても、私とマリナだけは逃げられるよね。
それと、私はまだ自分自身を単独で収納する、というのはできない。
怖いという潜在意識があるのか、「自分を収納!」っていう魔法の発動には抵抗があるんだよね。
なので、マリナのポシェットの要領で、手に持っているものをしっかりつかんだまま、そのつかんだものを収納することにしている。
そうすると私自身も引きずられるように、収納の中へ移動できるのだ。
ただし、手に何かを持っていないと収納の中へ転移できないという弱点がある。
私もマリナみたいにポシェットを常に身につけておくようにしようかな。
それにしても、これ、本当はやっちゃいけないことなんだろうなあ。
人間とか生き物は絶対に収納してはいけないって、これまでいろんな人に言われたもんね。
でも、自分自身だったら、まだ罪は軽いだろうか。
マリナは時々一緒に転移してるけど、それはバレたらヤバそうだな……
もしバレた場合は「人間を収納している」のではなく、瞬間転移のスキルだということにして、詳細は明かさないのがよさそうだ。
今度、カーマイン様に会ったときに、なんで人や生き物を収納してはいけないのか、もうちょっと具体的な理由を聞いてみよう。
もしかして、重大な副作用みたいなのがあったら怖いしね。
私は偶然に収納スキルを利用した瞬間転移ができるようになったけど、この転移は一度行ったことのある場所にしか行けない。
今後どこかへ行ったときには、そこにあるものを収納して持って帰ってくるようにした方がいいな。
たとえば、学園の門のところに落ちている石を収納したとしたら、その石があった場所へ転移できるんだし。
一度は王都のロートレック家に行かないといけない。
そうしないとお母さんを助けだせないよね。
助けだせるチャンスがあるとしたら、国際魔術大会の時だ。
魔術大会は王都にある上級魔術院のスタジアムが会場になるらしいから。
ロートレック家の中に入ることができて、お母さんと手をつなぐことさえできたら、連れて帰ってこれる。
だから、お母さん、待っててね。
絶対迎えに行くから!




