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お母さんが!?

 畑の方へ家族を探しに行こうとして、玄関を出たところで、お父さんとカイルが戻ってきた。

 私とマリナの顔を見てびっくりしている。


「……アリスか。どこから帰ってきたんだ? お父さんたちは今、馬車乗り場の方から来たんだぞ?」

「あーそれは後でゆっくり説明するけど。お父さんたちこそどこ行ってたの? お母さんは?」

「それがな……お母さんが行方不明なんだ。それで、捜索願いを出しに行ってたんだよ」

「お母さんが行方不明!? なんでそんな……」

「とにかく、家に入って話そう」


 お母さんは今日のお昼頃、急に姿を消したんだそうだ。

 お父さんはその時畑に行っていて、怪しい黒服の男たちがやってきたのをカイルが見ていたらしい。

 お母さんは、カイルに自分の部屋に隠れているように言って、その男たちと何か話していたようなんだけど。

 その後、馬車が走り去る音をカイルが聞いていたと言う。


「黒服……お母さんはさらわれたんだと思う?」

「まったくわからん。俺が家をあけたのはほんの二、三十分のことなんだが、その間にロレッタは消えてしまった」

「アリス姉ちゃん、俺たち捜索願いを出しに行ってたんだ。辺境伯様に早馬で知らせたんだよ」

「そう。それならきっと辺境伯様が見つけてくれるわ。辺境伯様はお母さんのこと大事に思ってくれているから」


 お父さんは憔悴したような様子で、頭を抱えている。


「マリナ、とりあえず辺境伯様のところに行ってみようか?」

「そうだよね。私たちを襲った黒服たち、学園の警備員に捕まってるんじゃない? そしたら騎士団に連れていかれているはずだよね」

「ちょっとまて、お前たちのほうにも黒服が行ったのか? 襲われたってどういうことだ!?」

「今朝ね。マリナとふたりで外出してたら、後をつけてきた男たちがいたの。で、学園の近くで襲ってきて……」

「なんてことだ。ロレッタだけじゃなく、アリスまで狙われたとは……」

「お父さん、お母さんを連れていった犯人と、私たちをつけてきた男たちは、多分同じ仲間だと思う。私、辺境伯様のところに行ってくる!」

「それならお父さんも一緒に行こう」

「ううん、お父さんはここにいた方がいいと思う。お母さんが逃げて帰ってくる可能性があるでしょう?」

「……なるほど。そうか。それもそうだな」

「じゃあ、マリナ、行こう。急いだ方がよさそうだし」

「ちょっと待て。今日はもう辺境伯家方面の馬車は出てしまったぞ?」

「うん、大丈夫。行く方法があるんだ」


 お父さんに、瞬間転移ができるようになったことを、簡単に説明した。

 驚いていたけれど、信じてくれた。

 だって、襲われた場所から、ここまで飛んできたんだもの。


「じゃあ、頼んだぞ。何かあったらすぐに知らせてくれ」

「うん、いつでもここへ転移してこれるから。辺境伯家で聞いた情報はすぐに知らせに来るね!」


 私とマリナは乗ってきたカボチャの箱に戻って、収納の中へ入り、そこから辺境伯家行きの箱に乗り換えた。

 別に箱に入る必要はないかもしれないけど、一応、グループ化のイメージのためにね。

 だんだんと転移のコツもつかめてきた感じで、無事に辺境伯家の食料倉庫に出ることができた。



「あら、あんたたち。今日は配達の日だったかしら?」

「いえ、違うんですけど、辺境伯様に急用なんです! 取り次いでもらえませんか?」

「ちょっと待ってなさい。聞いてきてあげるわ」


 顔なじみの調理場の人が、辺境伯様に取り次いでくれた。

 ちょうど辺境伯様も用事があったとのことで、すぐに執務室へ来るようにと言われた。


「おまえたち、どこへ行ってたんだ? 学園で行方不明になったと探し回っているらしいぞ」

「あーそれが……今朝、黒服の男たちに襲われて、逃げ回っていたんです」

「そいつらなら、うちの牢屋にぶちこんである。五人いたらしいが、三人逃げて二人は確保した。今取調中だが……」


 辺境伯様は、ちょっと話しづらそうな険しい顔になった。

 犯人の身元はわかったんだろうか?


「どうやら、犯人を雇ったのはロートレック家のようなんだ」

「ロートレック家って、もしかしてお母さんの実家ですか?」

「そうだ。奴らは国際魔術大会にエントリーしている生徒の名簿で、アリスを見つけたようなんだ」

「実は、お母さんが今日のお昼から行方不明なんです」

「それも先ほど伝令が来て聞いたところだ。おそらくロレッタ殿は実家に連れ戻されているだろう」

「なんでそんなことを?」

「アリス。お前の名前は、魔術学会などで案外有名なんだ。国王もお前の発明を見たいからと、カイウス学園を大会に参加させようとしたぐらいだ」

「それが今回のことと、何か関係があるんですか?」


 辺境伯様の話によると、現ロートレック伯爵には嫡男がいて、私よりひとつ年上なんだそうだ。

 アレンという名前で、王立学園の魔術科に通っている。

 ロートレック家は優秀な魔術師を生み出す家系として有名で、アレンも期待されているらしい。

 今回の大会には、アレンもエントリーしているようだ。

 ロートレック家としては、アレンが所属している王立学園を勝たせたい。

 しかも、私がカイウス学園から出場することを知り、邪魔しようと画策したんだと。


「それじゃあ、私をさらって、出場できなくするつもりだったということですか?」

「いや、違う。さっき捕まえた奴らを尋問したんだが、適当に戦闘をしかけてワンドを出させるのが目的だったそうだ。奪えるものなら奪ってこいと言われていたらしい。無理なら効力を確かめるだけでもいいと言われたそうだ」

「そうですか……私たちが魔導具部門で出場するという話がもう伝わっているということですね」

「それなんだが、学園内に密偵が紛れ込んでいる可能性があるな。伝わるのが早すぎる」

「お母さんを連れ去ったのが実家ということは、お母さんは無事だと思いますか?」

「それは大丈夫だろう。こっちには捕らえた犯人がいるし、ロレッタ殿はカイウス領の人間だ。勝手に手を出されたら、こっちだって黙ってはいない。ただ、このままロートレック家が諦めるとは思えん。またアリスを狙ってくる可能性があるかもしれないぞ」

 

 なるほどねえ……

 お母さんを実家に連れ戻したんだとしたら、私はその娘なわけだから、連れ去られたとしても文句は言えないってことか。

 一応ロートレック伯爵からしたら、私は実の姪ということだもんね。

 それで大会に出られないように監禁するとか?


「さすがに、お前を連れ去ったまま監禁すれば、俺が連れ戻しに行く。我がカイウス学園の代表だからな。それよりも、ロートレック家の目的は、ワンドの方だと考えた方がいいだろう。魔導具部門でカイウス学園に優勝されては困る、ということかもしれん」

「目的がワンドだとしたら、マリナやイーサンが狙われる可能性もありますよね? それに学園には予備のワンドもありますし」

「予備の方はここへ持ってこさせるように手配してある。辺境伯家で預かるのが一番安全だろう」

「わかりました。よろしくお願いします」


 命の危険さえないのなら、私とマリナはさらわれたとしても逃げ帰ってくることができる。

 むしろ、さらわれちゃった方がお母さんを連れ戻せるかもしれない。

 なんとかしてロートレック家に入り込めたらいいんだけどな。



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