表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/89

収納スキルがチートすぎる

 収納の中は少しひんやりとするけれど、暑くもなく寒すぎることもない温度だ。

 よかった。時間は止まっているんだから、ゆっくり考えよう。


「ねえ、アリス。とりあえず、なんか食べない?」


 マリナがのんきな声でそう言って、周囲を物色している。

 この収納の中って、食べ物ばっかりだしね。


「あっ! 学食のサンドイッチあるよ! これ食べよっ」

「飲み物は牛乳にしよっか」


 こういうときに案外マリナは度胸が据わっていて、救われる。

 私は収納の中で私がものを食べたら、その座標はどうなってしまうかが気になって、そのことで頭がいっぱいだ。

 

 以前カーマイン様に質問したときに、『現時点で収納の中で物質の移動は不可能』だと言っていた。

 でも、その不可能なことが、今目の前で起きている。

 マリナがせっせと邪魔な箱をどけたりしているからだ。

 収納の中での座標が変わってしまった物質は取り出せるんだろうか。

 もしかして、移動させても記憶している座標は変わらないという可能性もある?


「ねえ、マリナ。箱を移動させるときには、この赤ペンで箱にしるしをつけてくれる?」

「うん、わかった。なんの目印?」

「収納の中で動かしたものを、ちゃんと取り出せるのかどうか、後で検証したいから」

「あ、そういうことね。わかった」


 外に出られたらね……ということなんだけど、考えなしに出てしまって、黒服の前に飛び出したら最悪だ。

 時間はあるんだし、慎重に考えよう。

 

 とりあえず、サンドイッチを食べてから、収納の中を探索する。

 ランプを置いた位置が出発点だ。 明かりがあるから、迷子になることはない。


「あ、ここにもランプある! いっぱいあるよ!」


 マリナが予備のランプを見つけてくれた。

 辺境伯様と高山へ行ったときのものだ。

 あの時は夜にルナリア草を探すために、ランプいっぱい持っていったもんね。 


 いっぱいランプをつけたので、ずいぶん明るくなった。

 時間が止まっていても、魔石の魔力は減るのか気になる。

 とにかく、こうしていても仕方がないので、ここから出る方法を考えよう。


「あんまり深く考えずに、いつもみたいに収納の中のものをぱっと出す感じじゃダメなの?」

「うーん。私は収納の中の物を元々あった場所に戻すか、目の前に出すか、どっちかしかできないの。つまり、目の前に出すという手段は、今は使えないよね? だって収納の中にいるんだから」

「うん、それはそうだ」

「じゃあ、元の場所へ戻すっていうスキルを使うと、さっきの黒服の目の前に登場しちゃうよね?」

「うん、それはヤバい」


 うーーーーん。どうしたものか。


 いや、ちょっと待って。

 そもそもなんでここへ来てしまったかというと、あの時、マリナのポシェットを収納に放り込もうとしたからだ。

 で、マリナがポシェットをつかんでいたからそれに引っ張られて、一緒に来ちゃったんだ。

 私とマリナは手をつないでいたし。

 ということは、ポシェットとマリナと私は、ひとつのグループとして認識されてたってことだよね。


 これは前世のパソコンソフトで覚えた、グループ化っていうやつと似ている。

 じゃあ、ポシェットとのグループ化を解除して、他のものとグループ化し直せば、別の場所に出られる?

 たとえば、このカボチャの箱とか。

 まずは、収納の中でスキルが発動できるかやってみよう。


 いつもの要領で、大型カボチャの箱を実家に戻すように、スキルを発動してみる。

 無事、カボチャの箱がひとつ消えた。

 どうやらスキルは発動できるようだから、ホッとした。

 じゃあ、次に……


「マリナ、このポシェット、ここに置いていってもいいかなあ? 後で返すから」

「うん、いいよ。今日の売り上げとかは全部アリスに預けてあるもんね?」


 マリナはポシェットを首から外すと、床に置いた。


「で、これは実験なんだけど、ふたりでこのカボチャの箱の中に入るの」

「あ、わかった。そうしたら、アリスの実家に戻れるってこと?」

「やってみないとわからないけど、理屈の上ではそうなるはず」


 大型カボチャを外に出したら、なんとかふたりで箱の中に入ることができた。

 で、マリナと手をつないで、もう片方の手は箱のふちをしっかり握る。

 これでグループ化できてるかなあ?


「マリナ、今からスキル発動するけど、もし失敗したらさっきの場所に戻っちゃうかもしれない。そうしたら、黒服と戦わないといけなくなっちゃうから、心の準備しといてくれる?」

「うん、わかった」

「最悪の場合、私が火魔法でやっつけるから。じゃあ、スキル発動するよ!」


 一瞬目の前が真っ暗になって、それからすぐに箱ごとドサっと落ちた。

 恐る恐る目をあけると……

 そこは見慣れた実家の倉庫だった。


「成功! マリナ、私たち転移したよ! ここ、私の実家の倉庫だよ!」

「よかった~! 信用してたけど、ちょっと緊張した」


 壁の時計を見ると、さっき学園前についた時刻から、ほとんど時間はたっていないと思う。

 つまりですよ。

 これって、瞬間転移できたってことだよね?

 私たちは収納の中で長い時間を過ごしたけど、外では時間は経過していない。


 すごい。

 このスキルちょっとヤバいかもしれない。

 この世界に瞬間移動できる人なんていないんじゃないの?

 チートすぎる……収納魔法にそんな使い方があるなんて。


 マリナとふたりで箱を出て、実家に向かう。

 連絡もせずに突然家に帰ったらお父さんやお母さん、びっくりするだろうな~と思っていたら。


 誰もいない。

 変だな? 家中探してみたけど、カイルもいない。

 三人でどこかへ出かけた?

 めずらしいな……このあたりには買い物するようなところもないし。

 どこに行ったんだろ。畑かな?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ