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閉じ込められた!

 週末、いつものようにマリナとふたりで、朝から市場に買い物に出かけた。

 スイーツがかなり好評なので、在庫がすっからかんだ。

 キャロラインが次々と注文をとってきてくれるのは嬉しいんだけど、届けに行くのは私なので忙しい。

 といっても、女子寮の部屋へお届けするだけなんだけどね。

 注文してくれるのはたいてい貴族令嬢なので、結構気を使うのです。


 最近は新作のフルーツシャーベットが人気なので、果物屋さんで大量に仕入れをする。

 牛乳屋さんや卵屋さんは、もう私たちのことをすっかり業者だと思っている。

 在庫管理や事務は私がやってるんだけど、そういうのが得意なのは前世の知識のおかげだと思う。


 一、二週間分の仕入れが終わると、もうお昼。

 マリナとお気に入りのカフェで、ランチタイムだ。

 最近はお小遣いが潤沢にあるから、ちょっとぐらい贅沢をしてもいいのだ!


 カフェで楽しくご飯を食べているときに、二人組の男が入ってきた。

 なんだか、目つきが悪いふたりで、黒っぽい洋服。

 カラフルで女子率の高いスイーツカフェの中で、悪目立ちしている。

 コーヒーを注文して飲んでいるけれど、会話をするでもなく、周囲を見回したりしている。


 なんか変だな……。

 一度だけ、片方の男と目が合った。

 私が視線を向けたことに気付くと、さっと目をそらした。

 やっぱりなんか怪しい。直感がそう告げている。


「ねえ、マリナ。あの二人組の男、なんだか変だと思わない?」

「そうかな? そう言われてみれば、この店の雰囲気には合わないと思うけど」

「出ようよ。勘違いだったらいいけど、こっちの様子窺ってる気がする」

「マジで? オッケー。じゃあ出よう」


 コソコソと小声で相談して、席を立つ。

 お金は前払いで払ってあるから、急いで店を出た。

 入り口のガラス越しに男ふたりも席を立ったのが見えた。

 これは逃げた方がいいかも!


「ヤバいかも。バス停まで走ろう!」


 荷物は全部収納に放り込んで、マリナと全力で走る。

 最近はわりと鍛えてあるからね。

 なるべく人目のある道を通って馬車の停留所に着くと、ちょうど運良く馬車がやってくるのが見えた。

 急いで乗り込んで、出発するとようやくホッとした。


「なんだったんだろうね……さっきの人たち。アリスのこと見てたような気がする」

「私、一度だけ目が合った。狙われてるとしたら私かも」


 気のせいかもしれないけど、狙われるとしたら、理由はなんだろう。

 思い当たることがない。

 もしかして、魔術大会に出場するから?

 ライバルの学園が偵察に来てたとか?

 しばらく馬車から外の様子を伺っていたけれど、追ってきている様子はない。

 

 馬車は何事もなく学園前に到着して、私たちは馬車を降りた。

 まだ真っ昼間だし人通りもある。

 急いで寮の入り口へ入ろうとしたら、物陰から黒服が飛び出してきた。

 人数増えてる! 五人いる!


 「マリナっ、逃げなきゃ!」


 黒服に向かって、思い切り風魔法をぶつけてから、マリナと駆け出す。

 私が火魔法出したら、全員即死しちゃうから。


 「マリナ、奴らを足止めってできる?」

 「やってみる」

 「杖は出さないで! それが狙いかもしれないから」


 マリナは最近命中率が高くなってきたアイスバレットで、男たちの足を狙う。

 ふたりが転んだ。残りの三人を風魔法で押し返す。

 学園の方から警備の人がふたり走ってくるのが見える。

 なんなんだ。

 こんな白昼堂々と学園の前で襲ってくるなんて!


「警備員さんっ! 助けてーっ!」

「何者だ!」


 警備員さんたちは騎士なので、帯剣している。

 黒服のふたりがつかまって、あとひとりがしぶとく追ってくる。

 これは覚悟を決めて、火魔法を使うしかないか……と考えた瞬間、マリナが転んだ。


「マリナっ!」


 手を貸して助け起こすと同時に、マリナが落としたポシェットを収納に放り込もうとした。

 その時……

 突然目の前が真っ暗になった。


「あれ? ここはどこ? なんだか薄暗いけど……マリナ、大丈夫?」

「うん、転んですりむいただけでたいしたことないけど……ここどこだろう?」


 視界が悪く、空気はひんやりとしている。

 箱があちこちに積まれているのが暗がりの中に見えていて、倉庫のような場所に転移してしまったようだ。

 でも、人間がふたり転移できる魔法なんて、聞いたことがない。

 他国の魔術師だったんだろうか?


「アリス、あそこになんかランプみたいのが落ちてるよ!」

「ほんとだ。助かった」


 ランプの魔導具を拾ってつけてみたら、ちゃんと魔石が入っていて、明るくなった。

 周囲を見回すと、やたらだだっぴろい倉庫だ。

 あっちこっちに段ボール箱が積まれていて、遠くの方は暗くてよく見えない。


 とりあえず出口を探さないと……って、あれ?

 なんか見覚えのある箱がある。

 巨大カボチャの箱だ! あれ、私が巨大化させたやつだ。

 駆け寄って確認してみたけど間違いない。


 ということは、ここって、私の収納の中?

 収納の中に人間が入れるっていう話は聞いたことがない。

 生き物は収納したらダメなんじゃなかったっけ。

 収納できる、ということはたった今判明したけれど。

 これ、どうやって出たらいいんだろう。


「マリナ、落ち着いて聞いてくれる? 私たち、収納の中に転移してしまったみたい」

「ここ、アリスの収納の中なの?」

「うん。だってこの巨大カボチャは私しか作れないし。ほら、あそこに仕入れした牛乳とかフルーツとかもあるよ」

「ほんとだー だとしたらとりあえず安全? 食料もあるし」


 マリナは楽観的な表情で、にっこり笑った。

 ほんとに大丈夫かな?

 完全に時間が止まっていれば、空気がなくなったりはしないと思うけど。


 でも、不思議だな。

 収納の中は時間が止まっているはずなのに、私たちは動けている。

 これはどういう状態なんだろう。


「マリナ、私、マリナが転んだときに手をつないだでしょう?その瞬間に、マリナが落としたポシェットを収納に放り込もうとしたんだよね。そしたら、ポシェットと一緒にここへ来ちゃったみたい」

「ああ……そういうことね。出られるのかな?」

「なんとしてでも出る方法考えるけど、ちょっと時間くれる?」

「うん、いいよ。ていうか、時間止まってるんだよね?」

「あ、そうだった。ということは、ちょっとだけ時間を巻き戻して外へ出たら、さっきマリナが転んだ瞬間の時間と位置に戻るわけか」


 うーん。そうするとまたあの黒服たちに狙われてしまうから、それは勘弁してほしいんだけどなあ。

 別の場所に出る方法はないだろうか。



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