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世界一を目指すのはやめることにする

 教会から帰ったら、お父さんとお母さんが待ち構えていた。

 『ちゃんと魔法は使えるようになったか?』と聞かれたので、制御が難しいと答えた。


「制御? どういうことだ。魔力が暴走でもしたか?」

「ぼうそうじゃないと思う。しっぱいしただけ」


 教会を水浸しにしたことと、雑草を背丈ぐらいまでのばしてしまったことを説明すると、お父さんとお母さんは青ざめた。

 ありえない、という顔をして。

 そして、「今日習ったことをやってみせてくれ」と言って、畑のあるところへ連れていかれた。


 畑の水路のわきに立って、水を出してみて、と言われたので出してみる。

 ここで嘘をついても仕方がないので、ドバドバと、正直に出した。

 あっという間に水路があふれるほどに出した。バカ正直すぎたかも。


「わ、わかった。もういい。アリスは水属性が適性なのかもしれないな」

「でも、作物の成長もできたよ?」

「そうか、じゃあ、それもやってみせてくれ」

「いいの?」


 お父さんが指さしたのは、そろそろ収穫間際のかぼちゃ畑。

 教会では雑草だったけど、野菜を育てるのは楽しそう。


「大きくなあれ!」


 精一杯子どもらしい掛け声で魔力を放出すると、畑いっぱいに巨大カボチャが現れた!

 普通の4~5倍はあるだろうか。

 父母、目を剥いて驚き、無言になっている。やりすぎたか。

 1個だけにしておけばよかった。

 つい畑一面をイメージしてしまった。


「なあ、アリス。これ、元に戻すことはできないよな?」

「えっと……ごめんなさい。もどすのは習わなかった」

「そうか……」


 単純にこの時の私は、作物は大きいほどいいと思ってたんだよね。

 だって、5倍の大きさのカボチャがあったら、5日間おなかいっぱい食べられると思ったから。

 でも、お父さんがこのカボチャは出荷できない、と言う。

 悲しい。どうして?


 その晩、お父さんとお母さんと3人で、家族会議になった。


「アリスの魔力が規格外だということはよくわかった。素晴らしいことだと思う。だけど、同時に危険なことでもあるんだよ」

「そうなの? どうして?」

「貴族に目をつけられるからだ。まだ小さいお前にはわからないだろうけど、優秀すぎるとさらわれてしまうこともあるんだよ」

「きぞく。この村にはいないでしょ?」

「この村にはいなくとも、この巨大カボチャを出荷すれば、誰が育てたのかと、必ず調べにくるだろう。魔力の多いものは、貴重だからな」

「そうなの……」


 せっかく両親を喜ばせようと思ったけど、逆に心配をかけてしまった。

 教会で困惑していたのは、そういうことだったのか。

 小説でしか読んだことないけど、貴族って平民にとっては、傍若無人で恐ろしい存在なのかもしれない。

 連れ去られるのは困る。

 私は優しい両親と弟と一緒に、穏やかな人生を送りたい。今生は。


「実はな。先日神官様から相談があったんだ。お前を王都の学校へ入れる気はないかと。神官様はめずらしいスキル持ちや、魔力量の多い子どもを、教会の上層部に知らせる義務があるらしい。だけどな、お前はまだ5歳で、親元から離れるにはまだ早い。だから、断った」

「アリスちゃん。王都ってきらびやかで、素敵なところだから、若いときには憧れるものよ。私もそうだったわ。もう少し大きくなったら、一度は行ってみるといいと思うの。でも、まだ早いわ」

「お前がいつか本格的に魔法の勉強をしたいと思ったなら、その時は止めないし、応援すると約束しよう。だけど、お前はどうしたい? お前の能力を見る限り、教会が上に連絡してしまえば、すぐにでも王都から迎えが来てしまうかもしれない」

「イヤだ! 王都になんか行きたくない! 私、ここでお父さんとお母さんとカイルと一緒にずっと仲良く暮らすの! まほうでお父さんのお手伝いするの!」


 急に怖くなって、涙がボロボロ出た。

 また両親を失ってしまうかもしれないなんて、冗談じゃない。

 今度こそ家族に囲まれて、幸せに暮らせると思ってたのに。


 そうかそうか……と言って、お父さんはホッとしたような顔になった。

 お母さんはぎゅっと抱きしめてくれた。

 この幸せを手放すものか!


「じゃあな、約束してくれるか? きちんと制御できるようになるまで、人前で魔法は絶対使わない。それと、収納スキルのことを誰かに聞かれても、正直に答える必要はないからな。特殊な能力のことは知られない方がいいんだ。わかるね?」

「うん、わかった。ぜったい言わない。人まえでまほうはつかわない」

「万が一誰かに、荷物をどれだけ収納できるかと聞かれても、ごまかすんだぞ。野菜を少し運ぶ手伝いをしている、ぐらいに言っておけばいい。今は幸い、この国は戦争をしていないが、大きな収納持ちは軍隊に招集される危険がある。そのことを覚えておくんだぞ」


 どうしよう。世界一なんて願ったのは、失敗だったかも。

 すごく大きな秘密を抱えた人生になってしまった。

 せっかくすごいスキルもらったのに、これじゃあ使い所に困る。

 軍隊なんてまっぴらだ。

 それに、王都の貴族が通う学園もイヤだ。

 そんなところに農民の娘が一人放り込まれたらどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。

 ヤバい貴族に目をつけられて、奴隷にされてしまうかもしれない。

 小説でしか知らないけど、十分にありえると思う。


 うん。世界一の収納は、大人になるまで封印しよう。

 こっそり隠しておきたい私物なんかを入れたらいいよね。

 魔法を使っていろんなことに挑戦してみたい気持ちはあるけど、もっと大人になってからでもいい。



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