新入生入学式
新学期が始まった。
魔術科は全員無事に進級して、二学年用の新しい教室に懐かしい顔がそろっている。
一年生の終わり頃、私とマリナとイーサンは辺境伯様の用事で出かけていたから、ずいぶん久しぶりな感じ。
今日は新一年生の入学式があって、その後は恒例のダンスパーティーだ。
私たちはいったん寮に戻って、ドレスに着替えて会場へ向かうのです。
マリナと私は、辺境伯様から頂いた報酬で新しいドレスを買った。
貴族の人たちほど高価なものではないけれど、初めて自分のお金で買ったドレスを着るのは楽しみだ。
マリナのドレスは薄いピンク色で、小さいお花の飾りがちりばめられている。
私のドレスはロイヤルブルーで、胸元にフェイクの宝石のような飾りがついているのです。
ちょっと大人な雰囲気のドレスを選んでみました。
「よう。今日はよろしくな! 後で迎えに行くよ」
「あっ、イーサン! こちらこそよろしくね」
私のパートナーはイーサンで、マリナのパートナーはケイシー。
ずっと前に一度だけダンスのレッスンで踊ったことがあって、それ以来だけれど。
まったく知らない人と踊るよりはマシだと思ってお願いした。
会場には美味しそうなお料理やお菓子が並んでいて、ゆっくり楽しみたいところなんだけど。
ファーストダンスを踊った後、二年生は一年生を歓迎する催しをすることになっている。
私たち魔術クラスは、キャロラインの提案でスイーツバーをやることに。
私とマリナは裏方でひたすらスイーツを出して、カウンターでの接客はいつも女子会メンバーがやってくれるのだ。
きっと良い宣伝をしてくれるに違いない。
男子たちは、マリナの氷を使って、冷たいドリンクバーをやるのです。
先に会場に並んでいる新入生たちは、緊張している様子でかわいく見える。
私たちも去年はあんな感じだったのかなあ。
自分ではよくわからないけれど、一年で少しは成長したような気もする。
去年は制服姿で壁の花になっていた私たちが、今年はちゃんと自分のドレスを着ているんだもの!
優雅に流れていた迎賓の音楽が止まると、校長先生が壇上に上がった。
私たち二年生は、新入生の後ろに適当に並んでいる。
「あー諸君。今年も多くの優秀な生徒を迎えることができて、大変嬉しく思っている。こうして三学年揃ったところで、歓迎パーティーを始める前にひとつ報告がある。今年は、国際魔術大会が開催されることが決定した」
シーンとしていた会場内が、急にざわざわし始めた。
なんだろう、国際魔術大会って。当然、魔術科に関係ある話だよね?
「オホン、静かに! 国際魔術大会は成人部門と学生部門に分かれて開かれる。我が国からは王立学園だけでなく、カイウス学園も出場することとなった。これは、国王の決定だ」
わーっと、魔術科の三年生あたりから歓声があがった。
二年生クラスは、ちょっと困惑して顔を見合わせているけれど。
誰が出場するんだろうか。やっぱり三年生?
「出場メンバーについては、今先生方で協議中なので、後日発表することとする。大会の内容については、すでに掲示板に張り出されているので、我こそはと思う者がいたら立候補するように」
校長先生の合図でオーケストラの音楽が始まり、ダンスパーティーがスタートする。
ファーストダンスはパートナーと踊り、その後は自由にパートナーチェンジできるルールだ。
クラスにはまだ婚約者がいない人の方が多いので、みんな適当に仲のいい相手と踊っている。
私の相手はイーサンなんだけど、イーサンはやっぱり身のこなしが軽い。
休みの間に身体を鍛えていたのか、一年生の頃よりもたくましくなったみたい。
踊っていたら、イーサンをちらちら見ている女子が結構いることに気付いた。
「イーサン、モテ期きたんじゃない? なんか女子の注目浴びてるみたい」
「ないない、俺、嫡男じゃないし」
「でもさあ。カイウス辺境伯様から目をかけられていたら、将来騎士爵ぐらいはもらえるかも」
「だよなあ。それぐらいは目指したいとは思ってるけど……出世なんてまだまだ先の先だよ」
「国際魔術大会……立候補してみるとか。ワンド使ったら注目されそうだよね」
「うーん。それだと俺だけってわけにいかないだろう? 開発者はアリスなんだし」
「あー……まあ、そうだけど」
イーサンは最近、上級魔術師のカーマイン様から手ほどきを受けて、魔術を使った戦闘の練習を頑張っているらしい。
一年生の頃の、地味でやる気のなさそうなイーサンと比べたら、別人みたいだ。
できることがあれば、応援したいな、と思う。
一曲目が終わって、マリナとケイシーがやってきた。
相変わらず初々しいコンビだなあ。ふたりとも照れくさそうにちょっと頬が赤い。
「アリス、パートナーチェンジする? ケイシーがアリスと話したいって」
「え? そうなの? うん、いいよ」
なんだろ。普段、錬金術クラスで一緒になっても、ケイシーの方から話しかけてくることなんてないのに。
ケイシーは私とダンスがしたいわけではなさそうで、「あっちに行こうぜ」という身振りで呼んでいる。
ウェイターの人から飲み物をもらって、壁際にあるテーブルへ移動する。
ケーキが食べたかったから、ちょうど良かった。
「どうしたの? 話があるってマリナから聞いたけど。なんかあった?」
「さっきの、国際魔術大会の話だけどさ。あれ、詳しい内容知ってる?」
「全然知らない。学園対抗で戦ったりするの?」
「僕、親が錬金関係の知り合いから聞いてきたんだけど、今回から魔導具部門っていうのができたらしい」
「できた……ということは、前はなかったの?」
「そう。以前は戦って、攻撃や防御の魔法を披露する形式だったんだけど、それだと女子や身体の弱い人は参加できないから。そういう人のために、魔導具の性能で対決できる部門を作ったらしい」
「なるほどー。それは公平でいいよね! で?」
「で?って……決まってるだろ? うちの学園で魔導具作ってるのなんて、アリスしかいないじゃん」
「そうかなあ。三年生のことは知らないけど、いないの?」
「今年の三年生は錬金クラスないらしいぜ。生徒が集まらなかったんだってさ」
「へえ……じゃあ、私たちにもワンチャンあるかも?」
「ワンチャンどころか、確実だと思うけどなあ。アリス、立候補する気ある?」
「ないない! わざわざ目立ちたくないし」
「大会に出れたらさ。ちょっとはハクがつくというか、就職にも有利になるかなって思っただけなんだけどさ」
ケイシーはちょっと残念な顔になった。
もしかして錬金クラスで出たかったのかな?
そういえば、私の作ったワンドは錬金クラス全員でレポート書いたもんね。
ケイシーは子爵家の三男で、以前から将来の就職先について真面目に悩んでいる。
イーサンは最近辺境伯様から目をかけてもらってるから、就職先は決まったようなものだ。
仲のいいケイシーとしたら、ちょっと焦りがあるのかもしれない。
「まあ、もし指名されちゃったら頑張るけどね」
「うん、そうなったら僕も応援するからさ。一緒に連れていってよ」
「もちろんだよ!」
ケイシーの話では、国際魔術大会とは、チーム制で出場するんだそうだ。
五~八人でチームを組んで、学園からは何チームでも出場登録はできるらしい。
ただし、一次審査は書類選考で、本戦に出られるのはトップのチームだけ。
おそらく三年生からは、攻撃班の優秀な生徒がチームを組んで、戦闘部門で出るんじゃないかという予想だ。




