鳥獣との戦い
「あった! ありました!」
「よし、みんな! 触らないように注意深く進むぞ」
先頭の人の合図で、皆、足元にルナリア草がないかランプで確認しながら、慎重に少しずつ進む。
貴重な草だから、踏んだら大変だ。
私とマリナは収納からランプをいくつか出して、それを近くの木にぶらさげた。
先頭の人が見つけたルナリア草は、小さな花がいくつか咲いていて、1株のようだ。
マリナが慎重にルナリア草に氷結魔法をかける。
凍ったときに、花がひとつポロッと落ちてしまった。
「あっ!」
「大丈夫。壊れても持って帰れるから」
すかさず落ちた花を収納する。
凍ってさえいれば、使えるよね。
「こっちにもありました!」
別の人の声で、急いで移動して、冷凍しては採取していく。
ところどころ地表がぼんやり光っていて、幻想的な光景だ。
「あれはなんですか?」
「魔石だ。ルナリア草が生えている場所は、必ず近くに魔石がある」
ふーん。
魔石があるということは、このあたりの地表には魔力が含まれているんだろうか。
ひょっとして、ルナリア草は、地面から魔力を吸収してるのかも?
地面に触れて、土の成分を分析してみる。
かなりはっきりと魔力を感じる。
だとしたら、土ごと持って帰ったほうがいいかもしれない。
「マリナ。できるだけ根っこも凍るように、地面ごと凍らせてくれる?」
「うん、わかった」
地面を深く掘るように、土ごとごっそり収納してみた。
根っこが切れたかもしれないけど、手は触れてないからセーフだよね?
地面に魔力が多ければ、ルナリア草は栽培できるかもしれない。
頭の片隅に、ローレンの鉱山が浮かんだ。
あそこは、かなり高純度の魔石があるから、もしかすると。
突然空から、「ギャア」と大きな声がした。
魔獣の鳴き声のようだ。それも複数。
「まずいな。鳥獣に気づかれたか」
「光に寄ってきてるのかもしれません!」
「僕らが行くよ」
カーマイン様が、炎を出しながら、鳥獣を別の場所へ誘導するという。
炎を出すだけなら、私にもできるけど、私はマリナのそばを離れることができない。
「すまん、頼む。俺にはどうにもできん」
「わかってる。イーサン、行くぞ!」
カーマイン様とイーサンが、空に向かって大きな火を出しながら、走っていく。
「3株あれば今回は十分だ。成功したら、また来ればいい。命の方が大切だ」
辺境伯様が、撤収命令を出した。
だけど……
こういう雑草のような薬草って、地下で根っこがつながってることが多いんだよね。
離れた場所で、ひときわ大きな炎の柱が上がった。
カーマイン様が戦闘を始めたのかもしれない。
「辺境伯様、ちょっとだけ待ってください!」
最後のルナリア草を採取した近くの地面に、成長促進魔法を流してみる。
たぶん、根っこが残っているはず。
全力だ。巨大化せよ!
みるみる近くの地面からルナリア草が生えた!
「これは……」
花が咲くまで魔力を流し続ける。
やっぱりルナリア草は、魔力で成長するんだ。
ごっそり魔力を吸われているような、初めての感覚。
私を中心にルナリア草が広がっていく。
「マリナ! お願い! このへん一帯を全部凍らせて!」
「おっけー! アリス、どいていて!」
マリナが凍らせた場所から、土ごとごっそり採取する。
これだけあれば、少しぐらいダメになっても使えるものがあるかもしれない。
よかった。諦めなくて。
「撤収するぞ!」
辺境伯様が大声でカーマイン様のいる方向へ叫んだが、戦闘は続いている。
たぶん、イーサンも戦っているのか、2本の火柱が上がっている。
「加勢します!」
「待て! 危ない!」
辺境伯様の静止を振り切って走る。
空に向かって火を出すだけなら、ノーコンの私だって!
走りながら、ロッドの制限をカチリと解除する。
「イーサン! カーマイン様!」
「アリス! 来たらダメだ!」
「大丈夫!」
近くに大きな鳥獣の亡骸が落ちている。
1体はやっつけたようだ。
空には2体の鳥獣がもつれ合うように暴れている。
私もイーサンたちと同じ方向に、全力で炎の柱を上げた。
空が真っ赤に焼けたように明るくなる。
「いいぞ! アリス、届いてるぞ! 俺はもう限界が近い!」
イーサンは魔力切れのようだ。
翼が焼けた鳥獣は、バサッバサッともがきながら高度を下げている。
カーマイン様とふたりで、1体ずつ炎で攻撃する。
空中でもがいていた鳥獣は、最後は音を立てて地面に落ちた。
「やったぞ!」
「倒しました!」
辺境伯様たちが、走ってきた。
呆れたような顔をして、私たちを見ている。
暗闇で顔色がわからないけど、イーサンはたぶん限界だろう。
膝をついて肩で息をしている。
正直私もフラフラだ。
生まれて初めて、魔力が残り少なくなっているのを感じる。
「カーマイン様、これも持って帰ります?」
「え? ああ、持って帰れるの?」
「大丈夫です」
3体の鳥獣を収納に放り込む。
食材になるかどうかは知らないけど、素材として貴重だと本に書いてあった。
辺境伯様に献上だ。
「さっさと撤収しよう。次に襲われたらヤバい」
そうだった。魔術師3人はもう使い物にならない。
みんな無言で下山した。
火を熾すと危ないので、野営するのは諦めて、馬車の中で眠った。




