表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/89

上級魔術士様、参上。

 慌ただしく準備をして、出発日当日。

 騎士団の馬車が学園まで迎えに来てくれた。

 前に辺境伯様の後ろに立っていた、護衛の人がふたり、私たちの護衛についてくれるらしい。

 いかつい感じの騎士様だけど、頼りになりそう。

 6人乗りの大きな馬車だ。

 騎士団から魔術師の人も同行してくれるらしく、イーサンはその見習いにつくということだ。

 私たちは特に手荷物もないので、ほぼ手ぶらで馬車に乗り込む。

 同乗している騎士様は、無言でピシッとした姿勢を崩さない。

 馬車の中はなんだか緊張した空気に包まれていた。


「よう! 来たか」


 辺境伯様は、まるで親戚の兄ちゃんみたいな感じで、手をあげて挨拶をしてくれた。

 私たちは一応、騎士スタイルで頭を下げる。

 遠征中はいちいち膝をつかなくても良いとのことだ。

 

「長旅になるが、のんびりしてくれていたらいい。採取以外のことはこっちでやる」

「わかりました、手伝えることがあれば、声をかけてください」


 辺境伯様の後ろには、長髪イケメンの、魔術師様がいた。

 この人が辺境伯軍の魔術師様?


「紹介しておく。友人のネヴィル・カーマイン。上級魔術師だ」

「君たちが噂の若手魔術師か。よろしくね」


 なんと上級魔術師。雲の上の人だ……すごい。

 ということは、上級魔術院に所属してるんだよね。

 友人、と言ったけど、騎士団の人ではないんだろうか。


「無理言ってついてきちゃったよ。君たち、面白いもの開発したんだって? その腰にさげているのがそう? 後で見せてくれる?」


 カーマイン様は興味津々という顔で、イーサンのロッドを見ている。

 私たちも装備してるけど、ローブで隠れているからね。

 カーマイン様は、学者肌の人っぽい。

 よっぽどロッドに興味があるのか、自分からついてきたようだ。


「予備がありますので、よかったらどうぞ。遠征が終わったら返却してください」

「わあ、うれしいなあ。借りてもいいの? どれでも同じ?」

「サイズと見た目以外は、同じです」

「使い方、教えてくれる?」


 カーマイン様の目がキラキラしている。

 魔石の交換方法と制限解除の方法を説明すると、機嫌よく杖をいじって遊んでいる。

 お気に入りのオモチャを与えられた子どもみたいだ。

 まあ、上級魔術師様なんだから、貸し出しても大丈夫だよね。


「僕も学園の後期実技は面白い見世物があるって聞いて、見に行ってたんだよ。君、最初に風魔法使ってた生徒だよね?」

「はいっ! そうです」

「アルフ……辺境伯から君の面倒見るように言われてるから、君は僕と一緒の馬車ね。聞きたいこといっぱいあるし」

「はいっ! よろしくお願いします!」


 カーマイン様は、イーサンを連れていってしまった。

 イーサン、緊張していたけどなんだか嬉しそうだったなあ。

 上級魔術師様がいるなら、私だってこの遠征の間に聞きたいことがいっぱいある。

 特に空間魔法と時間魔法について。

 こんなチャンスは二度とないかもしれない。

 ああいうタイプの人は、専門分野のことを喋りだすと止まらないタイプだ。きっと。


 私たちは3台の馬車に分かれて、出発することになった。

 私とマリナと護衛の人が2人。

 カーマイン様とイーサンと、騎士の人。

 辺境伯様と、騎士様たち。

 総勢12人だ。

 荷物が結構場所をとっていたので、すぐに使わないものは私の収納で引き受けることにした。


 私たちの馬車には護衛さんが乗っていて、ちょっと気を使う。

 「空気だと思ってくれていい」と言われたが、そんな威圧感のある空気って、無理があるよ。

 でも、途中でおやつを分けてあげたら、機嫌よく受け取ってくれたし、笑顔も向けてくれるようになった。

 私とマリナはいつものように、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしながら、窓の外の風景を眺めているだけだ。

 何日ぐらいかかるのかと聞いてみたら、山のふもとまでは2日ほどらしい。

 私たちを連れているので、無理をせず、途中で1泊野営をする予定だと。

 2人の護衛さんは、何度か辺境伯と一緒に行ったことがあるんだって。


「おふたりはルナリア草を見たことがあるんですか?」

「ああ、ある。夜になると白い小さな花が咲く草だ」

「人間が触れると枯れてしまうと聞いたんですけど……」

「そうなんだ。ちょっとでも触れるとそこから腐ってしまう」

「例えば、触らないように周囲の土を大きく掘り起こすとか」

「もちろんやってみたさ。だけど、根っこに触れてしまうとそれもダメなんだ」


 なるほど。根っこがどこまで伸びてるかわからないものね。

 失敗する可能性を考えると、冷凍する方が現実的なのか。

 少なくとも先に冷凍してしまえば、その部分だけは腐らないんだろうな。

 マリナは責任重大だなあ。

 私は運ぶだけだけど。


 植物図鑑にもちゃんとのっていたんだけど、ルナリア草は夜に花が咲く。

 だから、昼間の間に見つけて場所に目印をつけておいて、夜になってから採取するみたい。

 辺境伯様は、今回の遠征にかなり期待しているそうだ。

 よろしく頼むと、護衛さんにまで頭を下げられてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ