戦いに備える
3人で応接室を出ると、扉の向こうからセドック先生と辺境伯様がなにやら言い争う声が聞こえたけど。
大人の事情がありそうだったので、そこは聞かないことにする。
「なんだかすごいことになっちゃったよね」
マリナは不安そうだ。
私は割と開き直っていて、なるようになれと思っている。
なんならこれで辺境伯様に恩を売っておけば、進路のことも多少融通をきかせてもらえるかもしれない。
それより、たまたまロッドを使っていただけで巻き込まれた、イーサンに申し訳ないなあ。
「ごめんね、イーサン。なんか巻き込んだみたいで。本当に辺境伯騎士団に就職するつもりなの?」
「え? ああ、俺? いいよ、元々考えてたことだし、むしろ覚悟が決まった感じ」
「そうなの?」
「俺、これがすっげー気に入ってるんだ」
イーサンは腰にさげたロッドをぽんぽんと叩いて、にっこり笑った。
「今のところ、この武器を一番使いこなしてるの、俺だろ? だったら、カイウス騎士団に入るしかないと思ってさ。中途半端な俺にも、希望が出てきたなって思ってるんだ」
「そっか。イーサンの風魔法、かっこよかったもんね!」
「せっかく魔術師クラスの攻撃班に入ったんだから、一度は活躍してみたいじゃん。それにさ、辺境伯様っていい人そうだし」
「そうだね。思ったより話しやすいし、家族思いの人だったね」
その後、辺境伯様からの連絡がきて、行き先は国境にあるトスカ高山地方だと聞いた。
国境といっても、高山地帯なので、隣国と争いになるようなことはない場所らしい。
というか、人はほとんどいない山岳地帯だ。
私たちは心の準備をするために、そのあたりに出現しそうな魔獣を調べることにした。
辺境伯様や騎士団が守ってくれるとはいえ、いざという時に身を守るのは知識だ。
高山地帯でやっかいなのは、空から攻撃してくる肉食の鳥獣だ。
するどいくちばしを持ち、高速で飛んできて人や動物を咥えていってしまうらしい。
超大型の鷹のような魔獣で、トスカ鳥獣と呼ばれている。
「こんなのが出たら終わりじゃん……どうやって逃げたらいいんだろ」
「でもさ、こういう鳥ってたいてい気流にのって飛んでるから、マリナの竜巻ブリザードで落とせるかもよ? 落とすのは無理でも撃退はできるかも。私も空に向かってなら遠慮なく炎攻撃できるし。それに、飛んでる鳥に攻撃するなら、イーサンが一番得意じゃない? 羽を切り裂くとか?」
「確かにな。出力制限解除したらいけるかもしれない。空に向かってなら遠慮することないよな」
地上の敵は騎士団でもなんとかなるので、私たち魔術師チームは、空の敵を蹴散らそうと話し合った。
セドック先生が『危ないところ』と言っていたので、多分戦闘は避けられないんだと思う。
私とマリナの目的は、薬草の採取だから、積極的に戦いには参加しない。
でも、全員が生き延びることが一番だから、後方支援は頑張ろう。
私は残念ながら風魔法が苦手なんだけど、イーサンにロッドの使い方を教えてもらうことにした。
イーサンは剣の修行をしていたことがあるので、身体の使い方がうまい。
それで、鋭い風の刃を出せるんだと思う。
マリナとふたりで、自己防衛できる程度にロッドの構え方や、振り方を習った。
まあ、見た目はちょっとマシなフォームになったかもしれないけど、私のノーコンは変わらない。
下手にファイヤーボールは使わず、ファイヤーバーナーだけにしておいた方が無難だろうなあ。
私たちが高山地方へ行くという話をしたら、ローレンが心配して、魔石をわけてくれると言う。
ロッドの魔石の寿命がよくわからないからだ。
セドック先生とも相談して、最大出力が出せるぐらいの魔石を準備してもらった。
きっと辺境伯様がお金を払ってくれるんじゃないだろうか。
ロッドを破損する可能性があるので、念のために在庫10本全部持っていく。
シルバーの耐久性が未知数だもんなあ。
今回の遠征で、私にはもうひとつの目的がある。
それは高山植物を採取すること!
なんたって、薬草農園の娘ですから!
もちろん寄り道している時間はないだろうけど、野営地の周辺ぐらいなら、ちょっとぐらい採取できるかも。
高山地帯の土の成分がわからないので、土と根っこごと収納に入れて持って帰ろうと思う。
貴重な薬草が見つかったらいいのにな~
何日で帰ってこれるかわからないから、マリナとふたりでお料理もせっせと保存した。
だって、毎日固形食料と干し肉だなんて、美食家の私たちには耐えられません!
カボチャや芋は大量に煮たし、魚は野営で焼いたらいいよね。
食堂の人に余っている大きなお鍋を借りて、マリナと私の部屋の魔導コンロも持っていくもんね。
パンとフルーツだけは、町に買いに行った。
経費はあとで辺境伯様に請求するぞ!




