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呼び出しくらってしまいました

 3人でジャンケンをして順番を決めてあった。

 トップはイーサンだ。ジャンケンに負けたから。

 次がマリナで、私は3番め。

 3人とも一緒に競技場に上がった。

 紹介のアナウンスが流れる。


「これより、魔術科の模擬攻撃実技を行います。魔術科1年、イーサン・フラナガン」


 競技場には10体のかかしのような人形が並んでいる。

 イーサンは剣のようにロッドを構えると、風の刃で瞬く間に次々と人形の首をはねていく。

 何度も見たことあるけど、イーサンの動きは演舞のようでかっこいい。

 会場がシーンとなって、最後の1体が切り落とされたときは拍手が沸き起こった。

 これは、絶対辺境伯の目にとまったんじゃないだろうか。

 でも、イーサンは隣のハンベル領の出身だけどね。

 イーサンは体勢を整えると、辺境伯に向かって頭を下げた。

 辺境伯も満足そうにうなずいている。


「魔術科1年次席、マリナ嬢」


 マリナはかなり緊張で青ざめた表情だ。

 大丈夫、と小声でエールを送る。

 あんなにふたりで練習したんだから。


 ロッドの先から雪の結晶が出て、風にのって会場に舞い散る。

 マリナの氷魔法は何度見ても幻想的だ。

 今日のところは模擬演技なので、強力なブリザードは出さないと言っていた。

 でも、制限をかけていても、かなり会場には強風が吹いている。

 本気のマリナなら、竜巻だって起こせるだろうな。

 くるりと回転して、全方向に雪を舞い散らせてから、マリナはペコリと頭を下げた。

 また会場から大きな拍手が沸き起こった。

 スタンディングオベーションしている人もいる。


「魔術科1年首席、アリスティア嬢」


 私の火魔法は、威力だけでなんの工夫もないし、さっさと終わらせようと度胸を決めた。

 スタスタと中央まで出て、ロッドを構えようとしたとき。

 辺境伯様が立ち上がって、「待て」と声をかけられた。

 客席から拡声魔法で話しかけられちゃったよ……やめてほしい。ほんと。


「お前がそのロッドの開発者か」

「そうでございます、閣下」


 仕方がないので、あわてて膝をついて返答した。


「良い、頭を上げろ。お前がロゼッタ農園の娘だな?」

「そうでございます」

「全力を見せろ。手加減は無用だ」

「承知いたしました」


 ちらりとセドック先生を見ると、苦虫を噛み潰したような顔でうなずいている。

 仕方がないので、ロッドの制限をカチリと解除する。

 まるで拳銃の安全装置をはずすような緊張。

 実は、制限解除して使ったことがないんだよね。制御できるだろうか。

 競技場の中心に立っていたのを、少し後ろに下がった。

 大丈夫。まっすぐ放てば、少なくともノーコンにはならない。


 イーサンの時と同じように、10体のカカシ的なやつが並べられている。

 その中央に狙いを定めた。

 できるだけ小さい火力で始めて、少しずつ出力をあげていく。

 炎が的に届いたあたりで、ほんの少し、ロッドを左右に動かす。

 静かな会場に、ごうごうと燃える音が響く。

 これ以上、大きな火は危ない。

 ちょっとでも手元が狂うと危険だと思って、必死に制御した。


 時間にしたらほんの1分ぐらいだと思う。

 10体の人形は跡形もなく焼け落ちた。

 会場はシーンとしていて、拍手も出ない。

 と、思ったら、辺境伯様が立ち上がって、拍手をしてくれた。

 それにつられたように、会場から拍手がわいた。


「今のが全力か」

「いえ、これ以上は会場が危険でございます」

「ほう。手加減したか」


 ニヤリ、と辺境伯が笑う。

 なんでそんな嬉しそうなんだ。

 手加減じゃなくて、制御したんですよ!


「よいものを見せてもらった。これからも精進せよ」

「御意に」


 終わったああ~!

 どうなることかと思った!

 まったく、突然やってきて予定外のことやらされて。

 辺境伯が『全力で』なんて言い出さなかったら、1体ずつ適当に焼く予定だったのに。


 控室に戻ると、先に戻っていたイーサンとマリナが「お疲れ」と待っていてくれた。

 いや、ほんとに疲れたよ。

 盛大に愚痴ろうと思っていたら、マリナがなんだか悲壮な顔をしている。


「あのね、アリス。午前の部が終わったら、辺境伯様が私たちに会いたいらしい」

「え? どういうこと?」

「よくわかんないけど、応接室まで来るように、ってさっき伝令がきて」

「3人とも?」

「うん。そう。聞きたいことがあるらしい」

「げっ。なんだろう」


 まあ、多分ロッドのことだろうけどなあ。

 3人とも、ってどういうことだろう。

 やっぱり、騎士団への勧誘?


 戻ってきたセドック先生に聞いてみたけど、心当たりはないそうだ。

 今日、来ることも知らなかったみたいだし。

 もし無茶なことを言われても、学生なんだから断ってもいいと言われた。

 

 午前の部の終了アナウンスを待って、私たちは案内されて応接室へ向かった。



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