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錬金クラスが最強になった

「あーみんな。今日はちょっとみんなに頼みたいことがある」


 セドック先生が、錬金クラスの授業に、先日のロッドの試作品を持ってきた。

 みんなは、先生が持っているロッドを、不思議そうに見ている。

 私は、自分用をちゃんと腰にさげて、ローブで隠している。


「実は、アリスが魔力を増幅できるロッドを開発した。これがそうだ。数がまだこれだけしかないから、このクラスの4人に使ってもらって、結果をレポートしてほしい」


 セドック先生は、魔石の入れ方や、素材などを簡単に説明すると、好きなロッドを選ぶように言った。

 ローレンは短めで軽そうなものを、イーサンは一番長いものを選んでいた。

 ケイシーが一番熱心に手にとって比べていたが、シルバーに飾り細工が入っているものが気に入ったようだ。


「さっそくだが、今日は訓練場の方へ移動する。何か質問はあるか?」

「あのー、これって攻撃用の武器ですよね? なぜ、攻撃班ではないこのクラスに?」

「それは、普段攻撃魔法を得意としていない者の方が、効果がわかりやすいからだ」

「なるほど。それなら」


 ケイシーがにっこりして、納得したようだ。

 確かに、土魔法の人に武器を渡してどうすんの?と不思議に思うよね。

 イーサンは、器用にロッドをくるくると回して、楽しそうにしている。


「これってアリスが作ったの? すごいじゃない。魔石を使うなんて」

「まだ試作段階なんだけどね。私、使ってみたけど、結構いい感じなんだ」

「魔力増幅できるって本当?」

「うん、多分。使ってみたらわかると思う」

「それが本当だったら、クズ魔石、価値が上がるかも……」

「そうだよね。商売につながるといいよね!」


 ローレンは、ロッドに魔石を入れられるところが気に入ったようだ。

 魔石って消耗品だから、こういう魔道具が開発されると需要が増えるよね。


「さて、今から試してもらうんだが、この中で火魔法を使える者は?」


 私とイーサンが挙手する。

 ケイシーとローレンは首を横に振っている。


「では、イーサンは最小出力に抑えて使ってみてくれ。ろうそくの火ぐらいをイメージするといいだろう」

「わかりました」

「ローレン嬢は火魔法はまったくダメか?」

「ダメです。まったく」

「では、自分の得意な攻撃魔法を、その杖の先から出す練習をしてみてほしい。それも実験だ。ケイシーは……」

「俺は、ちょっとだけ。このぐらい」


 ケイシーは指先に小さい火を灯してみせた。

 私のお父さんと同じぐらいかもしれない。

 

「よし。じゃあ、ケイシーは頑張って火魔法で実験してみてほしい」

「わかりました」

「まず、アリスが見本を見せるといいだろう」

「はーい」


 まず、杖をまっすぐ構えて、最小の威力で火を出す。チャッ◯マンぐらいね。

 それから、徐々に威力を増して、1メートルぐらいの炎にしてみせた。

 みんな目を輝かせて凝視している。


「では、みんなそれぞれ自分の使える魔法を試して、レポートを提出してほしい」


 結果。

 ケイシーは私が出した1メートルぐらいの炎を簡単に出して、出した本人が驚いていた。

 イーサンは元々火や風の攻撃魔法が使えるので、剣のような構えであっという間に使いこなしている。

 一番びっくりしたのがローレンで、杖の先からストーンバレットを連射していた。

 まるで散弾銃だよ。恐ろしい。


「先生……これ、すごい武器ですね。魔力量の低い人にとっては、救世主じゃないですか」

「そうだ。おそらく、すぐに一般には販売できないだろう」

「軍専用ということですか?」

「そうなるだろうな。ただ、辺境伯軍に魔術師は少ない。いたとしても、前衛で戦闘できる魔術師はさらに少ないだろう」

「へえ……俺、目指そうかな……」


 イーサンが真剣な表情で、ロッドをしげしげと見ている。

 以前にイーサンの愚痴を聞いたことがある。

 イーサンは剣の修行もしたが、それほど上達しなかったので、魔術科に入った。

 だけど、攻撃魔法もそれほど強力というわけでもない。

 万能選手だけど、中途半端、というのがイーサンの悩みだと思う。


「あのー先生。今思いついたんですけど、これ、ロック機能つけられませんか?」


 私の頭に浮かんだのは、スマホの指紋認証だ。

 登録した人以外は使えないようにした方が、安全じゃないだろうか。

 こんな杖が一般に出回ったら、銃社会になってしまうよね。

 しかも、攻撃に向かないと言われていた土魔法が、殺人兵器になってしまう。

 迂闊だった。


「ロック機能というのは?」

「なんらかの方法で、本人しか使えないように制限するんです。それと、出力に制限をつけた方がいいかも」

「なるほど。たいして増幅できない程度の出力なら、こんなに高価なロッドをわざわざ買わないだろうな」

「焚き火に火をつけるために買う人はいないと思います」

「いい案だ。出力の方は、魔石を入れる大きさで調節できるだろう。他人が使えないようにするのも、方法はある。その線で、もう少し改良してみよう」


 授業が終わって、いったんロッドは回収。

 私のは持っていていいと言われたけど、『絶対に盗まれないように』と注意された。

 うん。気をつけよう。


 私がロッドの危険性に気づいてしょんぼりしていたら、セドック先生が心配しなくていいと言う。

 そもそも、このロッドを使いこなせるぐらいの魔力量の人は、この学園ですら少ない。

 私は貴族といえばみんな結構魔力を持っているのかと思っていたけど、そうではないらしい。

 この学園の魔術科に来ている人は、ほんの一握りの数少ない魔術者なのだと。

 だから、一般の人が誰でも使えるようになる心配はないよ、と言ってくれた。

 それなら、イーサンみたいな人が騎士団を目指すのに役立ってくれたらいいな、と思う。

 魔獣の被害が多い辺境伯領だから、強い魔術士が増えたら、国を守れるしね。

 考えたら帯剣が許されているこの世界。

 今更武器が危険だとか考えても仕方ないか。

 

 それにしても、もしかしたら私の家族は特殊なのかもしれないなあ。

 カイルだって結構な魔力だし。家族全員魔力持ってるなんて、平民ではありえないかも。

 魔術科にいると、魔力を持っている人って、普通にどこにでもいるみたいに感じるけど、そうではなかったようだ。



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