実技試験対策をしてみよう
「攻撃班の授業って、やっぱり学期末試験あるよねえ?」
「そっか。うん、あると思う」
「このままだと、私たち最低点かもねえ……」
「言えてる」
「せっかく首席と次席なのに、成績下がったら困るなあと思って。それでちょっと考えてみたんだけど」
魔術の実技試験は、『学園で新しく覚えた魔法を使う』と点数が加算される。
誰でも得手不得手はあるが、得意なことだけをやっているよりも、新しいことに挑戦した方が評価されるのだ。
それで、マリナにブリザードを練習してみたらどうかと、提案してみた。
マリナが氷の嵐を起こすところ、見てみたいんだよねえ。かっこいいと思うんだけど。
「アリスはどうするの? さっき授業でやってた技、かっこよかったよ。炎の剣みたいだった」
「なるほど。炎の剣か……」
腕を前に出して、指先から炎を出すことで、確かに少し飛距離は延びる。
あれを剣にまとわせて振り回すなら、ボールを投げるよりはコントロールがマシ……
いやいや、ダメだ。
剣に炎をまとわせることができてしまったら、間違いなく騎士団に入れられてしまう。
剣の修行なんてまっぴらです。
だったら、魔法使いらしく、杖はどうだろう。
ファンタジー映画で見たことのある、『ワンド』というやつだ。
この世界で見たことはないけど。
私が振り回せるぐらいの長さと重さで、魔力伝導率の良い杖を用意できたら。
その先から炎を出すことができるだろうか。
しかも、魔鉱石をつけることができたら、魔力が少ない人でも増幅できるんじゃないだろうか。
私は、増幅する必要はないけど。
うん、これ、セドック先生相談案件だ。
金属加工だもんね。
「その、炎の剣のアイデア、使えるかも」
「本当? なんか思いついた?」
「うん、ちょっと実験つきあってくれる?」
「いいよ。今から?」
「うん、裏庭の不用品置き場に行って、剣の代わりになる棒がないか探してみる」
とにかく、棒に魔力を流すことができなければ、話にならないもんね。
まず、不用品置き場に捨ててあった、ホウキの柄の部分は、アルミ製だ。
手に持って、その先端から火を出すイメージをしてみると、ライターの火ぐらいの大きさなら出せた。
チャッカマンみたいだ。
うーん。アルミは魔力の伝導率が低そう。
壊れたフェンスに使われていた鉄棒があったので、それも試してみる。
さっきよりは、少し大きい火が出せた。
ただし、問題があって、長時間火を出すと、棒自体が熱くなって持っていられない。
なるほど。剣みたいに持つところが必要というわけか。
「剣から火を出せるかどうか実験してるの?」
「ううん、剣じゃなくて、魔術士用のロッド?みたいのが作れないかと思って。そうしたら、少し飛距離が延びるんじゃないかと思ったんだけど」
「ふうん。私にはよくわからないけど、アリスって時々そういう面白いこと思いつくもんね!」
「マリナは、棒の先から魔法出せる? たとえば、風とか氷の粒とか」
試してみると、風ぐらいは出せるようだ。
手から直接出すより威力は弱いけど、そこは魔石で増幅できるといいんだけどなあ。
「風に雪みたいな、細かい氷を混ぜることはできる? さっき言ってたブリザードなんだけど」
「どうだろ。練習してみる。シャワーが出せるなら、それもできるはずだよね」
「私、このロッドを改良できないか、セドック先生に相談してみる。まだ期末試験までに時間あるし、間に合うといいんだけど」
「うん、できるだけやってみよう! 私も頑張って練習する!」
◇
マリナと別れて、不用品の棒を持って、セドック先生のところへ。
いきなり金属の棒を持って職員室に行ったものだから、他の先生に不審な顔をされてしまった。
「魔力伝導率が高い金属といえば、まずはミスリルだな。だが、産出量が少ない上に、高価だ。私でもそうそう手に入らない」
「そうですか……」
「アリス嬢のことだから、わざわざロッドを使いたいというアイデアには、理由があるんだろう?」
「まず1つ目の理由は、飛距離を延ばせるということなんですけど……」
手のひらからファイヤーボールを出すよりも、指先に集中した方が、まっすぐ飛ぶし、飛距離も出る。
だから、ロッドを持つことで、さらに飛距離を出せるのではないか、と説明してみた。
「しかし、わざわざ棒に魔力を流すことで、威力はかなり落ちるのではないか? アリス嬢ぐらいの魔力がないと、普通は使えないだろう」
「それなんですけど、魔石を埋め込むことで、魔力は増幅できませんか?」
「……できるな。多分」
「私、クズの魔石をたくさんもらったので、これをロッドの芯に埋め込めたらなあと考えたんですけど」
「なるほど。アイデアは良い。暴発しなければな」
「暴発」
「金属に閉じ込めた魔石に、さらに魔力を流し込んだら、暴発する可能性もあるだろう」
「そうですか。じゃあ、威力を増幅する方は無理ですね」
「いや、諦めるのは早いぞ。一番威力を増幅しやすいのは、先端に魔石を使った場合だな。ただし、劣化しやすいという欠点はある」
「なるほど……劣化したら付け替えられるようにしないとダメですね」
「これ以上は、専門技術がないと無理だろう。武器屋に行ってみるか?」
「いいんですか?」
「ああ。私も興味がある。もし作れるようなら、論文にして特許をとっておくといいだろう。荒削りだが、着眼点は良い」
「ありがとうございます。ただ、需要は少ないかもしれませんね」
「ははは。確かにな。そんなものを使いたいのは、アリス嬢ぐらいだろう」
セドック先生の知り合いの武器職人がいるので、相談してくれることになった。
ただ、飛距離を延ばすのには道具を使うより、風魔法を鍛えた方が早いぞ、と言われてしまった。
確かにそうですね。




