ノーコンは直らない
後期から仕方なく参加した、攻撃班の実技の授業。
表向きは騎士科と合同訓練となっているんだけど、魔術師は後方支援担当で、直接敵と戦うことはない。
敵が魔獣であれ人間であれ、一対一で戦うのではなく、広範囲に足止めしたり撤退させたりすることを目的とする。
入試のときの様子を思い出すに、剣を持った敵相手と一対一で戦えるほど、魔術師は俊敏でもなければ圧倒的な攻撃魔法を持つわけでもない。
ごくまれに、風魔法持ちの騎士が『エアカッター』という風のナイフで、スパッと相手を切り裂いたりするが、それだって致命傷を与えるほどではないらしい。手数を増やす手段のひとつなんだろうな。
なので、魔術師の戦いは、火魔法が中心になる。
魔獣も人間も、火を見れば怯むため、軍隊であれば『みんなで力を合わせて』広範囲に火を放つのだ。
「ようこそ、攻撃班へ」
ニヤリと笑みを浮かべた教師は、あの実習のときに勧誘してきた人だ。
つまり、辺境伯様の甥っ子だ。
私とマリナは途中参加なので、他の人たちとは別に、まず個人指導を受けることになった。
「まず、敵がやってきたときに、一番使いやすい攻撃魔法は?」
「私はファイヤーボールです」
「私は、アイスバレット」
「よし。では、それをまず、的に当てる訓練をする」
やって見せろ、と言われたので、小さめのファイヤーボールを投げてみたんだけど、まったく当たらない。
周囲の人もこっちを見てるので、恥ずかしい。
マリナは的に当てることはできるが、威力が弱い。小石を投げているようなものだ。
思えば私は前世でも、球技が苦手だったのだ。
高校の授業でテニスやバレーボールをやらされたが、飛んでくるボールを打ち返すなんて、そんな器用なことはできない。
止まっているボールを打つ、サーブですら、まったく入らない。
もちろん練習はしてみたが、もうこれは完全に、才能の問題だと思う。
動体視力っていうんだっけ?
先生は、魔力の無駄だと思ったのか、野球のボールみたいなのを持ってきて、これを的に当てる練習をしろと言われる。
で、仕方ないので、延々とボール投げをしてるんだけど、10回に1回当たるかどうかという感じで。
腕とか肩が痛いし、しんどいし。
マリナは尖った氷の矢じりのような形を作るように言われてたけど、苦戦しているようだ。
つまり、戦う気がないから、イメージできないんだよね。
まあ、言われたから一応参加しているだけなので、出来なくてもいいんだけど……
この授業が成績に響くと嫌だなあ、と思う。
せっかく首席なのに。
そもそも、この中で最も殺傷能力が高いのは、マリナの凍結魔法だ。
本人は気づいてないと思うし、私もマリナにそんなことはさせたくないけど。
だって、人間って水分でできてるんだよ? 血液も身体も。
マリナは等身大の氷を出せるし、魚を凍らせることだってできるんだから、当然人間を凍らせることだってできるはずだよね。
水魔法を使った治癒士は、身体の水分を扱うのに、なんでそんなことに気づかないんだろう。
私は火魔法と水魔法の両方を使えるので、実はお湯をわかすことができる。
火と水は相性が悪く、両方使える人は少ないので、貴重なスキルだ。
つまり、『血液を沸騰させる』ことだって、やろうと思えばできる。
ファイヤーボールで火傷させるより、確実に殺せる。
火からは逃げることもできるけど、体内で沸騰したら、逃げられないからね。
人間に対してそんなことをすれば、『悪魔』だと罵られるのは確実だから、やるつもりはないけど。
でも、もしまたいつか魔獣に襲われるようなことがあったら、試してみたいとは思う。
実は私も最強だったりして。
……そんなことを考えながら、ボールを投げては拾いに行くのを、繰り返していた。
あーだるい。
授業も終わりかけという頃になって、先生は私たちのところへ戻ってきた。
一向に上達する気配がないのを見て、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そんなにノーコンじゃあ、味方に被害がでるぞ」
「はい、すみません」
その通りです。
だから、私たちに戦闘をさせようなんて、無駄なのです。
「アリス嬢。この位置に立って、的に向かってまっすぐ腕を伸ばしてみろ」
「こうですか?」
「そうそう、的を指差すイメージで、そのまま指先から的に向かって全力で火を出してみろ」
指先から出すということは、ホースで水をまくようなイメージだろうか。
それを的まで届かせようと思ったら、細く長く放つような感じで……
おお! 届いた!
あれだ。強力なガスバーナーみたいな感じ?
「うむ。そっちの方がまだマシだな。動きながら相手に攻撃魔法をぶつけるには、ファイヤーボールが最適なんだが、多分アリス嬢は走りながらファイヤーボールを当てるなんていう芸当はできないだろう?」
「おっしゃる通りです」
「だったら、物陰に潜んで隠れたまま奇襲をかけるとか、崖の上から下に向かって火を放つとか。そういう後方支援を想定するといい。火を投げようと思わないことだ。危ないからな」
「ありがとうございます。そうします」
うん。なかなかいい妥協案だ。
本来ファイヤーボールは、飛んでくる鳥型の魔獣討伐なんかに向いている技だと聞いた。
小さいファイヤーボールだと、剣を持った相手や大型魔獣には勝てない。
私みたいに、魔力量で勝負するタイプは、ファイヤーバーナー(勝手に命名)の方が向いてるかもね。
ついつい、アニメの技とかに感化されて、最初に覚えたのがファイヤーボールだったのだ。
マリナはなんとか先の尖った氷の弾丸を出せるようになったみたいだけど、イメージに時間がかかりすぎて、まだまだ戦闘に使えるレベルではないと言われていた。
私的には、風魔法を鍛えて『ブリザード』を完成させる方がいいと思うなあ。
あとでこっそり話してみよっと。
久々の体育の授業、疲れました。




