鉱山令嬢、いいと思います
アイスクリームを食べながら、ふたりでのんびりと馬車から景色を見ている。
ドライブしている気分だ。
「アリスを見てると、すごい量の荷物を運んでることなんて、忘れてしまいそうね」
「私も自分でそう思う。収納スキルっていいよねえ。ここだけの話だけど、私、収納スキルって世界一素敵だと思う」
「……そうね。私もアリスと出会ってから、このスキルが好きになったわ。昔はこんなちょっとだけ荷物を運べるスキルなんて、何の役にも立たないって思ってたけど」
「私ねえ。昔、すごく狭い部屋に住んでたの。それこそ荷物だらけで、ベッド置くのがやっとでね。その時に、神様にお願いしたんだ。世界一の収納くださいって。それで、神様が叶えてくれたの。だから、このスキルが大好き」
「そうだったの……じゃあ、私もきっと神様が必要だから与えてくれたのね。こうやって、魔石を運べるぐらいになったし」
「私たちって恵まれてるよねえ。手ぶらで旅行できるもん」
「そんなふうに思えるようになったのは、アリスに出会ってからだわ。私、昔から男爵家の跡継ぎだったでしょう? それで、父が鉱山男爵って呼ばれてるのがすごく嫌で」
「どうして? 夢があるじゃない」
「でも、鉱山ってどうしてもあんまりいいイメージないじゃない。令嬢なのに鉱山令嬢なんて呼ばれたら最悪だと思わない?」
「あはは。鉱山令嬢。確かに」
ローレンって、しっかりしてて凛としたイメージあるけど、そんなこと気にするんだなあ。
私だったら、「鉱山令嬢よ!」って自慢するけど。
でも、よくよく話を聞いたら、カイウス辺境伯に鉱山の管理を任されているだけで、鉱山自体は男爵家の財産でもなんでもないらしい。
下請けの中小企業みたいなもんだよね。
それは大変かも。
「あ、そうだ。忘れないうちにこれ。黒曜石。大きめのやつ持ってきたの」
「ありがとう! うわーうれしい」
「魔石も小さいやつは売り物にならないから、どうぞ。研究頑張ってね」
ツヤツヤの黒曜石は、前世でも見たことがあった。
その時はあまり興味がなかったけど。
今見ると、すごく素敵な石に思える。可能性を秘めているというか。
ハンベル領に入ると、森や草原が広がっていた。
山が多いカイウス領と比べると、のどかな田舎という風情だ。
牧畜が盛んらしく、ところどころに牛や馬を放牧している牧場が見える。
もしかして、上質のミルクの仕入れができたりして。
ハンベル伯爵は、キャロラインのおじいさんで、まだ現役らしい。
ハンベル領自体は、可もなく不可もなくといった感じで、そんなに野心のない伯爵様だとか。
そういえば、キャロラインも伯爵令嬢のわりには、こんな平民に親切だもんね。
最近私も、少しは貴族のことに詳しくなってきましたよ。
初めてカイウス領に移住してきたときは、すごい都会って思ったけど、王都に比べたら全然田舎らしい。
東京と大阪の違いみたいなもんかな。
夜が更ける前になんとか目的地に着いて、倉庫のようなところで荷物を引き渡した。
私が収納から魔石を出したときには、すごく驚かれたけど。
こんなに早く全部届くと思っていなかったらしく、えらく感謝された。
宅配便の配達員になった気分。
それから、ハンベル伯爵の方で手配してくれていた宿に泊った。
すごくいい宿だったので、もしかしたらキャロラインが気を使ってくれたのかも。
翌日はもう帰るだけだったので、宿の人に教えてもらって、少し乳製品をゲットした。
濃厚なミルクと、チーズ!
この世界って、冷蔵庫が普及していないせいで、こういうものは生産地でしか買えないのです。
カイウス領でも、ミルクは売ってるけど、そういうお店は自分のところで乳牛を飼ってるんだとか。
ある意味新鮮なんだけど、収納持ってない普通の人は、本当に不便だろうなあと思う。
まあ、チーズは保存食だから、ある程度は日持ちするけどね。
今回の旅が楽しかったから、ローレンにはまた運ぶ用事があったら声かけてね、と言っておいた。
お代は、クズの魔石で。
まだ学生だから、お金儲けは考えていないけど、考えたらずいぶん物々交換してるなあ。
まるでわらしべ長者になった気分。
◇
寮に帰って、机の上に魔石と黒曜石を並べてみる。
どっちも黒い石だけど、魔石の方はキラキラしている。
見た目の違いはそれだけだ。
このキラキラ成分を、黒曜石に付与できたらいいわけだよね。
ずっと前に論文のテーマとして考えていたのは、亜空間内の荷物の転移だ。
だけど、それは今の私にはとてつもなく遠い目標。
とりあえず、この魔石をテーマに何か研究できるといいな。
せっかく魔法がある世界にいるんだもの。
魔力の秘密を解明したいよね~
とりあえず、明日は図書館へ行こう。




