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付与って、なんだか素敵な響きなんですけど

 楽しい休みはすぐに終わってしまう。

 農園の手伝いをしたり、カイルの勉強を見たりしていたら、あっと言う間に夏休みが終わってしまった。

 お母さんは寂しがっていたけど、「もうひとり弟か妹が欲しいな」と言ったら、真っ赤な顔をしていた。

 うちの農園は儲かってるんだし、もうひとりぐらい子どもがいてもいいと思うんだけどなー。


 新学期になって、選択授業の提出があった。

 よほどのことがない限り、科目は変更できないんだけど、空いている時間に追加することはできる。

 渋々だけど、私とマリナは戦闘班の魔術実技の授業を追加した。

 週に1回だけね。

 カイルのこともあって、どんな内容なのか知っておくのは悪くない。


「久しぶりね、アリス」

「あ、ローレン! よかった、戻ってきたのね。領地の方が忙しかったの?」

「まあね。もうだいぶ落ち着いたけど」


 この学園は貴族主体だから、出席日数には割と寛容だ。

 特にローレンみたいに次期当主だと、領地の仕事が優先される。

 貴族には貴族の苦労があるよね。

 前にイーサンからちらっと話を聞いていたけれど、鉱山で良質の魔石が見つかったらしい。

 魔石というのは、魔力を帯びている石で、魔道具の燃料として使われる。

 まあ、言ってみれば、乾電池みたいなものかな。

 それで、ローレンは魔石運びを手伝っていたんだそうだ。

 おかげで、ずいぶん収納量が増えたと喜んでいた。

 今では馬車2台分ぐらいは余裕だとか。



 新学期最初の選択授業は、錬金。

 久しぶりにローレンとケイシーと3人の授業だ。

 ……と思ったら、イーサンが増えていた。

 あれ? イーサンって火と風適性って言ってなかったっけ?


「よう、久しぶり!」

「イーサン様、土魔法使えたんですか?」

「いや、使えない」

「じゃあ、どうして」


 あっさり使えないと言われてしまった。

 何しにきたんだろう?


「いやでもさ。錬金って魔力量少なくても使えるんだろう? もしかして俺でもできるかな、と思ってさ。アリス嬢だって3属性使えるんだから、苦手でもやればできるってことかな、と思ったのさ」

「ああ、それは賛成します。向き不向きはあっても、できなくはないと思います。うちのお母さんは水魔法が苦手だって言ってたけど、ちょっとぐらいは水出せるんです」

「錬金は、確かに少ない魔力量でも使える。だから、魔力が少ない人向けの科目だと思われがちだ。だけど、繊細な魔力操作が必要だから、簡単というわけではないぞ」


 突然セドック先生登場。

 セドック先生って、いつもいつの間にか会話に割り込んでくる。


「わかってます、先生。錬金を使える人は、魔力操作が人よりも緻密だと聞いたことがあります」

「その通り。頭の中に、錬金する成分を明確に思い浮かべる必要があるからな。バカではできない。逆に言えば、地道に勉強と訓練を重ねれば誰でもできる。さて、後期の授業のテーマだが、何か要望がある人はいるかな?」

「はい! はい! 先生、魔石やりたいです」

「アリス嬢。魔石の何がやりたいのかな?」

「魔石から、魔力って抽出できますか?」

「ふむ。まあ、できるな」

「じゃあ、逆は? 魔石に魔力を注入ってできるんですか?」

「またアリス嬢はとんでもないことを言い出したな……それは、理論上はできる。とだけ言っておこうか」

「実際は無理、ということですか?」

「先生、私、魔石持ってますよ? 見せてあげた方が早くないですか?」


 ローレンが収納から掘りたてホヤホヤの魔石を出して、見せてくれた。

 黒光りする石で、表面が虹色にキラキラしていて、とてもキレイ。


「すげえな。めちゃくちゃ純度高そう」

「でしょう? 最近うちの鉱山で出たのよ」


 ケイシーは魔石を見たことがあるのか、驚いた顔をして見ている。

 ローレンはちょっと誇らしげな表情だ。

 先生は教室の棚にある古い魔道具から、使い古しの魔石を取ってきて見せてくれた。


「ここまで使えば、魔石の寿命だ。表面がボロボロになっているだろう? ちょっと叩けば割れる」


 先生が机の角に2、3回コンコンっとぶつけると、魔石は割れた。

 なるほど。再利用は不可能ということか。

 魔石に魔力を込める仕事があるって、小説で読んだことあったんだけどな。

 あれは小説の中だけの話だったのか。


「つまりだ。魔石というのは、魔力で固まっている状態だから、魔力を抽出してしまえば土に返るんだよ」

「でも、理論上はできるんですよね?」

「それはだな、使い古した魔石を再利用するのではなく、魔石と似た成分の石に付与という形で、魔力を持たせることはできる」

「付与」


 がーん。と頭の中に前世の知識がやってきた。

 付与術って、めちゃくちゃレアなんじゃなかったっけ。

 なんか聖女様が出てくる小説で読んだような……

 むむむ……と思い出そうとしていたら、先生が不思議そうな顔をして私を見た。


「アリス嬢。百面相してないで、考えていることを言ってみなさい」

「ええと。ポーションを作るときに、最後に魔力を流しますよね? あれは付与とは違うんですか?」

「なるほどな。確かに似ているが違う。なぜなら、魔力が付与されていたら、それを飲んだら魔力が増えるはずだからな」

「あ、そうか。定着はしていないということか」

「ポーション作りで魔力を流すのは、成分を結合させて効果を持たせるためだ。その時点で魔力は消費して消える」


 おお。ずっと疑問に思っていたことがひとつ解決して、スッキリした。

 なんで魔力を流す必要があるのかと思っていたけど。


「魔力を物質に定着させるのは、非常に難しい。だが、研究はされている。国の機関でな」

「上級魔術院とか、ですか?」

「そうだ。行く気になったか?」

「なりません。遠慮します」


 はあ……。私がやってみたいことって、どうして国の研究とかレベルなんだろう。

 魔力が付与できたら、ほんと素敵なんだけどな。

 たとえばマリナの氷結魔力とか氷結魔力とか……

 冷凍庫作れるじゃん!


「まあ、せっかく興味を持ったのだから、魔石についてしばらく勉強しよう。ローレン嬢もそれがいいだろう?」

「はい、望むところです」


 それから、魔石の魔力を抽出する方法、というのを「理論」だけ教わった。

 土から鉄を抽出するのと違って、目に見えない力だから難しい、ということはわかる。

 でも、これ、抽出だけでもできたら、魔力回復できるよね。

 まあ、私は魔力チートだから必要ないけど。

 それよりやっぱり付与が気になる。

 図書館で調べてみようかな。


「先生、ちなみに魔石と似ている成分の石って、どんなものがあるんですか?」

「そうだな。一番近いのは黒曜石か。他にもあるにはあるが……アリス嬢。言っておくが、練習でどうこうできるものではないぞ」

「はーい」


 見破られたか。

 練習してみようと思ったのに。

 だって、私、魔力チートだもん!


 

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