付与って、なんだか素敵な響きなんですけど
楽しい休みはすぐに終わってしまう。
農園の手伝いをしたり、カイルの勉強を見たりしていたら、あっと言う間に夏休みが終わってしまった。
お母さんは寂しがっていたけど、「もうひとり弟か妹が欲しいな」と言ったら、真っ赤な顔をしていた。
うちの農園は儲かってるんだし、もうひとりぐらい子どもがいてもいいと思うんだけどなー。
新学期になって、選択授業の提出があった。
よほどのことがない限り、科目は変更できないんだけど、空いている時間に追加することはできる。
渋々だけど、私とマリナは戦闘班の魔術実技の授業を追加した。
週に1回だけね。
カイルのこともあって、どんな内容なのか知っておくのは悪くない。
「久しぶりね、アリス」
「あ、ローレン! よかった、戻ってきたのね。領地の方が忙しかったの?」
「まあね。もうだいぶ落ち着いたけど」
この学園は貴族主体だから、出席日数には割と寛容だ。
特にローレンみたいに次期当主だと、領地の仕事が優先される。
貴族には貴族の苦労があるよね。
前にイーサンからちらっと話を聞いていたけれど、鉱山で良質の魔石が見つかったらしい。
魔石というのは、魔力を帯びている石で、魔道具の燃料として使われる。
まあ、言ってみれば、乾電池みたいなものかな。
それで、ローレンは魔石運びを手伝っていたんだそうだ。
おかげで、ずいぶん収納量が増えたと喜んでいた。
今では馬車2台分ぐらいは余裕だとか。
◇
新学期最初の選択授業は、錬金。
久しぶりにローレンとケイシーと3人の授業だ。
……と思ったら、イーサンが増えていた。
あれ? イーサンって火と風適性って言ってなかったっけ?
「よう、久しぶり!」
「イーサン様、土魔法使えたんですか?」
「いや、使えない」
「じゃあ、どうして」
あっさり使えないと言われてしまった。
何しにきたんだろう?
「いやでもさ。錬金って魔力量少なくても使えるんだろう? もしかして俺でもできるかな、と思ってさ。アリス嬢だって3属性使えるんだから、苦手でもやればできるってことかな、と思ったのさ」
「ああ、それは賛成します。向き不向きはあっても、できなくはないと思います。うちのお母さんは水魔法が苦手だって言ってたけど、ちょっとぐらいは水出せるんです」
「錬金は、確かに少ない魔力量でも使える。だから、魔力が少ない人向けの科目だと思われがちだ。だけど、繊細な魔力操作が必要だから、簡単というわけではないぞ」
突然セドック先生登場。
セドック先生って、いつもいつの間にか会話に割り込んでくる。
「わかってます、先生。錬金を使える人は、魔力操作が人よりも緻密だと聞いたことがあります」
「その通り。頭の中に、錬金する成分を明確に思い浮かべる必要があるからな。バカではできない。逆に言えば、地道に勉強と訓練を重ねれば誰でもできる。さて、後期の授業のテーマだが、何か要望がある人はいるかな?」
「はい! はい! 先生、魔石やりたいです」
「アリス嬢。魔石の何がやりたいのかな?」
「魔石から、魔力って抽出できますか?」
「ふむ。まあ、できるな」
「じゃあ、逆は? 魔石に魔力を注入ってできるんですか?」
「またアリス嬢はとんでもないことを言い出したな……それは、理論上はできる。とだけ言っておこうか」
「実際は無理、ということですか?」
「先生、私、魔石持ってますよ? 見せてあげた方が早くないですか?」
ローレンが収納から掘りたてホヤホヤの魔石を出して、見せてくれた。
黒光りする石で、表面が虹色にキラキラしていて、とてもキレイ。
「すげえな。めちゃくちゃ純度高そう」
「でしょう? 最近うちの鉱山で出たのよ」
ケイシーは魔石を見たことがあるのか、驚いた顔をして見ている。
ローレンはちょっと誇らしげな表情だ。
先生は教室の棚にある古い魔道具から、使い古しの魔石を取ってきて見せてくれた。
「ここまで使えば、魔石の寿命だ。表面がボロボロになっているだろう? ちょっと叩けば割れる」
先生が机の角に2、3回コンコンっとぶつけると、魔石は割れた。
なるほど。再利用は不可能ということか。
魔石に魔力を込める仕事があるって、小説で読んだことあったんだけどな。
あれは小説の中だけの話だったのか。
「つまりだ。魔石というのは、魔力で固まっている状態だから、魔力を抽出してしまえば土に返るんだよ」
「でも、理論上はできるんですよね?」
「それはだな、使い古した魔石を再利用するのではなく、魔石と似た成分の石に付与という形で、魔力を持たせることはできる」
「付与」
がーん。と頭の中に前世の知識がやってきた。
付与術って、めちゃくちゃレアなんじゃなかったっけ。
なんか聖女様が出てくる小説で読んだような……
むむむ……と思い出そうとしていたら、先生が不思議そうな顔をして私を見た。
「アリス嬢。百面相してないで、考えていることを言ってみなさい」
「ええと。ポーションを作るときに、最後に魔力を流しますよね? あれは付与とは違うんですか?」
「なるほどな。確かに似ているが違う。なぜなら、魔力が付与されていたら、それを飲んだら魔力が増えるはずだからな」
「あ、そうか。定着はしていないということか」
「ポーション作りで魔力を流すのは、成分を結合させて効果を持たせるためだ。その時点で魔力は消費して消える」
おお。ずっと疑問に思っていたことがひとつ解決して、スッキリした。
なんで魔力を流す必要があるのかと思っていたけど。
「魔力を物質に定着させるのは、非常に難しい。だが、研究はされている。国の機関でな」
「上級魔術院とか、ですか?」
「そうだ。行く気になったか?」
「なりません。遠慮します」
はあ……。私がやってみたいことって、どうして国の研究とかレベルなんだろう。
魔力が付与できたら、ほんと素敵なんだけどな。
たとえばマリナの氷結魔力とか氷結魔力とか……
冷凍庫作れるじゃん!
「まあ、せっかく興味を持ったのだから、魔石についてしばらく勉強しよう。ローレン嬢もそれがいいだろう?」
「はい、望むところです」
それから、魔石の魔力を抽出する方法、というのを「理論」だけ教わった。
土から鉄を抽出するのと違って、目に見えない力だから難しい、ということはわかる。
でも、これ、抽出だけでもできたら、魔力回復できるよね。
まあ、私は魔力チートだから必要ないけど。
それよりやっぱり付与が気になる。
図書館で調べてみようかな。
「先生、ちなみに魔石と似ている成分の石って、どんなものがあるんですか?」
「そうだな。一番近いのは黒曜石か。他にもあるにはあるが……アリス嬢。言っておくが、練習でどうこうできるものではないぞ」
「はーい」
見破られたか。
練習してみようと思ったのに。
だって、私、魔力チートだもん!




