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カイルの火魔法

 マリナの家で2週間を過ごし、名残惜しいけど私だけ実家へ帰った。

 さすがに遊んでばかりじゃなくて、自分の家の手伝いもしないとね。

 残りの夏休みで、できるだけ薬草類を収穫して、乾燥させて収納しておく。

 いくら在庫があっても、いつか使えるし。

 マリナの家でもらってきた魚介類は、いったん全部キッチンで出して、収納し直しておく。

 これでいつでも家に届けられる。

 ちなみにマリナの家では、毎日大きな氷をせっせと収納した。

 この下準備が結構大変ではあるけど、いつでも届けられるという便利さには代えられない。


「アリス、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいか?」

「なあに、お父さん。改まって」

「いや、カイルのことなんだけどな……」


 カイルは2年後に、12歳になるんだけど、学園に入れるように辺境伯からわざわざ要請があったらしい。

 姉が3属性使えるということで、カイルにも期待されてしまったようだ。

 お父さんは、カイルに農園を継がせようと思っているし、騎士団に入れるつもりはないと思っていた。

 だけど、カイル自身は、学園にも騎士団にも興味があるらしい。

 判定では、適性が火。スキルは剣士。

 お父さんが言うには、風魔法も少し使えて、熱風を起こせるとか。

 

 熱風。なんか使い所がありそうでなさそうなスキルだな……

 ドライヤーとか暖房の代わりになるか?

 だけど、確かに剣のスキルがあって、火と風適性なら、まさに騎士団が欲しがる人材だよね。

 どこからバレたんだか。教会か。

 そう言えば昔、神官おじいちゃんが、能力のある子どもを見つけたら報告するとか言ってたっけ。


「カイルの好きにさせたらいいんじゃない? もし農園を継がないっていうなら、私がやればいいんだし。騎士になって認められたら、騎士爵に叙爵されるっていうチャンスもあるよ」

「いや、あいつは爵位なんか望んでないだろう」

「でもさ。学園に純粋な平民って、ほんとに少ないよ。私の学年ではマリナとふたりだけ。男で平民は辛いかも?」

「お前は辛くないのか?」

「私は……マリナがいるし。それに平民でも首席だもん。誰も馬鹿にしたりしないよ」

「そうか、そうだったな。お前が学園に行ったから、カイルが自分も行かせてくれって言ってるんだよ。だけど母さんが反対しててなあ……騎士になんてさせたくないと言って。辺境伯領は戦争があるかもしれないだろう?」

「戦争……か。そうだよね」


 もし戦争なんか始まったら、私だっていつ駆り出されるかわからない。

 それまでに、なんとか逃げ道を探そうとは思ってるけど。

 カイルの場合は、逃げ道なんてなさそうな。むしろスキル的に軍隊まっしぐらのコースだ。

 だけど、男の子が騎士に憧れる気持ちも、わからなくはない。

 学園の男子を見ていたら、やっぱり騎士は花形だ。


「それでな。ちょっとカイルの火魔法を見てやってくれないか? もし見込みがありそうなら、受験までお前と同じように家庭教師をつける。姉弟で差をつけるわけにはいかないからな」

「まあ……私は火魔法得意じゃないから、教えるのは無理だけど。どの程度のレベルか判断することはできるよ」

「アリスは火魔法が苦手なのか?」

「うん、使えなくないけど、ノーコンなの。うまく飛ばせない」

「そうなのか。アリスも火魔法が使えると辺境伯の手紙に書いてあったんだけどな。なんか、魔獣討伐で活躍したんだって?」


 げ。せっかく隠してたのに、辺境伯め!

 なんでそんなことお父さんに告げ口するのよ~!


「活躍っていうか……あれで懲りた。私は戦いには向いてないと思ったの。もうやりたくない」

「そうか。まあ、お前は女の子だからな。無理はしないでいい。進路のことは何か考えているのか?」

「まだわからないけど、もしできることなら、研究職かポーション作成の仕事をしたいかなあ。私、錬金の授業受けてるんだよ」

「うん、お父さんも、アリスにはそういうのが向いていると思うぞ。お前は昔から勉強が好きだったからな」


 ということで、翌日、カイルの火魔法を見せてもらった。

 私が火魔法を使っていたのを少し覚えていたらしく、両手に小さいボールぐらいの火を出せるようになっていた。


「それ、投げられるの?」

「うん、練習したから、的に当てられるよ!」

「じゃあ、あそこの石めがけて投げてみてくれる? 火は私が消せるから安心して」

「うん」


 カイルは次々にファイヤーボールを石に当ててみせた。

 10発ぐらい撃って、ほとんど当たっている。

 これなら多分、入試には通ると思った。

 私が試験を受けたとき、こんなにボコボコ火魔法撃つ人なんかいなかったような。


「アリス姉ちゃん。俺、学園に入れるかな? 試験難しい?」

「そうね。魔法の試験は大丈夫だと思う。使えることさえわかったらOKって感じだから。だけど、筆記試験の方はちゃんと勉強しておかないとダメよ?」

「うん、わかってる」

「それと、これは大事なことなんだけど、平民の特待生枠は3人だけなの。学園はすごく学費が高いから、普通は貴族しか行けないのよ。だから、行くなら特待生枠を目指すこと。いい?」

「うん……そっちはちょっと自信ないんだけど」

「あとね。学園に平民はすごく少ないの。貴族から馬鹿にされたりすることがあるかもしれない。それは大丈夫?」

「大丈夫。姉ちゃんだって大丈夫なんだろ? それぐらい我慢できるよ」

「わかったわ。じゃあ、私からもお父さんに話しておいてあげる」


 カイルの決意は固そうだった、とお父さんに話した。

 私の時のように家庭教師をつけて、それでどの程度学力がつくか様子を見ると、お父さんは言っている。

 カイルは騎士になりたそうだったけれど、私はカイルの魔力なら魔術科の方がいいかもしれないとアドバイスしておいた。

 魔法があれぐらい使えるなら、受験生の多い騎士科より魔術科の方が合格する確率は高い。

 それに、騎士科と違って、魔術科にはいろんな道があることを私は知ってる。

 騎士団に入るとしても、魔術士は優遇されるはず。

 もしカイルがストレートで合格したら、私が3年のときに入学してくることになるんだよね。

 同じ科なら、少しは学園で面倒を見てあげることができるかもしれないと伝えておいた。


 私は自分の能力が、神様にもらったチートだと知っている。

 だけど、カイルは違うよね?

 見せてもらった限りでは、結構な魔力持ってそうだったけど……

 なんでなんだろう。お父さんはたいして火魔法使えないのに。

 あ、でも。

 お母さんは、それなりに成長促進魔法を使えている。

 今更気付いたけど、これって、平民にはめずらしくない?

 母方のご先祖に貴族がいたりして……なんてね。想像でしかないけれど。



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