家族っていいな
「学園で不自由はしていないかい? 虐められたりしていないのかねえ」
「大丈夫。同じクラスの人はみんないい人よ。女の子だけでお茶会をしたり、ドレスを着てダンスのレッスンを受けたりもしたの。ドレスは伯爵令嬢の人が、お古を譲ってくれたわ!」
伯爵令嬢と聞いて、一瞬ご両親が青ざめたような顔になったので、「私も譲っていただきました」と言い添えた。
田舎の平民にとっては、雲の上の人のような存在だから、気持ちはわかる。
野外学習であったことは、心配させるから話さないと、事前にマリナと話し合った。
私の両親にもその話はしていない。
「そうかい。楽しくやってるんだねえ。お前はここで暮らしていたときは弟や妹の面倒ばかりで、子どもらしい生活をさせてやれなかったからねえ。学園生活を楽しんでいるなら、行かせてやったかいがあるというものだよ」
「その貴族のお嬢様方に、何かお礼をしなくてもいいのかい? 恵んでもらってばかりはよくないよ」
「大丈夫、お父さん! 私、アリスと友達になってから、特技ができたのよ! みんな喜んでくれるの」
「冷たい飲み物でもお出ししているのかい?」
私は、マリナと目を合わせて、うなずいた。
さっそくだけど、アイススイーツパーティーだ!
「これなんです。マリナとふたりで作ってます」
収納からアイスやら、凍らせたフルーツシャーベットなどを出して、テーブルに並べる。
「アリスはねえ。収納スキルを持っていて、私の凍らせたものをしまっておけるの! たくさん作ってきた!」
「おおお、これは初めて見るお菓子だけれど……」
「みんなで食べよう! トニオとアンナも呼んできて」
アイスクリーム嫌いな子どもはいないよね。
ふたりとも最初はおっかなびっくり手を出した感じだけど、夢中で食べ始めた。
ご両親も、「これは美味しい」と言って、何度も褒めてくれた。
「よくこんなお菓子を思いついたねえ」
「アリスが考えてくれたの。卵とミルクがあれば作れるのよ!」
「お前のスキルがこんな風に役立つなんてねえ。やっぱり学園に行ってよかったんだね」
「まだ3ヶ月だけど、いろんなことを覚えたの。だから、3年しっかり勉強したら、きっと私は仕事に困ることはないと思う。もし仕事に困ったら、ここへ帰ってきてこの冷たいお菓子を作って売るわ! いいでしょう?」
トニオくんとアンナちゃんが、「それがいい!」と言って、また飛び跳ねている。
そうだよね。やっぱり家族は一緒がいいよね。
「アリスさんから見たマリナは、学園ではどんな感じですか?」
「私たちは平民がふたりしかいないから、いつもだいたいふたりで行動してるんです。でも、最近になって少しずつクラスメイトと話すようになってきて。マリナは基本的におとなしいので、誰からも好かれていると思います!」
「おや、お前がおとなしいとは」
ご両親は顔を見合わせて笑っている。
私とふたりのときのマリナは、そういえば前向きで明るくて、よくおしゃべりするよね。
「それに、マリナはとっても優秀です。多分、学園でも有名なぐらい」
「何言ってんの、アリスの方がずっと優秀じゃない! お母さん、アリスは入学してからずっと首席なのよ!」
「そうかい。優秀な上に優秀なお友達もできたんだね。お父さんとお母さんも鼻が高いよ」
それからマリナが親子水入らずで話せるように、私はトニオくんとアンナちゃんと遊ぶことにした。
ふたりは海辺育ちだけあって、普段は近所の子どもたちと一緒に、海に行って水遊びをするらしい。
うちには畑しかないから、カイルはひとりで退屈しているだろうと思い出す。
いつか、カイルにも海を見せてあげたいな。
夕食は、ご両親がとれたての魚介をたくさん料理してくれた。
なんと言ってもおいしいのは魚の塩焼き!
お味噌汁ではないけれど、アサリのような貝が入った具沢山のスープも絶品。
ああ……やっぱり、食べ物は海辺の方がおいしいよね。
「このあたりは何も見るところがないから、アリスさんには退屈じゃないかい?」
「いえ! 私はどうしても海が見たくて、マリナにお願いして連れてきてもらったんです。それに私の両親が魚を食べたがっていたから、たくさん買って帰るつもりです」
「そうか。アリスさんは収納があるから、魚を持って帰れるんだね? それなら俺が船を出して釣ってきてやろう。とれたての魚を持っていくといいよ」
「はい! うれしいです。それに、トニオくんが私を潮干狩りに連れていってくれるんだそうです」
「ああ、今頃はよく捕れるからねえ。トニオは結構貝を見つけるのがうまいんだよ」
マリナは風魔法の練習をしたいから、お父さんと一緒に船に乗るらしい。
私も誘われたけど、船酔いしそうな予感がしたから、遠慮することにした。
私は風魔法使えないから、何の役にも立てないしね。
トニオくんと貝を探す方が楽しそうだし。
たくさん持って帰って、スパゲッティ・ボンゴレ、がいいな。
ワインで酒蒸しとか。




