もうひとつ逃げ道があった
「マリナ、体調どう?」
「うん、もう大丈夫。ずっと寝てたからお腹すいちゃった」
「そうかと思って、食堂の今日のランチ、収納に入れて持ってきたよ。私もお昼ご飯食べそこねちゃったから、一緒に食べよ」
「お昼食べそこねたって、何かあったの?」
寮に戻って、マリナの部屋でランチを広げる。
今日は熱々のスープパスタだ。
この世界にはラーメンがないんだけど、スープパスタがその代わりに人気がある。
実は私とマリナに、戦闘班への勧誘があったと伝えると、マリナは青ざめた顔になった。
断っても辺境伯から横槍が入って、セドック先生が困っていたという話も。
「ど、どうしよう……嫌だよね、アリスだって」
「もちろん、はっきり断ってきたけど。ただ、私たちが魔術科の首席と次席で、しかも特待生だから、断りにくいという事情があるらしい。でもさ。まだ卒業までに時間はあるから、他に辺境伯領の役に立てる仕事があれば、そっちに進むこともできるって言ってたよ」
「じゃあ、ふたりでスイーツカフェやってる場合じゃないね……」
「うん。スイーツカフェのために奨学金もらってるなんて、さすがに言えないよね」
どちらかというと、私の火魔法が目をつけられていることと、研究職という逃げ道があることも、マリナには説明した。
「あーあ。私たち、水属性なのに治癒班に入ってなかったのが裏目に出たのかなあ」
「でも、治癒班こそ従軍するんじゃないの?」
「まさか。貴族令嬢は花嫁修業のために治癒班に入ってるようなもんらしいよ。卒業までに婚約者見つけて、卒業後は結婚するんじゃないかなあ」
「なるほどね。ドレス着てるようなお嬢様が従軍するはずないか」
「あ、そうだ。もうひとつ逃げ道あるよ。私たちも卒業までに相手見つけて結婚したら、さすがに従軍要請はこないんじゃない? 子どもでもつくっておけば、さらに安全かも」
うーん。卒業するとき、15歳でしょ?
私はさすがに15歳で結婚する気はない。
この世界では普通のことなのかもしれないけど。
「でもさあ。私たち、卒業するまで出会いないよね? だって、平民ふたりだけじゃん」
「下位貴族の嫡子以外だったら?」
「そんな人ほど、貴族の婿入り先探してるんじゃない?」
「そっか。それもそうだね」
ちらっと子爵家3男坊の顔が浮かんだけど、アレは絶対婿入り先探してるな。
考えたら15歳までに結婚相手探すなんて、とても無理だ。
卒業までトップクラスの成績を維持しようと思ったら、出会いを探している場合じゃない。
卒論のこともあるしなあ。
私の希望は、ごくごく普通の真面目な平民と一緒になって、実家の近所に住むことだ。
ダンナ様はどんな仕事をしていてもいい。
私は農園で働きながら、なんとか食べていくぐらいの収入は得られると思う。
タダ同然の薬草でポーション作ってギルドに売るのもいいな。
在学中に上級ポーションとか、作れるようにならないかな。
そしたら、絶対戦争に行かされることはないよね。
ポーション作りが最優先になるもんね。
マリナとふたりで、そういう道を目指すのもアリだったりして。
「だいたい、そもそも12歳の女子に騎士団とか従軍とか言ってくるほうがどうかと思うよ……」
「だよねえ。同じ学年に騎士団目指してる女子なんかいないのに。やっぱり平民だからかなあ」
「違うよ。私たちが優秀すぎるから!」
「あはは。そうかもね」
確かに。優秀かどうかは置いといて、私はチート能力だからな。
目立つなという方が難しい。
逃げ道を探しつつ、うまく生きていかなければ。
2、3日して私とマリナは再びセドック先生に呼び出されたが、今回はなんとか戦闘班に異動命令を避けられたと聞いて、少し安心した。
詳しい話はわからないが、セドック先生が辺境伯に直接話をしてくれたようだ。
ただし、3属性使える収納スキル持ちと、氷結スキル持ちがいるということは、辺境伯に伝わってしまったと。
今のところ1年生で女子なので、様子を見るという判断のようだ。
特待生でいる以上、できることをやらないというのは、あまり良い印象ではないかもしれない。
戦闘班に入るかどうかは別として、攻撃魔法の授業に出てみてはどうか、と言われた。
確かに、いざというときに制御できないのでは、私も不安なので、セドック先生のその意見には素直に従うことにした。
そうして、私とマリナは週に1度だけ、攻撃班の授業にも出てみることになったんである。
まあ、それぐらいは譲歩しないと仕方ないか。
自己防衛にもなるしね。




