どうやら本当に転生したようです
「アリスちゃん、ご飯よー!」
「はあい! 今行くー」
アリスちゃんですよ。気恥ずかしい。しかも3歳児。
転生先って、もうちょっと選べないものか。
18歳から、いきなり3歳に逆行です。
両親はまだ20代の美男美女。
とっても仲がよくて、ラブラブの夫婦だ。
ラブラブの証拠として、横でふぎゃあ、と泣き声を上げているのは、弟のカイル、0歳。
母にそっくりで、ぱっちりお目々に金髪のふわふわ巻き毛、お人形のような赤ちゃんだ。
ちなみに、わたくしアリスティアちゃんも、金髪巻き毛の美少女です。
自分で言うのもなんですが、自画自賛したくなるような容姿ですよ。
どうやら私は、アゼル村という辺鄙な村の農家の娘に転生したらしい。
3歳児は外へ出してもらえないので、詳しいことはよくわからない。
父が狩りをしたり、野菜を育てたりして、村人と物々交換をして暮らしているようだ。
お世辞にも裕福とは言えないけれど、貧乏でもなさそう。
母の話を聞いた限りでは、僻地ではあるが、気候が穏やかで作物の実りが良いらしい。
だから、食べていくのには困らないんだと。
前世の私は、「農協」へ就職する直前だった。
まあ、高校時代には農業になどまったく興味はなかったけど、就職先を決めてからは、それなりに農業のことも勉強した。
少しはその知識が役立つといいな。
だから、農家の娘に転生したことに、不満はない。
「さあ、食べましょうね」
「今日は運良くオオヤマドリが狩れたからな。いっぱい食べるんだぞ」
鳥肉と野菜がたっぷり入ったシチューと、少し固いパン。
それでも、愛情のこもった手作りの料理は、涙が出るほどおいしい。
神様、この世界に転生させてくれてありがとう。
健康な両親と、カワイイ弟。
それがどれほどの幸せか、前世ひとりぼっちだった私にはよくわかる。
今生は親孝行するぞ。
「お母さんのシチュー、とってもおいしい」
「まあ、アリスちゃん。最近急にいい子になったわね」
「ちゃんと片付けも手伝ってるんだってな。えらいぞ」
ふと、疑問に思うんだけど、私がアリスちゃんに転生する前のアリスちゃんの魂はどこへ行ってしまったんだろう。
急に性格が変わってしまったら、両親が不審に思うのではないかと、私は極力3歳児の言動を装っている。
両親の顔や名前は転生したときから覚えていたし、元々のアリスちゃんの精神に、転生前の私の記憶がプラスされたということなんだろうか。
今の私は、どっちかというと前世の記憶が前に出ている。
それにしても、世界一の収納をくれるっていう約束はどうなったんだ。神様。
この狭い一軒家にはほとんど収納なんてなくて、外に小さな納屋があるだけだ。
農具や武器などを入れておく、本当に小さな小屋。
まさか、これが世界一とは言わないよね。
いつかすごいお金持ちになって、大きな屋敷に住んで、すごい収納を手に入れるのかな。
そうだったらいいな、と思うけど。
この頃の私はまだ、収納と言えば、タンスや本棚、クローゼットのことだと思っていた。