初めてのポーション作り
あれから、ローレンとはかなり打ち解けた。
どうやら、ローレンは人見知りなだけで、一度仲良くなると親切で面倒見のいい子みたい。
収納の練習を始めたんだけど、大量に入れるようなものがないので、学園の裏庭にある不用品置き場で、不用品を片っ端から詰め込んでいるらしい。なんと真面目な。
その詰め込んだ不用品は、どこへ出すつもりなんだろう。
それでも、荷馬車ぐらいの荷物は入れられたと、本人はニコニコしている。
ローレンの収納はまだ時間停止ができないらしいので、食品は入れられないんだって。
入れっぱなしで忘れていて、腐ったら悲惨だもんね。
時々、セドック先生に空間魔法のことを質問したりしているんだけど、空間魔法や時間魔法を学園で教えないのは、国が大部分を秘匿しているかららしい。
誰もが研究できるようになってしまうと、犯罪や戦争に利用されてしまうからだ。
それなら、私が卒業論文に書くのはマズいんじゃないかと思ったけど、自分のスキルについて書く分には大丈夫だと言われた。
ホントかな。
今日は、水魔法でポーションを作る授業がある。
マリナも一緒なので、楽しみにしていた授業だ。
治癒を専攻している女子も参加するので、クラスの貴族女子はほぼ全員だ。
あ、ローレンは水魔法の適性がないらしいので、不参加だけど。
この世界は、ポーションという『体力回復薬』がある。
材料は数種類の薬草で、大怪我を治したり、欠損した腕を生やしたりというような、小説に出てくるような劇的な効果はない。
『治癒力を高める』という、曖昧な効果だ。
その割に値段が高いので、それなりに効果はあるんだろう。
うちには材料の薬草がいくらでもあるので、ポーションを作る技術だけは、ぜひとも習得したいと思っていた。
下級ポーションというのは、滋養強壮剤みたいなもんだと思う。
前世で言うところの、「リ◯ビタン」とか、「ユ◯ケル」みたいなね。
一時的に元気が出るけれど、怪我を治すほどの効果はない。
それでも、騎士団には大量に納品されているらしいから、商売としては下級ポーションでも成り立つ。
私が知りたいのは、医薬品として認められるほどの効果がある、中級以上のポーションだ。
魔力のない人には作れないポーション。
いったいどんな魔力を込めたら、そんなものができるんだろう。
ちなみに、授業で習う中級ポーションは、怪我を塞いだり、火傷を治したりできるらしい。
水魔法を使うということだから、皮膚の水分に働きかけるんだろうか。
というわけで、今日は初めての授業なので、下級ポーションから。
乾燥した薬草を煮詰めて、ろ過する。
なんとなく、漢方薬の調剤士にでもなった気分だ。
傷に効果のあるヒポテ草。
炎症に効果のあるブルーローズ。
抵抗力を高める効果のネギク草。
基本はこの3種類が下級ポーションの材料だ。
それに、胃腸薬だったり、痛み止めだったりを混ぜて、いろんな種類のポーションを作れるらしい。
ヒポテ草やネギク草は、育てるのが簡単で丈夫なので、村に住んでいたときにも出荷していた。
ブルーローズは、ローズに似た匂いがするというだけで、薬草だ。
青くて小さな花が咲くけど、全然薔薇には似てない。
辺境伯領で多く栽培されているらしく、うちも引っ越してきてから栽培を始めた。
今日作る下級ポーションは、この3種類を均等に混ぜて、そこに魔力を流すという説明だ。
なぜ、魔力を流すとポーションの効果が高まるのか?という説明はない。
なぜだ。なんだかモヤっとする。
混ぜただけじゃダメなんだろうか。
私がこんな風に、根拠を求めてしまうのは、前世の習性だろうか。
まあ、百聞は一見にしかずというし、とりあえずやってみよう。
3種類の煮汁を混ぜると、茶色っぽい濁った色なんだけど、魔力を流すとそれがきれいな透明になる。
そしたら、出来上がり。色が変わるのでわかりやすい。
魔力を流す所要時間は1分ほどかな。
特に難しいということもなく、魔力が少ない人でも作れるんだそうだ。
ただし、水魔法の適性のある人だけね。
お父さんとお母さんには無理なんだろうな。
このポーションは、大昔から研究されてきたので、品質検査も簡単にできるらしい。
きちんと作れば、商業ギルドや冒険者ギルドで買い取ってくれるから、魔術科の学生アルバイトとして推奨されているそうだ。
卒業したら、私はこれを仕事にしてもいいな。
薬草農園の娘なんだし。
出来上がったら、自分の作ったポーションを飲んでみるように言われた。
ちょっと薬臭いニオイはするけど、味はほとんどない。
もしかして、魔力で色と味を調整してるだけなんじゃないか、という気もするけど。
それでも、ちょっと元気にはなった。ユ◯ケル程度にはね。
作るのは思ったより簡単だったけど、煮沸して滅菌したビンに詰める作業がめんどくさい。
もしかして、薬草代よりもビン代の方が高いんじゃないかと思ってしまったのは、内緒だ。
「ねえ、アリスの農園に、このポーションの材料はあるの?」
「うん、いっぱいあるよ。うち、これがメインの商品だもん」
「だったら……少し安くわけてもらえないかなあ。うちの両親、最近いつも腰が痛いって言ってるから、ポーション作ってあげたいなあと思って。高くて買えないから」
「ん? いくらでも摘んで持っていってくれていいよ。今度うちに来たとき、一緒に収穫する?」
「そんなわけにはいかないよ。ちゃんとお金は払う」
「大丈夫、大丈夫。実はね……」
あまり大きな声で言えないから、こっそりとマリナに伝える。
うちは、土魔法で、植物の成長促進できるから。
根っこさえ残っていたら、いくら収穫しても、またどんどん生えてくると種明かしした。
つまり、一度植えたらタダみたいなもんなのよ。
マリナは「あっ!」と驚いたように大声を出しそうになって、あわてて両手で口を塞いでいる。
カワイイな。そういう仕草。
「いつもマリナには氷をもらってるし、また今度実家に帰ったときに、干物をすこーし分けてもらえるとうれしいな」
「そんなこと、お安い御用よ! じゃあ、物々交換だね!」
私にとっては、薬草よりもマリナの氷は価値がある。
収納にいくらでも入れておきたいぐらい。
なんたって、かき氷の材料なんだから。
薬草なんて、ぶっちゃけ誰でも育てられるしね。
持つべきものは友達だ。ほんと。




